第83話 最悪の可能性
「ふッ……なるほど……。貴様の力……理解した……」
バンリューは襲いくる山のような土砂を金属棒で弾いてそう言った。バンリューの戦闘手法はこの金属棒を使った棒術であった。
無論、武器など使わなくとも格闘術だけで充分戦えるのだが、リーチが伸びる分この戦い方を好んでいるようだ。
「貴様の“崩壊”の力………ただ破壊するだけでなく……破壊したものを操れるのだな……。大地が……襲ってくるから……変だと思ったんだ……。だが貴様は……強力な魔力を持つ物は……破壊できない……」
「そう言う貴様こそ、速度と破壊力に全てを賭けているせいで防御力がないだろ。“最強であっても無敵でない”、よく言ったものだ。当てさえすれば我の勝ちだろう。」
「そうか……なら……当ててみろ……」
バンリューはそう挑発すると、ダンディールは両手を開いて突進してきた。大気を破壊し、それを伝って森も大地も破壊した。更にそれを操り大嵐を生み出す。
「どこまで行こうとッ! 貴様は人間だ! この嵐の中どう抗う!!?」
破壊のエネルギーがビリビリとバンリューの皮膚を刺激した。ただのエネルギーだけならどうということはなかっただろう。ただし今は吹き荒れる風と森と大地の中だ。粒子がぶつかり皮膚をめくっていった。
「……この程度……!」
「『雷断』……!」
「ぐッ……!」
バンリューは棒を横向きに持ち、雷になって突進しつつそれで腹部を殴りつけた。雷の鳴る音と共にダンディールは殴り飛ばされた。
たとえ嵐の中でも関係ない、雷の速度に一切の反応が出来なかった。いや、むしろ雷よりよっぽど速かったかも知れない。少なくともおよそ人間から出る速度には思えなかった。
「がはッ……はぁ……はぁ……」
「……最後に……何か…聞いておこうか……」
「……『壊壊波動』…!」
ダンディールは両手を構えて、そこから破壊のエネルギーを放出した。圧縮したエネルギーは魔力をも崩壊させることが出来る。……当たれば……。
「『轟雷』……!」
バンリューはダンディールの放出したエネルギーの上から魔力を纏った雷を打ち出した。その雷は激しい音を出し、正面に立つもの全てを蒸発させた。
ダンディール、三界ともなると流石に頑丈な身体を持っていた。既に体内はドロドロになっているものの、まだ辛うじて立つことが出来た。
「……はぁ…………我は……死ぬようだ……」
「……そうだな……。何か……?」
「…………我が死んだとて……誰が死んだとて……貴様ら人間に勝利はない……。むしろこれは……進歩だ………………」
「……?」
ダンディールはそう残して倒れた。呼吸はない、身体もプスプスと煙が立っている。最期の最期で気が狂ったのか、バンリューは彼の言葉を理解出来なかった。
ただそんなことを考える時間はない。向こうが、イリア達の方が何やらマズそうだった。バンリューは雷に乗って向かった。遠く、デモンゲートがデスバルトを突き刺しているのが見えた。しかしその程度では殺せない。だが……。
「よく……持ち堪えてくれた……。後は……任せろ……!」
「はっはっはっ! 久しぶりだね!」
バンリューの言葉は届いていないだろう。ただそれでも、はっきりと感謝を伝える必要があった。
「場所を……変えさせてもらう……」
「そうだね。足場が悪いと面白くないか。」
***
「『止まれ』!」
「うッ……ッたぁあ!」
侵界・クロワールの言葉によって一瞬、強制的に停止させられた。抵抗は可能だが、その一瞬が大きなものだった。ギルバートとセリア、リンシャの3人が互いに補助するお陰でなんとかなっているが……あまりにも厄介な力だった。
ギルバートが大地を凍らせて有利な場を作り、その上で3人で斬り掛かる。リンシャの高速攻撃と、ギルバートとセリアの広範囲かつ高火力の攻撃で畳みかける。だがここぞというときに強制停止させられて重い反撃を喰らってしまう。
「セリア、リンシャ、僕が隙を作る。それまではセリアの炎で身を守ってくれ。隙が出来たら……僕ごとでもいいから一撃を入れてくれ」
「! ……分かりました。でも避けて下さい、兄様」
「ああ」
ギルバートは昇華した能力、『氷の剣帝』を最大限引き出した。
周囲の気温は限りなく絶対零度に近くなり、空気は凍結を始めた。その少し後ろでセリアとリンシャが炎の中で魔力を溜めている。
「はッ! かかって来い! 最高の技で!」
「『氷鱗』……」
ギルバートは空気を凍結し、そこから無数の剣を生成した。一切の熱エネルギー、つまり運動を遮断する剣。そう簡単に止められるものではない。
「『氷雨剣烈』!」
「ふッ……はぁッ!」
自身の剣で突き、それに追従するように宙の剣が飛び込んだ。クロワールはギルバートの剣は手で抑え、空中の剣は放出した魔力で弾いた。
この程度であれば造作もないだろう。それくらいに差があった。だがそれが、ギルバートの思うつぼというものだ。
「『凍結』!」
「!?」
クロワールの掴んだ剣からそのまま冷気が進んでいった。空気でさえ凍らせる力、直接触れていれば一瞬で凍らせられる。すぐに割ってしまうかも知れないが、この一瞬の隙が大きなものだった。
確かに隙は出来たが、それと同時に深刻な状態にも陥ってしまった。直接繋がったせいで、クロワールの支配の力がより強く侵食してきたのだ。神経が、あらゆるものがギルバートの支配下から移った。だがセリアとリンシャはこの一瞬の隙を見逃さない。
「『陽炎豪剣』!」
「『裂気滅剣』!」
「ッ……!」
2人の剣撃がクロワールを襲った。魔力を込めた斬撃は周囲一帯を消し飛ばした。もはや斬撃というより兵器を放ったようなものだった。手前のギルバートは避けて打ったため、全てのエネルギーがクロワールに直撃した。
「くッ……あぁ! 痛ってえ……!」
立ち上る砂煙の中からそう聞こえた。効いているのか効いてないのか……恐らくそこまで効いていないのだろう。だが驚くべきはそこではなかった。クロワールが手をかざすや否や、氷の線が3人を襲った。
「なッ……! これは……!」
「はッ! 驚いたか!?」
それは確かにギルバートの氷であった。ギルバートの氷を、クロワールが使いだしたのだ。それは能力を奪えるという最悪の可能性を示していた。




