EPISODE 11 青年
未来は明るいのだろうか、と考えることがある。時折、そのように考えて、いくら考えても分からないので、しばらくすると思考をやめる。 きっと、「彼」を知らないままの自分なら簡単に明るいのだと思えてしまうのだろうけれど、雨音は滝星太郎を知ってしまった。
彼は多少歪んだところを持ちながらも、常に誰かのためなら拳をふるえてしまうような人間だった。
彼の平穏を犠牲にして得た未来を‥‥‥考えて‥‥‥。
眠りにつく。
日が昇ると、ボォっとしたまま散歩に出かけた。
道中で彼に出会えてしまえれば良いなと思いながら。
ここ最近、ずっと彼のことを考えているような気がする。
理由は分かっている。滝星太郎のような重力を持つ人間は、雨音の人生には初めてだったからだ。
たぶん優しくて、たぶんかっこよくて、だいぶねちっこい。そういう、いいところと悪い所がはっきりしている人間は、初めてだった。
友達になったは良いけれど、これからどう付き合っていくのがいいのかもわからない。
そもそも、自分は本当に友達だけになりたかったのだろうか。
あの時、目の前に彼が現れた時。
逆光に照らされた彼の頬を何かが伝うのが見えた。汗だったのか、それとも違う何かだったのかはわからない。けれど、彼の顔を見て、自分の救世主が泣きそうな顔をして悪を殴るのを見て、胸のなかにコスコスとした‥‥‥アスベストのような感情が、胸に入りこんでいる。
ふと、隣にナンバープレートのない白いバンがあった。
「あっ」
簡潔に言って、誘拐されたのだと分かった。
細まった目を無理やりこじ開けて、運転席を見てみると、白い化け物がいる。一人だけではなく、助手席にも、そして、後ろにも。
〝死〟
察し。
自分はこれからこの天使たちに殺されて‥‥‥いや‥‥‥違う、なにか、違う乱暴なことをされてしまうのだと、理解。
逃げようとも思ったが、天使の力は強かった。
その白いバンは山奥まで向かっていった。盛岡を法定速度を違反して駆け抜けて、山の奥まで無理やり上がっていくと、そこには小さな小屋があった。
雨音は降ろされて、無理矢理小屋の中に入れられた。
そこには男がいた。雰囲気がどことなく星太郎に似ていると思って‥‥‥その顔を見た。安心しそうになるが、即座に緊張、そして金縛りのように硬直。その顔には笑みを浮かべていた。
笑顔にはジャンルがあるのだと気付いた。
星太郎のような、貼り付けたようなアルカイックスマイルではなく、まるで面白いコメディ映画でも観ているような、笑み。
「異情体」
いじょうたい。
「この国に、一人生まれりゃいい方で、アメリカとか‥‥‥イギリスとか‥‥‥そういう国々を探してみても、なっかなか見つからんし‥‥‥見つかってもここまで健康的な身体をしているのは、まぁ、いないから‥‥‥君は才能があるって言えば天才は天才だなあ」
「な、なんです‥‥‥異情体って」
「身体に二つの性を持つ人間だよー。神様の余波を浴びた人間とか、その子孫がそうなるんだ。岩手は多いんだよ。まだ多い方。三ツ石の神様が羅刹鬼に手形を押させたときにねぇ、君の先祖がその場の野次馬の最前列にいたんだね、だから君は異情体なんだ」
「い、異情体は‥‥‥」
羅刹の母になる。
「‥‥‥‥‥‥」
「理解するの速くて良いね。大丈夫! 直接的な行為をするわけではなく、全部機械でどうにかなるんだ! 我々は天使で、そして俺はセキユっていう天使よりも上の存在で‥‥‥この世界の理くらいなら壊せるんだ」
「何言ってんだよ‥‥‥犯罪だろ!? こんな、誘拐だってそうだし‥‥‥」
「ちなみに、今回は君の頼りの綱の、ふふ、クロベコは来ないよ。俺がこの山に結界を張って、俺たちの変身信号が奴に向かっていかないようにしたんだ。君かこの山に来たときに、彼がこなかったのは、まったくもってその証明だね。彼、普段は遅くても五分以内に現れるから。新しいクロベコはスピード勝負師だから困るよ」
深く、深く絶望。
「大丈夫。痛くはないかもしれないから。僕はやることがあるから立ち会えないけど、元気な羅刹を生んでね、少年」
次の瞬間、黒いバイクがセキユの顔面にめり込んだ。
「来ちゃったっぽいね。あとは頼むよ。みんな」
セキユが鼻血が溢れるのを抑えながら言って、ぱっと消えた。




