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第1章:嘆きの街道と「規格外」の盾

ガタゴトと揺れる粗末な荷馬車の上。 ツーダは、全身の継ぎ接ぎから滲み出る不気味な体液を、ナベが差し出した「異様に吸水性の高い特製包帯」で必死に抑えていた。


「(……あ、あの……ナベさん、さっきの火球……僕、何をしたのか……)」 「黙って包帯を巻きなさい、ツーダ様。貴方の『妄想』が魔力になっただけのこと。理屈は後です」


ナベは手際よくツーダの腕を縛り上げる。隣で酒瓶を煽っていたライが、不敵に笑って指を鳴らした。


「……おっと、無駄話はそこまでだ。若造、客人が来たよ」


霧の向こうから、「グルル……」という、生理的な嫌悪感を催す低い唸り声が響く。 現れたのは、聖教会の実験動物『遺石獣いせきじゅう・ケルベロスもどき』。三つの頭を持ち、全身に無理やり魔法石を埋め込まれた巨大な狼だ。


「ヒッ……!!」 ツーダは反射的に馬車の隅へ転がり落ちた。前世の40年間、喧嘩一つしたことがないおっさんにとって、化け物との対峙は心臓が止まる(実際には止まっているが)ほどの恐怖だ。


「ツーダ様、逃げてはいけません。貴方は今日から『不死身の騎士』として売り出すのですから」 ナベが冷たく言い放つ。同時に、ケルベロスもどきが猛然とツーダに飛びかかった。


最初の激突


「……死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ!! 痛いのは嫌だ! 痒いのも嫌だ!!」 ツーダがパニックで目を閉じ、両手を突き出す。 その瞬間、彼の脳内に前世で100回は読み返したSF設定資料集の『重力偏向装甲グラビティ・ディフレクター』の図解が鮮明に浮かび上がった。


【ツーダの無自覚魔法:精密再現】 通常の魔法使いが「固い壁」をイメージするところ、ツーダは「空間の歪率と重力定数の逆転」を(オタク知識として)イメージしてしまう。


ズゥゥン!!


ケルベロスもどきがツーダに触れる直前、目に見えない「重力の壁」に叩きつけられた。地面が円形に陥没し、化け物の骨が軋む音が鳴り響く。


「……あ、あれ?」 ツーダが恐る恐る目を開けると、最強の猟犬が地面にめり込んでピクピクしている。


「ほう。攻撃を『防ぐ』だけでなく、そのまま地面に『叩き落とした』か。若造、お前さんの妄想力は、並の魔導師の100年分より重いねぇ」 ライが感心したように腰の剣を抜く。


「ですがツーダ様、詰めが甘いですわ」 ナベが懐からナイフを取り出し、ツーダの手に握らせた。 「この子は聖教会の『目』です。生かしておけば追手が次々に来ます。さあ、トドメを。……これも『救済』ですわよ」


「えっ……ボ、僕が……!? 無理無理無理、虫も殺したことないのに……っ!」


ツーダは震える手でナイフを握り、地面に這いつくばる化け物を見下ろした。その時、化け物の目の中に、自分と同じ「無理やり異物を埋め込まれた苦しみ」の色を見てしまう。


「(……あ……。これ、僕と同じだ。……痛い、んだよな。……痒い、んだよな。……これ、もう楽にしてあげた方が……)」


ツーダの目が、一瞬だけ「おっさん」ではなく「覚悟を決めた者」の光を宿した。


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