EPISODE 3 好転
クロベコになった影響か、筋肉の発達がはやかった。
松野ジムの松野時風会長は、「努力の成果が目に見えるのは良いことだ」とサムズアップ。
このサムズアップの仕草は松野ジムの流行りらしく、先輩会員も事あるごとに親指を乱立させている。防災林くらい。
なので、星太郎もその真似事をするようになっていた。
そういう日々を送っているなかで、あの本屋での一件で知り合いになったクラスメイトが度々挨拶をしてくるようになった。
それに適当に返事をする。
筋肉が付き始めると、多少健康的になったせいか、体調不良にかかりにくくなったので、星太郎はそれが一番うれしかった。
両親はそんな星太郎に見向きもしなかった。
しかし、清子はそうではなかった。
「お兄ちゃん」
「すいません、明日も早いので寝させてもらいます」
「あっ‥‥‥」
星太郎はもう家族の事を「一生分かり合えない存在」と決定づけていたので、対応もそれなりに乱暴だった。
妹の眼に見向きもしないで、ただ自分の主観だけで。
それはよくない。
そういう日々。思っていたより、白い化け物のようなのは現れない──というより、あの日から一体も現れていなかった。
星太郎は「このまま一生出てこないのかもな」と漠然と考えた。
それは、なかば願望のようなものだった。
そして、そういう願望は真っ先に裏切られる。
松野ジムからの帰り、空は暗かった。
公園そばの街灯がこの世の終わりみたいに凸凹のアスファルトを照らしている。その横で、声がした。
なにやら騒がしい声だが、その方を見てみると白い化け物。
どうやらこんな遅い時間に遊んでいる学生の群れを襲っている。星太郎は自転車から降りて、白い化け物に対して自転車を投げつけた。
「大丈夫か。君たち‥‥‥おっと‥‥‥」
隣のクラスのれんじゅうだったので少々気まずい。
最初は嫌かもしれないが、慣れれば気にならなくなる。
小さい国なので、こういうことはよくある。
同級生のひとりは頭から血を出していた。
バックパックから救急箱を出しその内の女子に渡す。
「お前は、俺だ」
「ウ、ウウ、邪魔ヲ、スル‥‥‥」
「するでしょうに。どうしてあんたらは人を傷つける。そんなんじゃどんな考えがあったって、賛同者なんか現れるものか」
「綺麗事ヲイウ!!」
白い化け物が蹴りを繰り出したの躱して膝を蹴りつける。怯んだ所で膝を蹴り上げた。奴はそれを回避し、星太郎の鳩尾に蹴りを叩きつけた。星太郎は吹き飛びながら伸身を翻し、態勢を整え直す。
「まだ弱い‥‥‥」
「ソウダ! 貴様ハ弱インダァッ!」
奴は地面を蹴りつけ一気に間合いを詰めると、星太郎の顔面を殴り付けた。スパン‥‥‥と音が通り行けると、星太郎は服を脱ぎ、奴の白い腕に巻きつけ、腰を回し脚を首に掛けながら、身体を絞った。
遠心力をかけて、不気味な軌道で奴を地面に叩きつけた。
「じゃあ俺より弱い君はなんだい?」
「オ、レ、ハ‥‥‥駒ダ‥‥‥!」
「駒?」
白い化け物はゆらゆらと立ち上がり、拳を握りしめる。
「駒、ナンダ‥‥‥!」
「笑いなよ。笑顔は幸せへの片道切符だぜ」
「ダ、マ、レェ‥‥‥!!」
「はは」
前のやつより弱い!
確信とともに顔面を蹴りつけると、どうやら気絶したらしく、変身が解けた。その隙に星太郎は警察を呼びつけた。
ズボンのポケットを漁ると、油機に似た機械を見つけた。
「やっぱりあった‥‥‥! ゆ、油機だ‥‥‥!」
アルミの塊である。
それを握りつぶし、「組織的なら、警察とかにも言ったほうが良さそうだぞ」と判断し、警官が来たのなら話をしようと思った。
同級生たちには一応残ってもらい、頭から出血している奴の為に救急車を呼んで、携帯電話から顔を上げると、同級生たちは感謝の言葉を言った。
星太郎はそれに、雑な返事をして、シャツを拾い上げて着直した。
「鍛えてるんだね」
同級生の一人が言った。
「みんなには内緒ですよ。今夜だけの秘密です」




