嘆きの街道と「規格外」の盾(8)
平穏な時間は、地を揺らす不気味な重低音によって破られました。
「何だ……? この振動、まさか……」
ガラクが作業場の窓から身を乗り出した瞬間、里を隠していた崖の一部が、眩い閃光と共に消し飛びました。砂塵の中から姿を出しのは、数頭の馬が引く馬車などではなく、巨大な鉄の塊――聖教会の最新兵器『魔導重機・エクスピアシオン(贖罪)』でした。
それは、多脚型のクモのような脚部と、遺石を直結させた巨大な砲塔を持つ、まさに「魔導戦車」でした。
「ひ、ひいいいっ! Ⅳ号戦車……いや、それよりデカい! あんなのファンタジーの世界に出てきちゃダメだろ!!」
ツーダの肩から、興奮と恐怖でドクダミ・スチームが勢いよく噴き出しました。
「チッ、しつこいねぇ。里の隠匿魔法を力ずくでぶち抜いてきたか」 ライが大剣を肩に担ぎ、鋭い視線で重機を睨みつけます。
「ツーダ様、騒いでいないで。ガラクさんの作業場が壊されたら、貴方の『修理代』をどこから捻出すればいいか分からなくなりますわ」 ナベは冷静に、しかし瞳の奥に怒りの炎を宿してナイフを指に挟みました。
戦闘開始:鉄錆の里の攻防
魔導重機の砲塔がゆっくりと回転し、里の中央にあるガラクの家――つまりツーダたちがいる場所をロックオンしました。
「主砲、充填。不浄なる技術の巣窟ごと、灰に還せ」
砲口に禍々しい紫色の魔力が収束していきます。
「(……あ、あれはマズい。指向性エネルギー兵器だ! 真正面から受けたら里が消える……。でも、あのアニメの第12話なら……!)」
ツーダは反射的に前に飛び出しました。強化されたばかりの真鍮のプレートが、彼の意思に反応して駆動音を立てます。
「ライさん、あの重機の『脚の関節』を狙って! ナベさんは砲塔の『排気ダクト』にナイフを! 僕が……僕が直撃を逸らします!!」
「無茶を言うねぇ! だが、乗ったよ!!」
ライが弾丸のような速さで重機の足元へ滑り込み、大剣を一閃。ガラクが改造したばかりの「高周波振動」を帯びた刃が、鋼鉄の脚部を深く切り裂きました。
「なっ……! 貴様ら、死に損ないの分際で!」
重機がバランスを崩し、砲弾が放たれました。 ツーダは両手を突き出し、脳内で『電磁誘導反発フィールド』を精密に再現します。
「いっけええええ!! 屈折!!」
ズガァァァン!!
紫色のレーザーがツーダの展開した魔力膜に激突。本来なら貫通するはずの熱線が、ツーダの絶妙な「角度計算」によって、里の住宅街ではなく、誰もいない崖の上へと跳ね返されました。
「……あ、あ、熱い! 熱いけど、耐えられる……! 肩からドクダミの匂いがすごいけど!!」
「今ですわ、ライさん!」
ナベが跳躍し、ツーダが指摘したダクトの隙間へ、魔力を込めたナイフを正確に叩き込みました。
ドォォォォン!!
内部で魔力が暴走し、魔導重機の砲塔が黒煙を上げて沈黙しました。
勝利、そして……
「……はぁ、はぁ……。勝った……のか?」
ツーダがへたり込むと、壊れた重機のハッチが開き、中から一人の騎士が這い出してきました。その顔を見た瞬間、ツーダは息を飲みました。
その騎士の顔半分は、ツーダと同じように「継ぎ接ぎ」であり、さらにその皮膚には、ツーダが前世で使っていた『会社のロゴ入りの絆創膏』が、なぜか聖遺物のように貼り付けられていたのです。
「……お前……それ、どこで……?」
ツーダの震える問いに、騎士はうつろな目で笑いました。
「……聖都へ……来い。……創造主が……待っている……」
騎士はそう言い残すと、遺石の暴走によって青い炎に包まれ、消滅しました。




