EPISODE 26 赤熊
ある時、雨音に勉強を教えていると、ギィンという感覚があった。
いつものような感じではなく、まるでこちらを挑発しているような感覚だった。このように、攻撃的で無邪気なものはひとつしかわからない。
「出たんですか」
「今度は只者じゃない」
「まさか」
「セキユだ」
雨音は、星太郎の父がセキユに殺されたのを知っていた。
心配が顔に出ていたのだろう。
星太郎は「大丈夫」と微笑みを浮かべて、繭木家を飛び出した。そうして、ブルース一号は野を駆け、風をきり、そして、釜石市内の隠された海辺に出ていた。
砂の上にブルース一号を停め、そこで風を浴びていた男に向かっていく。男は星太郎のことに気がつくと、「よかった、きてくれた」と微笑みを浮かべて言った。
星太郎は険しい顔を崩さなかった。
「怖いよね、うーん。君も僕ももともと人間だったのに、君も僕もなんだか兵器みたいで参っちゃう。参っちゃわない?」
「‥‥‥‥‥‥」
星太郎は何も応えない。
「そっか、そっか。つまり君は戦うことでしかおちんちんが反応しない戦場性愛者なんだね。なんだか可哀想だね」
「‥‥‥‥‥‥」
星太郎は何も応えない。
「黒牛と赤熊。黒と赤で対立構造ができてるけれど、本当はそうじゃないんだよね。昔話じゃないんだから。君も僕も、もうそれに至ってる。つまり、鬼になったんだ」
「‥‥‥‥‥‥」
星太郎は油機を出した。
「君、異情体とお友達なんだね。でも、君の心は本当に友達で止まれるのかな。初めて人間と仲良くなったんだよね。その人が特別に見えるはずだよ。しかも相手は‥‥‥まぁいいか。負け惜しみになっちゃうね」
「‥‥‥‥‥‥」
セキユも油機を出した。
「じゃあ、君が鬼になった記念も兼ねて‥‥‥死のうか」
両者同時に油機から神経が飛び出し、強化皮膚が生成された。
クロベコ。四肢の赤い黒の戦士。
セキユ。四肢の黒い赤の狂人。
二人は拳を同時に叩き合わせた。同時に宇宙色の閃光が弾け飛び、ぐりんと回転して、また同時に拳がぶつかり合う。また宇宙色の閃光。ヒートワイヤーを取り出してセキユの右腕に巻きつけ、熱を通してら切断を試みるが、ヒートワイヤーの熱よりもセキユの強化皮膚のほうが強かった。パトカーのサイレン。次に発砲。
宇宙色の閃光が弾け飛んで、全ての対天使用弾丸がセキユの意思のもとで星太郎に向かっていった。
その弾丸をヒートワイヤーの道に乗せ、全部胸に直撃させる。
「うわ! すごいね、君‥‥‥お父さんたちより凄い」
「‥‥‥‥‥‥」
星太郎は何も言わなかった。
ただ拳を握り直し、夕子を見た。夕子は対天使用のバルカンを構えさせながら、自分もライフルを握っていた。
それからすぐにセキユの拳が星太郎の頬にぶつかった。よろけながら、星太郎も踏ん張り地面を踏みしめて、セキユの顔面を殴りつけた。セキユがよろめいた一瞬、頭突きを胸に突き入れた。
宇宙色の閃光。
セキユの膝が星太郎の鳩尾にめり込む。
宇宙色の閃光。
星太郎の角がセキユの胸に深く突き刺さっていく。
宇宙色の閃光。
両者同時に弾け跳んだ。
砂浜を転がりながら、仮面の中で血を吐いて、顔を上げる。




