EPISODE 16 息子
青空要の息子が生まれたという一報があった。
どうやら度々会っているらしい愛知に遺してきた恋人との間に息子が生まれたらしい。
それは希望のようだったけれど、しかし、母親は心労がたたって身体が衰弱していたうえでの出産で‥‥‥つまるところ、息子を産んでからすぐに亡くなってしまった。
一人遺された息子を引き取って、大悟はその子を本当に我が子のように育てて‥‥‥そして、愛した。
笑った時の顔が要にそっくりで、心の中にあいた穴が大きすぎることに気が付いた。
「瞳が、綺麗なんです」
「エッ?」
ある日、常連の客に語った。
「キラキラしているんです。この子の父親もそうだった。明るく笑う奴で、私はそんな彼の笑顔を見るのが好きだった。だから名前は‥‥‥『星太郎』にしたんだ。青空星太郎‥‥‥ほんとうなら、この子は私のようなのではなく、青空になるべき男だった‥‥‥」
目の前で親友が酷い死に方をしてしまったせいか、神経の衰弱が進んでしまい、警官を辞めて叔父がやっていた和菓子屋を継いだ大悟は、よく星のような赤子を愛しているので評判だった。
常連客はそれから何時もより多い頻度で店に来るようになって、ある日、どういう経緯があったのか、何年かかったのかは覚えていないが、結ばれた。
星太郎は日に日に要に似ていく。
それでセンチメンタルがおこって、親も早くに亡くなっていたので、受け取っていた要の遺品を整理していると、日記帳を見つけた。
そのうちの一文が目に入る。
「おれの息子というのだから、きっと俺のように何でもかんでも首を突っ込んでしまうようなのになってしまうのだろうか? もしそうなったら、きっと苦労してしまうだろうな。だから出来ることなら俺とは真逆の人生を歩んでほしいな」
その言葉が悪い方に聞いてしまったらしい。
いつの間にか、家族の形が歪になっていく。いつの間にか、星太郎の笑顔を押し殺すような親になっていく。星太郎が普通の人間として一生を送ることができさえすれば、それが夫婦の目標になって、星太郎の自信という自信を砕く。清子が生まれると、清子は溌剌とした子供だった。それが星太郎に植え付けられたコンプレックスを刺激する。
夫婦は、薄々自分たちの行いが間違っているのを分かっていた。
いきなり家族関係を改善しようとしても‥‥‥もう遅い。
「‥‥‥‥‥‥」
久しぶりに、昔の夢を見た。大悟は日曜日というのもあり、ただまぶたを下ろしていた。眠ってしまっていた。息子が帰ってきたのだろうか、音が聞こえると、窓からその様子を見る。
青いクソダサいバイクを押している。
最近、怪我が多い。この前から怪我が多い。
本屋に行けば、「危ない奴」からクラスメイトを守る為に自分から喧嘩を売りに行ったと言うし、民家に侵入してその家にいた中学生に乱暴をしようとしていた「危ない奴」と戦って大怪我をするし。
病院から抜け出してまた大怪我をするし。帰ってくれば帰ってきたでいつも、いつも‥‥‥。
〝お前にやってきたことは全部無駄〟
自分の理性が言う。
〝ただ親友の子供をいじめただけ〟
自分の理性が言う。
〝お前はただのクズで、あの子は優しい子〟
自分の理性が言う。
滝星太郎。
とても優しく、勇敢な青空要の息子。自分を自分の力で変えることのできる強い少年。誰かを愛する心を持った、優しい子。痛みを哀しむことのできる優しい子。とても優しく、そしてとても強い、青空要の息子。決して、「滝大悟の息子」などではなかった。
「どうか、頼むから‥‥‥優しくて強い子でいてもいいから‥‥‥頼むから、油機には、出会わないでくれ‥‥‥」
届かない声を吐き落とす。
「クロベコにだけは、ならないでくれ‥‥‥」




