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嘆きの街道と「規格外」の盾(6)

激しい脱出劇の後、一行は古城から離れた静かな河原で夜を明かすことにしました。 焚き火の爆ぜる音と、川のせせらぎ。ライは少し離れた岩場で、愛剣を研ぎながら眠りについています。


「さて……ツーダ様。じっとしていなさい。解けた糸をそのままにしておくと、明日の朝には貴方の右腕がどこかへ行ってしまいますわよ」


ナベが手際よく、裁縫道具とアルコール、そして例の「水筒のドクダミ魔力」を染み込ませた包帯を広げました。


「あ、う……すみません。……痛っ、いたたた!」


「我慢なさい。死なないからといって、痛覚まで捨ててはいけませんわ」


ナベは慣れた手つきで、ツーダの青白い肌と肌の継ぎ目を、銀の針で丁寧に縫い合わせていきます。


「……あの、ナベさん」


「なんですの」


「……僕、前の世界では……40歳のおっさん、だったんです。毎日、満員電車に乗って、誰にも相手にされないような仕事をして……。家に帰れば、ただアニメを見て、この水筒でドクダミ茶を飲んで……」


ツーダは焚き火を見つめながら、ぽつりぽつりと話し始めました。コミュ障の彼にしては珍しく、長い独白でした。


「……肌がボロボロで、自分の見た目が嫌いで、ずっと隠れて生きてきた。そんな奴が、ゾンビになってまで、こんな風に誰かと旅をするなんて……思ってもみなかった」


針を刺すナベの手が、一瞬だけ止まりました。 彼女はツーダの顔を見ず、作業を続けながら静かに言いました。


「……40歳のおっさん、ですか。それがどうしたというのです。今の貴方は、私の大切な『商品』であり、一応は『主君』。そして、死なないことをいいことに、私の盾になってボロボロになる……救いようのないお人好しですわ」


ナベは最後の結び目をギュッと引き、パチンと糸を切り落としました。


「前の世界で貴方がどんな孤独だったかは知りません。ですが、今の貴方は一人で死ぬことすら許されない。……私が、絶対にそうはさせませんから」


「……ナベさん」


「さあ、お喋りは終わりです。水筒のドクダミ茶(魔力)を飲んで、さっさと休みなさい。明日からは、さらに過酷な旅になりますわよ」


ツーダは、修理されたばかりの腕で水筒を抱えました。 金属の冷たさが、今の彼には何よりも温かく感じられました。


「(……おっさんの記憶があっても、コミュ障でも……。この世界なら、少しだけ、前を向けるかもしれない……)」


焚き火の明かりの中で、ツーダは泥のように深い眠りに落ちていきました。


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