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嘆きの街道と「規格外」の盾(13)

ドリーが掲げた両手に、廃駅に貯蔵されていた無数の聖遺物が吸い寄せられていきました。かつての文明の遺物、英雄の骨、そして聖教会の至宝。それらがドロドロと溶け合い、彼女の肉体を包み込んでいきます。


そこに現れたのは、もはや人間ではありませんでした。


高さ5メートルを超える、乳白色の滑らかな輝きを放つ「巨神」。それは、ツーダが逆立ちしても手に入らない、一切の傷も、継ぎ接ぎも、炎症もない、完璧に美しい「神の皮膚ゴッド・スキン」を纏った異形の姿。


「見なさい、ツーダ。これが貴方の目指すべき、究極の『完成形』です。痛みも、痒みも、孤独も……この皮膚の内側には存在しません」


神の皮膚から放たれる、圧倒的な浄化の光。その光に触れるだけで、ツーダの体からドクダミの魔力が蒸発し、継ぎ接ぎの糸がぷつぷつと弾け飛びます。


「……あ、う……あ、ああ……」


あまりの美しさと強さに、ツーダの心は折れかけました。ボロボロの自分が、あの完璧な存在に勝てるはずがない。


「ツーダ様! 膝をついてはいけませんわ!」


ナベが叫び、ドリーの光線を銀のトレイで反射してツーダを守ります。


「若造! あんた、忘れたのかい? そのボロボロの体で、アタイらの命を繋いできたんだろうが!」 ライが折れた大剣を杖に立ち上がり、ツーダを鼓舞します。


「そうだよ、ツーダ! 完成された美しさなんて、一度壊れたら終わりだ。でも、あんたの継ぎ接ぎは……壊れるたびに、私がもっと強く繋ぎ直してやったんだからね!」 ガラクが、予備の魔力タンクをツーダの右腕に叩き込みました。


仲間たちの声を受け、ツーダは顔を上げました。神の皮膚の滑らかな表面に、自分の醜く歪な顔が映っています。


「……ドリーさん。……確かに、それは綺麗だ。僕がずっと、前世から憧れてた『完璧な自分』かもしれない」


ツーダは、ガタガタと震える右腕を構えました。


「でも、それには……痒みを分かち合ってくれる仲間も、腕が落ちた時に笑ってくれる友達も……何もいない。……そんなの、ただの『死体』より寂しいじゃないか!!」


ツーダの脳内に、前世で一度だけ見た「金継ぎ」の記憶が浮かびました。割れた器を、金で繋ぎ直すことで、以前よりも価値のあるものにする技術。


「精密再現……『金継ぎ・オーバーロード』!!」


ツーダの継ぎ接ぎの隙間から、ドクダミの緑色ではなく、黄金色の光が溢れ出しました。それは、彼がこの世界で得た「絆」が魔力に変換されたもの。


「くらええええ!! 全・部・込・め・た……一斉退社アタックだあああ!!」


黄金の光を纏ったドクダミの奔流が、神の皮膚の「一点」を直撃しました。それは、完璧な美しさゆえに、たった一箇所の歪みも許容できない神の皮膚の致命的な弱点……。


パキィィィィィィン……。


神の皮膚に、小さな、しかし決定的な「ひび割れ」が走りました。


「……なっ!? 私の完璧な皮膚が……不浄な貴方の魔力で、汚される……なんて……!?」


「完璧なんて……いらないんだよ!!」


ツーダの最後の一撃が、ドリーの野望を粉砕しました。



エピローグ:継ぎ接ぎの旅路は続く


数日後。 聖都の騒乱は、地下駅の爆破と共に闇に葬られました。


街道を歩く、いつもの三人……プラス、なぜか仲間に加わったガラクと、後方で台車に揺られている「元・部長」。


「……あー、やっぱり。また少し、肩の糸が解けてきましたよ……」


ツーダは、新しく新調した(でもやっぱりドクダミ臭い)包帯を巻き直しながら、のんびりと歩いていました。


「仕方ありませんわね。後で、もっと太い糸で縫い直してあげますわ、ツーダ様」 ナベが微笑み(でも目は笑っていない)、裁縫セットを取り出します。


「ガハハ! 若造、今度は右腕にドリルでも付けてみるかい?」 「やめてください、ガラクさん! 重くて歩けなくなりますって!」


空は晴れ渡り、ツーダの肌は相変わらずボロボロでしたが、その表情は、前世のどの写真よりも明るいものでした。


「(……ま、おっさんの異世界ゾンビ生活も、案外悪くないかな)」


ツーダは、大切に抱えた水筒から、冷めたドクダミ茶を一口飲みました。 それは、彼にとって、どんな高級なポーションよりも美味しく感じられるのでした。


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