EPISODE 10 駆動
浩二と星太郎が自己紹介をし合う。こうして、着々と「クロベコの為の組織」が立ち上がろうとしていた。
翌日、ジムへ行って、アルバイトへ行って‥‥‥。
身体を鍛えながら、入院時のことを松野会長に話すと「お手柄じゃないか」「治ってよかったなぁ」とほめてくれた。
それが妙に嬉しかったのを、憶えている。
その事を思い出して、ベッドの上で物思いに耽っていると、コンコンとドアをノックされた。「どうぞ」と言うと、母で清子だったらまだ話くらいは聞いてもいいかということを考えていたが、何をいまさら‥‥‥心が冷え込んでいくのを感じる。
あくまで笑顔を崩さずに。
「明日、予定あるかな。一緒に、ご飯でも」
「申し訳ございませんが、明日は朝から晩まで勉強の予定があるので、外出をするようなことはありません。またの機会があれば、ぜひ」
「そ、そう‥‥‥勉強熱心ね」
「はは。‥‥‥‥‥‥‥‥‥はぁ‥‥‥?」
世界で一番嫌いな人間に、お世辞を言われるという世界で一番嫌なことをされてしまい、思わず憤怒が起こる。すぐさま笑顔を戻して、「では、おやすみなさい」と言った。
それ以上の言葉は覚えていなかった。
翌日、勉強をしていると、夕子が「見せたいものがある」と言うので、「勉強デーですよ」と返す。
「教えてやるから何としてでも来てほしいな」
「しょうがないですね。わかりました。三十分ほどで着きます」
「待ってしんぜよう」
「ははは。何様なんです」
家を出ようと、玄関で靴を履いていると、母は思わず「エッ」と声を漏らした。その声を無視して、星太郎は警察署に向かう。警察署に到着すると、浩二と夕子が「ヨ!」と手を挙げたので、軽く会釈をする。
「なんでしょう?」
「君にプレゼント! 君、どうやらバイク乗れるらしいから」
「成人後に必要になるかなと思って‥‥‥」
「君専用のバイクをつくったんだ」
「俺専用‥‥‥あっ、クロベコの‥‥‥?」
「そう!」
浩二は短い髪をかき上げるように撫でながら、持っていた団扇をそのバイクというのに向けた。なかなか先端の多いデザインでトゲトゲとした青いのが特徴的だ。
「COW」というかんたんな英単語がくっそダサい。
「不満げだな」
「COWがちょっと」
「見てろ」
浩二はそのくっそダサいバイクの方に向かっていくと、レバースイッチを入れる。すると、バイクは色を変化させ、トゲもなくなり、流動的な黒いマシンに変身した。
「なぜ見た目が変わるんです?」
「普段遣いできるデザインかつ、変身時に周囲にバレんようにさ。もっと早く駆けつけられるようになれば、君も護れる人が増えるだろ? だからさ。君に車はまだ早いにしても、バイクくらいには乗っていてほしいんだ。使い勝手がいいはずだが?」
「ありがたいです。COWはともかく、とてもありがとうございます」
「はいよ」
その後は、慣らしの運転をしたりで時間は過ぎていく。
家に帰る頃になって「今日は、天使の奴等出ませんでしたね」「出ない日が続くといいね」という言葉を交わした。
みんな、「あんな奴らもう二度と出てくるな」と考えていた。
それが人類の総意であればよかったのだが、悲しいことに天使は人ぇんである。人間が、骨入り油機を使い、姿を変えただけの存在である。
そうして、人間は醜く‥‥‥。
‥‥‥。
「滝くん」
「ン?」
帰り際、「常に一緒にいろ」とのことで、専用バイク「ブルース一号」を受け取って、警察署の敷地を出ようとする星太郎に、夕子が声をかけた。
「これから先も君は私よりも先を、誰よりも速く走るだろうけれど‥‥‥もし、本当にダメってなったら、君は動かなくてもいい」
「エッ?」
「何日か考えた。君の周囲に蠢く最悪が晴れる方法は思い浮かばなかった。でもね、君は優しい少年だから、私は君の力になりたいと思う。誰よりも頑張り屋の少年の肩に手を置いて、『おやすみ』と言ってられる警官で居続けるつもりだ」
それだけを言うつもりだった、と。
夕焼けの下で、夕子は笑みを浮かべた。




