嘆きの街道と「規格外」の盾(2)
ツーダは震える手でナイフを握りしめました。 地面にめり込み、苦悶の声を上げる異形の獣。その埋め込まれた遺石の周囲は赤く腫れ上がり、膿が流れ、見るからに痛々しく爛れています。
「(……ああ、これ……俺の、アトピーがひどかった時の足と同じだ……。夜も眠れなくて、いっそこの肉を削ぎ落とせたら楽になるのにって、ずっと思ってた……)」
前世の孤独な夜の記憶が、ツーダの心に暗い共鳴を呼び起こします。
「……ごめん。……ごめんな……」
ツーダは、ガタガタと震える膝を地につけました。コミュ障ゆえの消え入るような声でしたが、その言葉には奇妙な重みがありました。
慈悲の一撃
ツーダは、前世で愛読していたファンタジー解剖図鑑の記憶を辿りました。「もしこの怪物を人道的に屠るなら」という、非現実的だったはずの知識が、魔力となってナイフの先へ集束していきます。
ナイフの刃が、青白く、静かな光を帯びました。
「せめて、痛くないように……」
プシュッ。
ツーダがナイフを突き立てたのは、心臓でも頭部でもなく、遺石が埋め込まれた中枢神経の結節点でした。激しい抵抗も、断末魔もありませんでした。 ケルベロスもどきは、一瞬だけ安堵したように三つの瞳を細めると、そのまま砂が崩れるように静かに動かなくなりました。
ツーダの継ぎ接ぎだらけの手に、温かい(しかし、すぐに冷たくなる)血の感触が残ります。
「……あ、う……あぁぁ……」
ツーダはその場にへたり込み、血のついた自分の手を見て、嘔吐しそうなほどの嫌悪感と、それ以上に「救ってしまった」という得体の知れない高揚感に包まれました。
仲間たちの視線
「……見事です、ツーダ様」 ナベが静かに歩み寄り、血に汚れたツーダの手を、これまた手際よく清潔な布で拭い取りました。その手つきは驚くほど優しく、しかし言葉には一切の容赦がありません。 「貴方が今殺したのは、神の使いではなく、神の皮を被せられただけの哀れな犠牲者です。救ったのですよ、貴方が」
「……若造」 ライが、空になった酒瓶を置いて立ち上がりました。彼女の眼光は、先ほどまでの酔いどれ老女のものではありませんでした。 「殺しの感触を忘れるな。だが、その震えも忘れるんじゃないよ。……その『痛みを知る手』こそが、アタイの教える剣を、ただの凶器にしないで済む唯一の道だ」
ツーダは、自分のボロボロの胸のあたりを強く握りしめました。 心臓が、うるさいほどに脈打っています。
「(……俺、生きてる……。ゾンビなのに、今、生まれて初めて……ちゃんと生きてる気がする……)」




