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クロベコ  作者: 蟹谷梅次
〈前〉流星─METEOR─
7/28

EPISODE 7 困惑

 天使はどうやら老婆を狙っていた。

 唐突に現れて、やることと言えばいつもいつも殺しばかり。

 背後から迫って、背中を蹴り飛ばす。

 変身しているので、いつもより身体は動かしやすい。

 天使は畳の上を転がりながら、「グエーッ」と喚いていた。その隙に老婆を落ち着かせて、警察に電話をよろしく頼んだ。


「キタナ、クロベコォ!」

「来たよ、天使。そりゃあ、来るでしょうよ‥‥‥あんた方はいつもいつもこういうことばかりして、なんの見境もないのか!? いじょうたいっての、なんだよ!」

「ウ‥‥‥!? 何故知ルカ!」

「教えろ!」

「私ニ勝テタラ教エテヤル! クロベコ‥‥‥ヨ‥‥‥シネェ!」


 殴りかかってくる天使を、回し蹴りで飛ばす。天使は空中で伸身を翻して、両手から触手ようなものを伸ばした。それは白い茨であった。それを祓い除け、畳に踏みつけにして天使の顔面を蹴りつける。


「こんなもので! こんなもので!!」

「グェ! 聞イテイタ‥‥‥ツ、強サジャナイ!」

「人が成長することを知らんのだから!!」


 天使は拳を振るう。それを躱して、顔面に拳を叩き入れた。


「グェーッ!」


『俺は‥‥‥強く‥‥‥なった‥‥‥!!』


 天使はまたも茨を出して、星太郎の首に巻きつける。ギチギチと絞められながらも、その茨を引きちぎり、腹に踏みつけるような蹴りを入れた。


『なった、けど‥‥‥こんな使い方で、正しいか‥‥‥!?』


 力を使う意味を考える。もし、天使という存在が終わったあとに、すべてを終わらせただけの黒い化け物がのこったら、そのときはどうするべきだ?


『こんな‥‥‥危ない力を、持ち続けるのは正しいか‥‥‥!?』


「シネーッ! クロベコ!」

「それしか言えんの‥‥‥!?」

「ウウウ!! ウウウウウウウウ!!」


 天使に腹を蹴られると、星太郎は即座に奴の両腕を掴み、頭突きで角を胸に突き刺した。


 ウギャア、と天使が喚いて、蹴りをつける。


 星太郎はその瞬間僅かに身体を動かし、「回避」の行動に入った。そして、見事に宇宙色の閃光を発生させると拳に炎を宿して、殴り抜いた。


 すると、その破壊のエネルギーが油機を砕く。


「言え! いじょうたいってなんだ!!」

「ウ、ウウ‥‥‥イ、ワ、ナ、イ‥‥‥!」

「バカにして‥‥‥!!」


 その後、天使だった男は警察に引き取られ、肋骨を数本ポキポキしてしまっていた星太郎は病院に引きずり戻された。


「大丈夫ですか? ‥‥‥怪我‥‥‥」

「大丈夫です。俺はこう見えて頑丈なので」

「本当に頑丈だよ、君」


 夕子がため息のような声色で言う。


「全身の骨という骨が折れているのに、どうして生きていられるんだ。恐るべき生命力だ!」

「クロベコの影響かもしれませんね。身体能力と生命力が成長してるんです。骨も強くなってほしいかったかもしれませんね。‥‥‥奴等は新幹線と同じ速度で調子に乗って行く。このくらいの体じゃないとやっていけないのかもしれませんね」

「しかし、そうは言っても君は学生なのだから‥‥‥あんまり怪我ばかりして学校にいけなくなるのではどうしようもないな。我々がちゃんとサポートできればいいのだけれども」

「はは。一緒に頑張りましょう」


 夕子はやることがあるので、病室を出ていった。

 残された二人は、しばらく沈黙をした後に、雨音が「帰ります」というので、星太郎は呼び止める。


「繭木くん」

「はい」

「君はもう、俺のことを忘れて‥‥‥普通の人として生きてください。君は『いじょうたい』とやらでも、俺の友人でもない」

「友人です」

「ン?」

「うちの家訓です。恩返しもせんままに、受けた恩を忘れてノウノウと生きるっていうのは‥‥‥そりゃあ‥‥‥いけんでしょ」


 そんな言葉、初めて聞いた。そんな目を、初めて向けられた。そんな目を初めてみた。こんな声色を初めて聞いた。


 困惑。


「俺を知っていれば、君はまた奴等に狙われるかもしれんのです。君に知られない内に守りますので、どうか俺のことなど忘れていただきたい」

「僕を守るなら、僕のそばにいてくれたほうが都合だって幾分かよろしいでしょう。ずっと僕のそばにいてください」


 知らない、精神性。

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