EPISODE 9 接触
焼肉屋〈にくやま〉に到着して、食事をして、かたや便所かたや財布を車に取りに行っていると、雨音と星太郎だけになる。
「迷惑でしたでしょうか」
「エッ?」
「強引にここまで連れてきて」
「いやあ‥‥‥普通なら、そうなんでしょうけど。‥‥‥でも‥‥‥なんだか、心地は良かったです。こんなに自分に構ってくれる人がいるなんての、思わなかったし‥‥‥それに、こんなに楽しい食事ってのがあるなんて俺知らなかった」
「そう、ですか‥‥‥それは良かった」
「昨日はあんなことを言ったけど、実を言うと‥‥‥ほんとうは、俺も‥‥‥繭木くん、あなたに出会えて良かったって思うんです。この世界って善人もいるんですね」
星太郎はそう言って、烏龍茶を飲み干した。
「友達っていうのも、生まれて初めてだし‥‥‥」
「そうなんですか? 意外だなぁ、いっぱいいそう」
「本気ですか? いないですよ、そんな。友達なんて」
「じゃあこれから一緒に友達増やしていきましょうよ! 最強の友達軍団を作り出してやるんです」
「それ、いいですね」
「頑張っていきましょう! 滝さん!」
ふと。
「星太郎」
「エッ?」
「星太郎でいいよ」
「あっ、じゃあ僕のことも『雨音』でいいですよ!」
「雨音くん」
「はい。どうします? とりあえず五万円分飲み食いします?」
「君のご両親びっくりしちゃいますよ」
取り敢えず豚トロ追加しちゃって!
そうして飯を食っていると、不意にギィンというあの感覚。ここからかなり近いところにどうやら天使が出たらしい。
「出ましたか」
「出ましたね。では、少し行ってきます」
「大丈夫なんですか? ‥‥‥ケガ、治ったばかりで」
「大丈夫」
サムズアップ。
◆
帰郷の毎に実家近くを散歩していると、変化があって面白い。
小さなパン屋があったところはラーメン屋になっていた。
三橋浩二はそのラーメン屋に入って、メニューに盛岡冷麺があるのが分かって、それを注文する。
浩二は高校時代の友人・北斗夕子に呼ばれ、東京から遥々引っ越してきたので、この冷麺が美味かったら常連になるのもいいなと考える。
そうしていると、すぐ近くで爆発するような音があって、白色の化け物があられた。
浩二は「最近テレビで見るやつだ」とギョッとした。
特撮の撮影のようなものではない。
それが人を殺すと、現実のことだと理解した。
アア、アア、血の‥‥‥臭いがしている‥‥‥。
悲鳴が‥‥‥鳴り響いていて‥‥‥鼓膜が揺れる‥‥‥。
ギチ、ギチ‥‥‥と、強化皮膚の擦れる音が鳴っているが、それがこちらに近づいていく。一歩ずつ、一歩ずつ。
こちらに手の平が近付いてくる。その手の平には口がある。ベロンと向いた舌が、糸を引いた唾液が、浩二の意識を誘導する。
この天使のために死ななければならないと意識した。そうして首を差し出そうとすると、「待て!」と声がした。
ハッとして、その声の方を見ると、そこには黒い化け物がいた。
北斗夕子から聞いている、「クロベコ」という存在だ。
こちらも実在していたんだ、と浩二は口を固く閉じた。
「何処ニデモ現レル‥‥‥!! クロベコォ! 邪魔ナンダヨ!!」
「それが俺だ。貴様、また‥‥‥人を殺したな‥‥‥!?」
「ソレガ‥‥‥私ダ‥‥‥!!」
クロベコと天使が戦いを始めた。
それは人間の目には負えない速度での戦いで、しかし一瞬、隙ができると‥‥‥浩二は自分の持っていた旅行用トランクケースから「道具」を取り、クロベコに投げ渡した。
「これは‥‥‥!?」
「ヒートワイヤーだ! 私が作った! ボタンを押せ! スプールからワイヤーが出る! 赤い方のボタンを押せば、ワイヤーに熱が通るから‥‥‥それで鞭としてつかうんだ!」
「科学だ! ‥‥‥どうもありがとうございます!」
ヒートワイヤーは工事用等の理由を取って付けた兵器である。
なんとなく学生時代に作っていたものを夕子が覚えていて、「帰ってくるときに持ってこい」と言われていたのだ。
「役に立つとはな」
ワイヤーに熱が入っていき、クロベコはそれを振るった。天使には強いダメージを与えることができて、最後の一撃を食らわせたあと、浩二はクロベコが変身を解くのを見た。
「この、ヒートワイヤーありがとうございました。たいへん役に立ちました」
それは、まだ高校生ほどの子供だった。




