EPISODE 27 黒牛
互いの強化皮膚にはヒビが入っていた。
おそらく、体の何処かに移動した油機にも。
両者ともに「あと三分」と理解。
それと同時に駆け出して、拳を叩きつけ合い、星太郎はセキユの右ストレートをわざと受け、宇宙色の閃光を発生させると、左拳を突きだした。セキユはそれを躱すが、しかし、星太郎は肘を曲げ、思い切り裏拳がセキユの右側頭部に刺さった。
セキユはプロペラのように回転し、星太郎は股間に蹴りを叩き込んだ。
「我が名は‥‥‥ハハ、アハハ‥‥‥セキユである! ここからの戦いは時間との勝負でもあるよ! 互いに残り時間は二分弱! 君も真名を解放したらどうかな!? アハハ‥‥‥アハハ‥‥‥僕と、クロベコで同格なの、初めて見た!」
セキユは星太郎に殴りかかり、クロベコの由来を語った。
クロベコは最初は白かった。セキユにとってもただの戦闘員その百くらいにしか見えていなかった。しかし、原初のクロベコは正義に目覚めてしまった。すると、身体が黒く染まって‥‥‥自分に反抗するようになった。
「ゲームで言う雑魚敵が! そんなに強くなるなんて思わなかった! 本当に楽しい人たちだ、クロベコ。好きだよ! でもねぇ、君たちはちょっと調子に乗りすぎたんだ。セキユ、僕の役割は羅刹様を蘇らせることなんだからァ」
星太郎は何も応えないかわりに、蹴りをたたきつけた。
強化皮膚が、ボロボロと崩れ始めた。
「君がとても怒っていた、子どもの事件あったろう? 遠野市でさ。あれは全員新しく見つけた異情体なんだ。全員素体が男っての、最悪だったし若すぎたけど、羅刹様を産んでもらったんだ。みんな死んじゃったから、見つけやすくしてもらえるように、首で木にかけておいたんだ。縄はさ、干し柿みたいな感じ。干しガキだよね」
舌打ちをして、顔面を蹴りつけた。
セキユの仮面が破れ、満面の笑みが出た。
星太郎の顔面にセキユの拳が叩き込まれた。
「君は知らなすぎるんだ。この世界をね。だから一瞬輝く星にしかなれない。かわいそうだね。‥‥‥星太郎か。君の人生をよく表したいい名前じゃない!」
対天使用弾丸が全部的外れのほうに向かっていく。
星太郎は手の平を突きだして、その弾丸を不思議な力で操ると、全てセキユの胸部装甲にぶつけた。セキユは拳を握りしめて、星太郎の胸部装甲を殴りつけた。
「無駄だよ、僕のここの装甲は、何処よりも強くって‥‥‥」
両者同時に、胸部装甲が崩れ落ちた。
「えっ?」
ダメージが溜まっていた。頻繁に変身していれば、そのたびにそのダメージは再生していく。しかし‥‥‥セキユはそうしなかった。人類を下に見すぎていた。変身せずとも殺せる相手に変身してやるバカはいない。それは星太郎でさえ同じだった。星太郎の場合は、変身して戦えば殺してしまうかもしれないという無意識の躊躇いに都合よく「油機の副作用があるかもしれない」という理由を取ってつけたいたが。
夕子はスコープから顔を上げて、「当てろ」と言った。一斉にそこに射撃が入る。
「うっ」
星太郎は拳を握りしめて、セキユの顔面を殴りつけて。セキユもまた殴りつけた。頭の中にあるのは、古い記憶だった。
『大丈夫』
頭を撫でてもらったことがある。羅刹という男。とても優しく、青空のような男だった。誰よりも優しく、異情体である自分を見世物小屋から連れ出してくれた。
『もう、大丈夫』
互いの拳が互いの顔面に入り込む。
両者同時に倒れ落ちた。
警官の一人が「やっと終わった」と呟いた。
しかし‥‥‥同時に起き上がると、潰れた油機を海に投げ飛ばして、砂浜をジタバタとかきながら、近づき、殴り合う。引っかき合い、傷つけ合い、そして、何度も頭突きをし合った。
「羅刹様はもう生まれたんだ。この世界、終わるよ! 時間稼ぎありがとうねぇ!」
星太郎は拳を構えて、何も言わず、殴り飛ばした。
そして、ひと言。
「二十五体目」
つぶやいた。




