EPISODE 15 死闘
要が目を覚ますと、そこは不格好な男の部屋だった。
布団のわきには、男がいて、要は思わず「大悟」と言った。
大悟は腕組みして、何を言おうかと迷いながら‥‥‥ようやく振り絞った言葉は‥‥‥。
「汗クセェな」
だった。
畳、沈黙を反射して‥‥‥。天井を見上げながら、要はぽつりぽつりと語りだした。クロベコ‥‥‥油機‥‥‥天使‥‥‥倒すべき敵‥‥‥その名はセキユ‥‥‥その話を信じるべきなのか、という疑問は彼にはなかった。
大悟は実際にその姿を見て、戦いを見た。
大悟と要の間には沈黙があった。
その沈黙を破ったのは、腹の音で、二人は何かと飯を食った。
そのなかで、ようやく言葉を決めた大悟は箸を茶碗の上において生姜の味噌漬けを飲み込んでから彼に言う。
「俺も戦う」
「ダメだ」
「いいやダメだ。戦う。俺は警察官だ。市民を守る義務がある」
要はこの不器用な頑固者の事を知っていたので、いくら言っても無駄なのだろうと気付きながらも、「いやだ」としか言えなかった。
この戦いは苦痛だ。この戦いは不毛だ。
命を削りあって、そうして、血の匂いしか残らない。血の跡ばかり増えていく。哀しみだけが募っていく。
そんなところに、親友を、世界で唯一の理解者を‥‥‥巻き込んでならないと、思うと‥‥‥彼は、それしか言えなかった。
「はやく戦いを終わらせるには‥‥‥俺一人が頑張れば良いんだ。誰も悲しませない戦いができるのは、俺の利点なんだから、俺は‥‥‥だから俺は‥‥‥だからこそ、俺は‥‥‥そうするべきだと思うんだ」
「はやく戦いを終わらせたいなら、警察官も巻き込め。お前が変身することができようが、お前はただの人間だ。俺はお前を民間人と思うよ。要、いいか、要。お前は優しいやつだから、あんな化け物を前にしても、拳を振るうの、嫌なんだろう?」
図星を突かれて、グ‥‥‥グ‥‥‥と黙り込んだ。
「だったら! 少しくらい、守らせろ! お前の背中を守るくらい俺にだってできるはずだ。そうだろう?」
二人は一緒に戦った。天使というのはとても強くて、いつもぼろぼろになったが‥‥‥それでも、要と大悟はいつでも戦いを挑んでいた。
いつの間にか、二人は天使に恐れを知られるようになっていた。
二人が揃っていれば最強だと思えるようになって‥‥‥二人はいつも一緒だった。まるで、群青になったみたいな赤い瞳。
しかし。幸運というのはそう長くは続かない。
セキユが動き出してしまったのだ。
二人はもちろんセキユに戦いを挑んだ。しかし‥‥‥奴は強かった。どういう理屈で戦っているのかも分からないほどに強かった。
どんなに攻撃をしても宇宙色の閃光が現れる。
二人はボロボロになって、それでも戦うのをやめなかった。
赤く大きな脅威は、無邪気な子供のように笑いながら、二人の死闘を「暇つぶし」と呼んだ。
二人の死闘は八時間にも及んだ。意識は朦朧、生命は薄弱。
ようやく大悟の弾丸が胸に当たり、要の拳が胸に当たると、セキユは「我が名はセキユである」と詠唱を始めた。
それは、天使等の特有の、真名解放であった。
「僕にここまでさせたの、君たち初めてだよ。すごいね、前のクロベコは僕が一発殴っただけで死んじゃったんだよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「面白いね、クロベコ。面白いね、滝大悟」
「‥‥‥‥‥‥」
「でも、面白いだけだからね。まだね、まだ‥‥‥異情体がいないから、羅刹は生み出せないし‥‥‥最悪、クロベコと僕が交わって、僕が産むってのもアリなんだけど、君たちからしてみたら僕には死んでもらいたいだろうし、僕もあまり難しいことはしたくないし‥‥‥せっかく作ってもらった機械を無駄にするし。じゃあ今のところは殺し合いでオチをつけようじゃないかということでね」
セキユはふわふわと笑いながら言っていた。
彼はまだ変身すらしていなかった。
「クロベコはそもそも、鬼になれてすらいないし」
セキユの姿がパッと消えると、次の瞬間、要の腹に大穴が空いた。大悟が「うわあああ」と叫びながら発砲を繰り返すも、それはもう当たらない。
「クロベコは死ぬから、僕もう行くね。君、顔が好みじゃないから殺すのやめる。クロベコの顔はかっこいいのに、君はなんというか、あれだね。目力が強すぎるね。だから好みじゃないです」
「あああ、あああ! ああ、ああ、要‥‥‥要!」
要は生きていなかった。
遺言すら、なかった。




