第90話 無条件の愛
「イリアとセリアは補助を頼む。デモンゲートはおれとやるぞ」
「承知しました」
おれは後ろにいる3人にそう伝えた。相手は既に疲弊している状態だ。押せばなんとかなる。
「おっと、君らは下がってな。僕はエストと一対一で戦りたいんだ」
「……ッ!?」
デスバルトはそう言いながら腕を振った。するとおれの背後の空間が歪み、セリア達のいる場所と遮断されていた。
向こうは見えはするものの、物理的には干渉できない。よく見るとデスバルトの背後の奥の方まで空間は歪んでおり、大きな円状になっているようだ。
この空間にはおれとデスバルトだけ……マズいことになった。
「へッ……。セコいヤツだぜ……。わざわざおれ達を分断するなんてよ……」
「お前だからさ。僕の大切な子とは2人で戦り合わないと」
「……は? 何気色の悪いことを言ってんだ」
「……? クロワール君から聞いてないの?」
「……?」
何のことだ……? クロワール? アイツが何か知ってたのか? どっちにしたって何かがありそうな口調だな。
「そうか。なら説明してあげるよ」
そう言ってデスバルトは近くの岩に腰を下ろした。何を話し始めるのか、どうだっていいが、アイツが油断したタイミングで思い切りぶん殴ってやる。
………そう思ったが一切の隙がない。いや、おれが突けるような隙はなかった。大人しく話を聞くしかないか。
「知ってるかな? 魔族は人間と違って破壊神・ディアゴル様より能力を賜るんだ。それは僕達魔王も、僕達の父である魔神・ルシフェル様も例外じゃない。これは元々魔族の祖であるルシフェル様が創造神・セスフに嫌われているのが原因だ。まぁ父は堕天だし当然だよね」
「……魔神って天使だったのか」
「知らなかった? まぁそれは良いんだけどさ。本題はここからだ。もし、魔神様の元に生まれた子供が創造神から能力を授かっていたらどうなると思う?」
「…………?」
「当然、殺されるよね。でも生まれたばかりのソイツは創造神によって守られていたんだ。だから捨てられた。分かるかな? 本来はさ、魔王は人間なんかと共存は出来ないだろ? 敵対している存在なんだからさ。だから人間側にいるべきじゃないんだよ。でも魔族からも忌み嫌われているから本当は完全に孤立している存在なんだ。でも僕は弟のことを大切に思ってるから、もし僕の仲間に来るって言うのなら……ッ!」
おれはデスバルトが全てを言い切る前に殴り飛ばした。クロワールと戦ったときと同じ、本気の『圧縮身体強化』を使って。
これ以上聞きたくなかったからだ。なんとなく、デスバルトの言いたいことは理解できた。
封印されていたとして、2000年もの時間を普通の人間が生きていられるのかは疑問だったから。おれは本当に人間なのかと全く考えなかったわけではなかったから。
でも実際にそうなのだと知ったら……相当に辛かった。
「それ以上変なことを言うな……。お前の仲間になんかなる訳ないだろ……! おれは人間として生きてんだ……!!」
「残念だけど……よく考えな。魔族と人間は分かり合えない! お前の仲間も! お前を愛した人間も! お前の正体を知れば誰からの愛も受けられないぞ! だけど僕はお前に愛を与えてやる!」
お返しだと言わんばかりにデスバルトはおれのことを蹴り飛ばした。だが反応出来ないほどではない。
バンリューと戦っていた疲労とダメージはしっかり蓄積している。身体の負担を無視すれば……もしかしたらもしかするかも知れない。
「テメェの愛なんざいらねぇよ! 気持ち悪りぃ!」
怯まずに攻撃を繰り返す。殴っては殴られ、蹴れば蹴られ。身体が、感情が死ぬまで倒れてはならない……!
「そうか……。残念だよ。そうなると君は邪魔だから……消えてもらおう!」
「ッ! ぐぁあッ!」
デスバルトが指を振ると同時に攻撃が発生した。嫌な予感がして何とか身体を逸らしたものの、回避が間に合わず右目が潰れてしまった。
ドクドクと血が流れ出す。息も上がって魔素の操作が乱れてしまう。右目を押さえながら一度距離を取った。
「良い反応じゃないか」
「痛ッ……。斬撃……じゃないよな。打撃でもなかった。空間ごと削られる感じだったよな……」
「お? 感覚も鋭いか。ちょっと違うけど僕の『我が世界』は世界そのものを自由に歪めたりずらしたりする力なんだ。」
……世界を? ズルい能力だな。……視界がぼやけて動きも鈍くなってきた。
……でも無理やり身体を動かせばまだなんとかなるな。速さを上げれば避けることも可能だろう。
「『凱天』!」
「ッ!? 速ッ……!」
最高速度でデスバルトに接近して蹴り飛ばした。弱っているのはアイツも同じだ。息を付かずに追い討ちをかけていく。
「『百花繚乱』!」
「そんな小っちゃい攻撃じゃあ……流石に効かないよ……ッ!」
「ぐッ……!」
周囲を爆発させると爆発の中心から真っ直ぐに突っ込んできた。そして重い打撃が腹にめり込む。内臓が潰され、血反吐を吐いた。
変なことだが、もはや痛みを感じないくらいに痛かった。だがその痛みに負けずに腹にめり込んだデスバルトの腕を掴み、魔素で出来た右手に全ての魔素を集中させた。
この一撃が全てだ。右手を作り直すのに時間は掛かるだろうが、それでもこの右手を爆発させる必要がある。この超至近距離で。
「満天・火花』!」
「ッ…………!!」
全力で、巨大な白天を放つ拳を振った。大地を割り、デスバルトの作った円、世界の壁を砕いた。
魔界の森も彼方まで吹き飛ばし、砕いた大地を溶かした。デスバルトの姿も見えなくなった。爆心地があまりにも近かったためにおれの身体も焼けてしまっているが……まぁ……なんとかなったか……?
「エスト……!」
背後からセリアの声がした。意識も遠のきなんとか聞こえるぐらいだったが、それでもはっきりと聞き取れた。おれは全身が悲鳴を上げる中、なんとか振り絞って声を出した。
「……アイツの話…………聞こえてた……か……?」
「分かってるでしょ? エストが誰の子だろうと関係ないわよ。エストはエストなんだから」
「そうか……。ありがとう……」




