EPISODE 28 喫茶
ンギャア‥‥‥ンギャア‥‥‥。
電車内。赤子が泣いて、その母親が焦りながら、赤子をあやしている。すぐそばにいた青年が親子の方に寄っていって、赤子に手品を見せた。懐からトランプカードを取り出して、それを一気に五枚に増やしてみたり、その五枚を指パッチンの内に花にしてみたり。
すると、赤子は泣き止んで、喜んだ。
「アアッ、ありがとうございます。すいません、すいません」
「いや、もう全然! 大丈夫ですよ! そもそもね、俺たち赤ちゃんとか子供は元気に泣いてるのが嬉しいんです」
「ほんとうに、ありがとうございます」
「わはは」
青年は朗らかに笑ってみせた。
電車が駅に着くと、車内にいた乗客に向けて「また何処かで」と手を振りながら降り、ホームに立つとググッと背を伸ばした。
「ふーっ。ここが俺の新天地か〜! 空気がいい!」
令和五年、十一月七日。
あたりも肌寒くなった頃、青年・津笠旭は階段から滑り落ちて両腕の骨折と尾てい骨の骨折をしてしまった姉・山内灯の店の手伝いをするために盛岡に来ていた。
灯の旦那の山内佐一はびっくりするほど不器用で、なんと店を任せて二日だが、びっくりするほど失敗続きだと言う。
今回「助けに来てほしい」と一番に願っていたのは佐一だった。
もともと東京での興行もある程度やりたいこともやり終わり、手品師も辞めようという頃だったので、いっそ岩手に永住してしまうのもいいなと言う事になったのだ。
旅行用トランクケースを持ち上げて、姉の店に向かう。
カラン‥‥‥カラン‥‥‥と、ドアを開けると、男がいた。
「佐一さん、こんにちは!」
「アキラくん! た、助かった‥‥‥!」
「困ってるらしいですね」
「そうなんだよ、このままだと店が死ぬ!」
平成三十年の十二月に開店したばかりの〈喫茶 タキオン〉かこのままでは十周年も迎えずに死んでしまう‥‥‥!
佐一はずっとそれを恐れていたのだが、最近流行りの病が恐ろしくても、そこは、自粛してもらいたいが近所の主婦は時折利用するいい店であった為、よほどの大失敗でもなければ店が終わることはないように思えた。
「お店の二階、住めるようにしたよ」
「ありがとうございます! 今日からでも働けますよ!」
「ホ、ホントに!? 良かった‥‥‥この店はね、灯の夢なんだ」
「姉ちゃんと佐一さんの店、守っていきましょう」
昔、十二年前。この岩手というところで、白い化け物が暴れて人を殺して回る事件があった。その際に黒い化け物が人を守り、警察はその黒いのと一緒になって、白い化け物を倒していた。
東京生まれ東京育ちの旭だが、ニュースで流れるそれを、ほとんど毎日見ていた。白い化け物が人を殺しました‥‥‥白い化け物が人を殺しました‥‥‥また人が死にました‥‥‥また人が‥‥‥いつか自分が岩手というところへ行って、そこに住む人たちを笑顔にできたらいいなと考えた。
自分にできることと言えば、手品くらい。
手品で人を笑顔にできると嬉しかった。
「じゃあ俺、さっそく野菜とか買い足してきますね」
「あっ、ありがとぉ〜‥‥‥」
「わはは、アカハイ、アカハイ!」




