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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第十一章 作戦会議
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第76話 どういうことだ

「よっしゃ! 始めるか!!」


「一撃……お前が入れたら……お前の勝ちに……してやろう……」


 …………なんか舐められてるのか? それとも実際にそれくらいの差があるのか……。確かに他のヤツと比べても魔力は桁違いだが……一撃入れるくらいなら流石に出来るだろ。


「じゃあお言葉に甘えまして……」


 おれは『圧縮身体強化フルブースト』で肉体を強化した。つくづく思うが、慣れというのは大事だな。昔は使うとすぐに音を上げていた技をこれほどまでにスムーズに使えるのはシンプルに感動する。今更ではあるけどな。


「フンッ! ……ぁあ!?」


 おれは思いっ切り拳を振ったのだが、その拳は空を切った。いや、確実にバンリューに当たってはいたのに、実際には当たっていなかった。哲学的な話をしている訳ではない。本当に、当たったのに当たっていなかったのだ。


「俺の能力スキルは……『雷魔法(ボルト・マスター)』だ……。見ての通り………常に昇華している……」


「だからってなんで攻撃が効かないんだよ……。実体が無ぇみてぇだ」


「身体が……雷そのものに……なっているのだ……。……俺は元々……全属性の魔法を使えたのだが……その全てを捨てて今の力を得た……。だから他の奴らとは……次元が違うだろ……」


 バンリューは少し得意げにそう話した。つまり……条約で出力を跳ね上げているということか? それにしたって元々の魔力量とかセンスだとかはあっただろうからな。確かに人類最強は文字通り“次元が違う”ようだ。


 だが無敵のように思われるこの状態も、所詮は能力スキルによるもの。強大なエネルギーを撃ち込めば、つまりバンリューに匹敵する量の魔素を操れれば攻撃は当たるはずだ。


「……白天ハクテンとかいう技は……やめておけよ……。……結界が……壊れかねないからな……」


「分かってるって。……ふぅーーー」

「『圧縮身体強化フルブーストカイ』!」


 おれは身体の限界キャパを無視して周囲の魔素を取り込んでいく。身体の負荷が少々高くなるが、“無茶”というほどではない。これでバンリューに触れられるか……。


「『天爆テンドン』!」


「……合格ラインだな……」


 真っ直ぐに振った拳は、今度こそバンリューに届いた。………力を込めた割には簡単に受け止められたが……これで同じ土俵に立ったか?


「行くぜ……!」


 おれはより一層、拳に魔素を込めて振った。正面、右、左と打ち込んでみるものの……どれも回避されるか受け止められるか……。試しに速度スピードを出すことに集中してみても簡単に対応されてしまう。


 それどころか、余裕を強調アピールするためかところどころおれの額に手刀を入れてきた。しかも割とビリビリする。


「こんにゃろッ!」

「『天魔輪テマリ』!」


 瞬時に姿勢を低くし、下から円を描くように炎を纏った足を蹴り上げた。バンリューの顎を狙ったのだが、ほんの少し身体を逸らして回避された。


 ……今のは相当速かったぞ……。心の中でそう愚痴っていると、瞬間、おれの前にバンリューの拳があった。その拳はおれの腹にめり込む。


「『雷弾エルガン』!」


「ぐあッ……!」


 おれは逆さまのまま吹き飛ばされた。セリア達の座っている方の石壁に打ちつけられ落下した。壁に当たったのは大して痛くはないが……バンリューの一撃があまりにも重いものだった。しかもただ重いだけではなく、電流が全身に走って思うように身体が動かない。……遠いな……。


「……気に入った……。出発まで……1週間……俺がお前を鍛えてやる……。お前には……それだけの可能性を……感じた……」


 鍛え……鍛える!? ……1週間打ち合い放題ってことか? ……そりゃ願ってもないことだ。たった1週間といえど、充分な価値がある。


「へへっ……嬉しいね。よろしく頼むよ」


「今日は休め……。疲れているだろう……」


「あ! 待て待て!」


 おれは帰ろうとするバンリューを呼び止めた。少し聞きたいことがある。おれは小さな声でバンリューに聞いた。


「デスバルトのことだけどよ。どう思う?」


「……あの男は……あそこまで言うなら……信用していいはずだ……。才能という意味では……俺にも……引けを取らないだろう……。それを……部下に出来たのは……随分なことだ……」


「そうか。ありがとうな。じゃあまた明日」


 おれはそう言ってバンリューを見送った。来るのも一瞬、帰るのも一瞬だ。まさに雷のような男であった。おれはセリア達の座っていたベンチの方へ戻った。当のセリア達は少し離れたところで打ち合っている。


「おい、デモンゲート、お前の能力スキルちょっと見せてくれよ」


「承知いたしました」


 また別のところにいたデモンゲートにそう伝えると、彼は一瞬のうちに目の前に移動してきた。高速移動とか、そんなものではなかった。瞬間移動、だが空間が歪んだりはしなかった。時間を止めてこっちまで来たというわけか。


「“時間を止める”ってのはどういう理屈なんだ? 世界全体に干渉するとなると魔力消費が凄いだろ?」


「確かに消費はします。しかし世界に干渉してるわけでもございません。時間を切断し、その亀裂に侵入することで時間が止まった世界に入るのです」


「……?」


「つまり“世界の時間を止める”のではなく、“時間と時間の隙間に入っている”のです」


「………………なるほどね……」


 何を言っているのか、イマイチ理解出来なかった。つまり時間を止めているようで止めているわけではないってことだよな。……いや、そもそも時間を切断するってどういうことだよ。


「……ご覧になってみますか? 触れていればお連れできますが……」


「いいのか!? じゃあ頼むよ」


「えっ! いっ……触れ……ありがとうございます……!」


 おれはデモンゲートの手を掴んで頼んだ。彼はなんかアワアワしてそう言うと、能力スキルを発動した。すると……なるほど、確かに全てが止まっている。音もしない。だがそれはほんの一瞬の体験であった。聞いた説明の通り2秒だな。厳密にどうかは分からないけれど。


「うん。良い経験したよ。ありがとう」


「こちらの方こそ……この手は洗わずに手袋をしておきます……!」


「洗えバカ野郎」


 日が暮れ始めたので、おれはセリア達と共に宿へ戻った。夕食も済ませ、軽く買い物もしてから各々部屋へ帰り眠りについた。


 明日からはバンリューと特訓だから早く起きないとな。そう思い、おれは早めに寝床についた。

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