第78話 旧時代の終わり
「だからよ、卵から生まれるのがヒヨコだろ。ヒヨコが大っきくなったのがニワトリだろ? じゃあ卵が先だろ」
「でも卵を生むのがニワトリじゃない。じゃあどう考えても卵は後よ」
「私は全面的にエスト様に賛同致します……!」
「朝から何を話しているんじゃ。お前らは……」
おれ達は大聖堂へ向かっていた。朝はちゃんと起きようと思っていたのだが、気づいたときにはセリアに叩き起こされていた。その後デモンゲートと合流、というよりはいつの間にかやってきていたので一緒に行くことになったのだ。
そして大聖堂まで向かっている今、おれ達が話しているのは“卵が先なのかニワトリが先なのか”というものだ。普通に考えたら卵が先だろ。卵かけご飯にも出来るし。でもセリアは“ニワトリが先”派閥だそうだ。
……まぁ焼き鳥も美味いからその気持ちも分からんでもないけど……でもやっぱりニワトリよりは卵が先だよな。
「グラはどう思う? フリナはこの前卵が先だって言ってたぞ」
「なんでそんなくだらないことを聞いとるんじゃ。……ただ強いて言うなら…………ニワトリじゃな。」
グラはそっち派か。絶対卵だと思うんだけどなぁ……。まぁ議論して答えが出る問題でもないからそのあたりはどうでもいいか。その後も大聖堂に着くまではあれだこれだと話していた。
そして大聖堂に到着、毎日通っているのでもう流石に見慣れているが、やはり立派なものだ。今日はこの前のように会議室にアールデント様がいるらしい。
そこに魔法陣が用意されているようで、そこから港へ飛んでいける。おれ達は会議室へと向かった。
「おはようございます。アールデント様」
「あぁ、よく来てくれた……。他の皆も……イリア以外は来ているよ……」
……? アールデント様が到着したおれ達を迎えに来てくれたようだが、少し様子が変だな。この前会ったときよりも歳を重ねたような雰囲気がある。咳もしているし、体調が悪いのか?
「大丈夫ですか? 体調が優れないようですが……」
「……また後で話すさ。心配しないでくれ」
「そうですか……」
そうは言うものの、やはり普通では無さそうだ。活力がないというかなんというか……。まぁ本人が気にするなというなら言及しない方がいいか。後で話すとも言ってるしな。心配はしつつも、あまり気にし過ぎるのはやめておこう。
会議室に入ると、確かにイリア以外の全員が座っていた。バンリューは時間ギリギリまで来ないイメージもあったけど案外そうでもないのかな。おれも席に着き待機する。
やや食い気味にデモンゲートがおれの隣を確保し、さらにその横にセリアとグラが座った。この1週間、みんなと会いはしたものの、デモンゲートの様子を見ていた人は少なかったので、珍しい光景に困惑しているようだった。当然見てない人やおれ自身もまだ慣れないが。
この話自体は会った全員にしていたが、それでもなお受けつけられるものではなかった。その様子を一切気にしていなかったのは、静かに座っていたバンリューとセリアにしか目がないギルバートさんくらいなものだ。
いつものように妹を口説いて突き放されている。もっと色んなバリエーションを見てみたいものだな。
「お、ホントに全員いんのか。悪りーな」
「イリア貴様……ワシらが待ってたのだからもう少し急げ」
「いーじゃねーか。アールデント様は咎めなかったぜ」
たった今到着したイリアと、最初に到着していたドーランが言い合っている。……おれ達はついさっき来たばかりだから何も言えねえな。
ギルバートさんがまだセリアとわちゃわちゃしているしそっちを眺めとくか。……こっちもこっちでなかなかに酷い絵面だな。デモンゲートも隙あらば距離を詰めてくるし……。おれは腕を組んで下を向くことにした。
少しするとアールデント様が部屋に入ってきた。何かの準備をしていたのだろうか。杖をつきながら席に座る。やっぱり様子がおかしいな。そう思っていると、アールデント様は席に着いて口を開いた。
「……話をする。みんな座るように」
その一言で全員が静まり返った。当然、全員がアールデント様の異変には気づいているから、余計に彼の言葉に敏感になっているのだ。
「……まず……皆が気になっているであろう私の体調について話そうか。知っての通り私は不老の魔法を常に発動しているのだが……転移魔法陣を作っていたら限界が来てしまってな……。まぁ元々しんどかったのだがな。……どう足掻いても人間は2000年生きるのが限界なのかもな」
「そんな……! 私を使って下されば転移など……!」
「君達には力を温存してもらわないといけないからな。……これから君達を大陸の南端へと転移するが……そうすれば恐らく私は死ぬことになるだろう……。だが後悔はない。………強いて言えば魔族から解放された未来を見れないことか……」
「……」
この場にいる全員が黙って聞いていた。それほどに重い言葉だった。
おれも会って数日ではあるものの、大英雄の仲間、ただそれだけでこの世界では大変な価値があった。それでいて献身的な姿勢を崩さない。そんな男が死ぬというのは……あまりにも大きな損失だ。
「港に行けば船がある。我々は今回の戦いで勝たねばならない。君達は希望だ。かつての私の友の無念を……どうか晴らしてくれ……!」
アールデント様は頭を下げてそう言った。自分が死ぬ直前に、人のために頭を下げられる人がどれくらいいるだろうか。そんな相手に、これ以上何を言えるだろうか。何かを言って、生き延びてもらおうとするだろうか。
会議室にいる全ての人達が沈黙していた。ただし、それは肯定の沈黙だ。彼が長い人生に終止符を打つことも、命を託すことも、おれ達は受け止めた。そして、アールデント様は目に涙を浮かべながら“ありがとう”とだけ言い、転移の準備を進めた。




