EPISODE 6 天井
目覚めると、そこは病室だった。
どうやら夕子が気を利かせてくれたらしい。
上体を起き上がらせると、激痛。
「アッ、大丈夫ですか。無理なさらないで」
ベッドわきのパイプ椅子にあの中学生。
どうやら心配をして見に来てくれたらしい。
「北斗さんは‥‥‥? わかるかい‥‥‥?」
「あの婦警さんなら‥‥‥えっと、なんだか怒って部屋を出ていってしまいました。じつは、四日寝てたんです。今は水曜日で‥‥‥夏休み初日らしくて‥‥‥でも、貴方のご両親が見舞いに来ないので、怒って‥‥‥」
「うちの両親は俺に興味がないから。何をやっても無駄ですよ」
しばらく沈黙。
して。
「あの、僕たちまだ自己紹介し合ってませんでした」
「はは」
必要ないだろ、と思いながら、とりあえずで笑う。
「僕、繭木雨音って言います。こう見えて男なんです」
「そりゃあ、そうでしょうけど‥‥‥。はは。俺は滝です。ただの滝です。それで構わんでしょう。俺は親しい人間にしか名前を呼ばせんのです」
「‥‥‥‥‥‥」
「滝だけを憶えて‥‥‥明日からは、それすら忘れてください」
一重まぶたの少年。
眉が少し歪んで、星太郎は少し視線を逸らす。
そうしているところに夕子が入ってきて「起きてんじゃ〜ん!」と背中を叩かれた。大ダメージ!
「君の両親、ありゃあなんだ‥‥‥!? 息子のことをなんだと思っているか! 君のこと、私が引き取るぞこの野郎」
「もう高校生ですんで、自立ってことで構わんです。それより聞きたいことがあったんですよ。あの、『天使』のれんじゅうの、身元っていうのは、わかってるんですか?」
「ああ。三人とも県外で行方不明になっていた人間だった。それも、二〇〇〇年の頃にね。いまさら十一年前の行方不明の案件を引っ張り出すのも易くはなかった」
「ふむ‥‥‥やっぱり、なんかいけない組織の犯行のようですよ」
「らしいね。何か警察にはわからない理屈を施された方法で、油民間人を誘拐して、骨入りの油機で天使に変えてしまってるのかも」
こわいはなし!
雨音は、小さく挙手をした。
「いま思い出したんですけど‥‥‥あの白い化け物、僕のこと『いじょうたい』って言ってました」
「いじょうたい? なんです? そりゃあ‥‥‥」
「わかりません、けど‥‥‥羅刹の母と呼ばれました」
「君、男なんでしょう?」
「はい」
男が母?
星太郎と夕子は首を傾げる。なんかエグめの性的嗜好とか性的指向とかの話になってくると、コメントがしづらくなるが、そういう話でもないだろう。羅刹というのは、「岩手」という名前の由来になった昔話に出てくる悪い鬼である。三ツ石の神に成敗された羅刹鬼は「もうワルさをしません」という約束事のために岩に手形を押したのだ。
その羅刹を、産む?
やっぱりエグめの性的嗜好じゃない? そうなんですかね? 自分たちを天使だとか言ってるから、きっと頭がパーなんだよ。
だとかなんとか話し合いながら、二人の首は傾いたまま。
「民俗学者に手助けしてもらえんですかね」
「こちらで既に当たっているが‥‥‥」
わからない、らしい。
黒い牛が赤い熊と戦ったという昔話があるにはあるらしいが初出がどこだか分からんので、「ベコ=牛」だというのは易い見当かもしれない。
『でも明らかに‥‥‥クロベコは黒牛だしな‥‥‥』
その時、ギィンという気配。
「天使です。天使出ました」
「エッ、わかるのかい?」
「はい。脳みそが一回転するみたいな感覚で。‥‥‥先に行きます」
痛む身体を押して、窓枠に足をかける。
「ここ三階だよ」
「平気ですよ。クロベコならね」
落ちながら、変身。窓から身を乗り出して、夕子は「無茶なさる」と思わずつぶやいた。
基本はグーグルマップとか見ながら書いています。私はタブレットとスマートフォンの二刀流なんですョ!




