第71話 神喰らいの悪魔
「お。来れたんだな」
会議が始まるおよそ3分前、扉を開けて入ってきたのはイリアだった。ちゃんと時間に間に合うのは意外だな。アイツの性格からするに遅れてきても不思議ではない、いや、むしろ遅れてきた方が“らしい”気さえする。
「誰かのおかげでな」
話しかけてきたイリアに対し、おれは素っ気なく返事をした。彼女に対して良い思い出は別にないからな。迷惑したくらいだ。
「おい! もっとこう……言うことがあるだろ! なんでそんなに適当なんだ!」
「お前はなぁ……出会いが最悪だったからなぁ……。ほら。さっさと席に着け」
「アンタなぁ……!」
おれは気だるい様子でそう話し、なんだかんだ言いつつもイリアは空いてる席に座った。案外素直だな。……素直ではないか。
「イリアお前、今日は聞き分けがいいんだな。機嫌でもいいのか?」
「うるせー。どうしようが俺の勝手だろうがよ」
イリアは近くの席に座っているガルヴァンさんやギルバートさんにからかわれていた。なんか……思ってたより法帝の人らは仲が良いんだな。少なくとも軽口叩きあうくらいには。そう言えばドーランとイリアもなんだかんだ仲良かった気もするしな。
それから2分ほど、おれ達は他愛もない会話を広げていた。時計の針が7時を指そうとしたとき、パリッと音が鳴り、恐ろしく高密度な魔力が場を支配した。
和気あいあいとしていた空間に一瞬、緊張が走る。扉の向こうにアイツがいる。部屋の全ての人間が、開く扉を見ていた。
「……全員……来ていたんだな……」
バンリューは一言だけそう言って席に着いた。これで今この部屋には11人が座っている。扉から最も近い2席を空けて。
「バンリューテメェよー! 時間ギリギリに来といてそれだけかよ。もっと愛想良く挨拶でもしねーか!」
「ん……? 間に合ったのだからいいだろ……。気分を害したのなら……謝罪しよう」
イリアはバンリューに噛みついていたが……お前は人のこと言えるほど愛想良くねぇだろうがよ。まぁわざわざそこに口は出さねぇけど。
「喧嘩上等だが、今は静かにしておいてもらえるかな? 全員集まったし、時間もちょうどだ。話を始めようか」
「……はい」
アールデント様がバンリューの後から部屋へ入ってきた。そして部屋から最も近い椅子に腰を下ろす。さっきまでオラついていたイリアも、アールデント様の言葉には大人しく従った。
「さて、では話を始めるけれど……。まず、君達も気づいていると思うが、この部屋には13の椅子が用意されている。つまり君達の他に1人、この会議に参加する者がいるということだ」
「……まだ来てないようですけど……誰なんです?」
「……見てもらった方が早いな。入ってくれ」
「…………!?」
アールデント様の呼び掛けと共に、1人の男が部屋の中に入ってきた。鋭い目つきの男だ。……なんだか邪悪な雰囲気を纏った男だが……何者だ? セリアやグラも、おれ以外の全員が彼のことを知っているようだ。有名人なのか?
「なぜ貴様が……なぜこの男を出したのですか!?」
ドーランが静かに声を上げた。震えた声で、怒りの籠った声で。
「まだ現役か? ジジイ」
「黙れ! アールデント様! なぜこの男を!?」
「皆……殺気を抑えろ……。この男が何かしたとして……どうとでもなる……」
バンリューが低い声で、魔力を放ちながらそう言った。緊張した場を、また別の緊張で塗り替えた。
「悪いな、バンリュー。ちゃんと話すが……エスト君は彼を知らないだろ。まず彼の説明をするが……」
アールデント様は男の経歴について説明してくれた。彼の名はデモンゲート、元々は法帝であった。本来は法帝の地位を剥奪されることは無いのだが、彼は大きな罪を犯したため地位剥奪、監禁されていたらしい。
その罪というのが……なかなかにぶっ飛んでいるのだが、魔王を取り込み天使を食ったようだ。神になるとかなんとかって理由だったらしいが……だからって食うか? フツー。
その後調べる中で魔族の血が流れていることが分かったようだが、新たな体質の影響で殺すことが出来ないので幽閉されていた、との話だ。
「……で、今回の作戦に彼も参加させることになった。使えるものは何でも使っていかないと、負けたら元も子もないからな」
「……信頼は出来るのですか?」
「釈放する代わりに全面的に我々に協力するように条約を結んであるから心配は要らない」
「……俺は……賛成だ……。邪魔をしてくるなら……そのときに消せばいい……」
「まぁ……バンリューさんとアールデント様がそう言うなら私達では反対出来ませんよ」
全員の意見がバンリューの言葉によって纏まった。流石と言うべきか……圧倒的な力が圧倒的な信頼に繋がっているようだ。その様子を面白くなさそうに見ていたデモンゲートは一人ひとりの顔を見ていった。そして、おれを見て顔を青ざめた。
「お……おい……。アールデント。あの方は……?」
「……? 彼はエスト君だ。クラン“煌焔”の大団長、となりのセルセリアとグラダルオの仲間だ。何か?」
「……いや、何でもない」
「?」
デモンゲートはそう言って席に着いた。何なんだ? 人の顔を見るなり失礼なヤツだ。おれの何が変だってんだ。…………魔力が無いのは変か。
そして前置きを終え、いよいよ本題に入っていった。13の席全てを埋め、全員が向き合った。




