第65話 巨大な遺跡
おれ達は3人で森の中を進んでいた。雰囲気は普通でないものの、形としてはなんの違和感も無かった。
鳥だって獣だっているし、虫も飛んでいれば花だって咲いている。雰囲気だってそこまで気になるものでもないし、言われなければただただ普通の森といった感じだ。
それなのに何で通り抜けられないのか。森の反対から入ったって同じだろうし、つまり森の中心に行けないということだ。森が拒んでいるのか、何者かが遮っているのか……。
だとしたら守る物があるということか? 何にしたって、何かしらの違和感を見つけなくては解決出来ない。……別に解決する必要はないのだが。
1時間ほどは何の異変もなく順調だった。特に何も起こらずに進んでいたおれ達だったが、突然セリアとグラは左に曲がり始めた。
「ん? おい、なんでそっちに行くんだ? 真っ直ぐ進めばいいだろ」
「……え? 真っ直ぐ進んでるでしょ? ……いや、でも何かが変ね」
「確かに……儂もエストに言われるまではそのまま歩いてるつもりじゃったが……左に曲がってるな。何でじゃ?」
セリアとグラに何かが起こったのだろうか。でもおれには起こらなかった。多分今みたいに気づかぬうちに曲がってしまうから元の場所に戻ってしまうのだろう。
セリア達の様子を見るに、認識を無理やりに変えられてるのだ。……魔法か? 個人の魔力に作用するのならおれがなんともなかったのも納得だが……そんな魔法があるのか?
それでこの先の“何か”を守ろうとしてるなら、それはよっぽどの物があるということだろう。
色々と思考を巡らせながら、おれ達は今度こそ前に進むことにした。
「だからそっちは左だって!!」
「え? また?」
歩き始めたと思ったら、セリアとグラはまた明後日の方向に足を出した。どうしてもこの先に進むということは出来ないらしい。
一回指摘してもまた同じことを繰り返すってことは……手を引いて行くしかないか?でも流石にそれは不便だよな。
「2人とも、ちょっと来て」
「なに?」
おれはセリアとグラを近くに呼んだ。
「やっぱりな……。ちょっと頭が痛むかもしれねぇけど……我慢してくれ」
おれはそう言ってセリアの頭に手を当てた。……何かしらの術が脳に構築されているようだ。多分これが原因でここより先に進めないのだろう。おれは魔力を乱して術を解除した。
「ッ……! ……えーっと………何したの?」
「セリアにかけられてた魔法を解除した。これで進めるようになるんじゃないかな。ほら、グラもやるぞ」
セリアとグラにかけられていた魔法を解除した。それぞれ自分の魔力で構築されていたから、魔力のないおれには発動しなかったのだろう。
魔法自体は思ったよりも単純だったので簡単に解除出来たが……やっぱり勝手にこんなものを発動できてしまうとは相当な実力者がいそうだ。用心しなければ。
「よし、じゃあ気を引き締めて行こうか。危険なヤツがいるかもしれないしな!」
「そうね。思ったより“何か”がありそうだわ!」
少し進むと、そこには魔力の壁があった。頑丈ではないが、これもまた認識を阻害する効果があるようだ。2段階の障害……なかなかに慎重な野郎が住んでるんだな。
壁をすり抜けると空気がフワッとし、目の前に巨大な四角錐台の遺跡が現れた。淡い茶色い泥のレンガで建てられているようだ。
随分と古いが、手がつけられてるのか根が張っていたりはせず、むしろどこも欠けずに綺麗な状態で残っている。
「はー……! なんか……スゲェなぁ! おれ遺跡とか見るの初めてだなー!」
「グラ………どう……思う……?」
「どうって言われてもな……驚くしかないじゃろ……」
「ん? 何が?」
セリアとグラは目を点にして遺跡を見上げていた。何をそんなに驚いてるんだ?もしかして2人もこういうのは初めて見るのだろうか。
「何がって……こんな大きい建物を隠すって………そんな認識阻害の魔法なんて聞いたことないわよ」
「んーー。おれあんま分かんねぇけどそんな凄いのか?」
「凄いなんてもんじゃないぞ。3キロメートル四方くらいの距離じゃろ? そんなものをもし1人でなんとかしてるとしたら……控えめに言ってバケモノじゃぞ」
「……まぁそう言われると凄そうだな。でも引き返す気はねぇしよ……さっさと行こうぜ」
「それもそうね。……私達3人ならどんな相手でも逃げるくらいはできるはずだし…行こうか」
セリアがそう言うと同時に、おれ達は遺跡の中へと向かった。わざわざ正面から入る必要もないが……せっかくだから正面の入り口から入ることにした。
おれ達は侵入者だし、もしここの住人が敵対的ではないのなら裏から入るのは良くないだろうからだ。まぁ人が住んでるならだが。
入り口は建物の上部にあり、下へ行くには中から降りる必要があるようだ。つまり、何かがあるとしたら下部だろう。
遺跡へ入ると、中は明かりが無い闇であった。セリアが炎で灯してくれたのでなんとか道は見えるが……それでも暗い。しかも迷路のように入り組んでいて、ちゃんと出られるのか不安だ。
だが、そんなことを考えるべきでは無かった。暗闇の中、姿を確認出来ない者からの攻撃を受けた。何かに噛みつかれたようで、おれの肩の肉は抉れていた。
「うッ……! 何だ……!!」
「………!? エストッ!? 何かあったの!?」
“それ”はおれにだけ攻撃をし、暗闇の奥へと姿を隠した。……油断していた。集中していれば避けられないものでもなかったのに……。すんでのところで体を逸らしたため、そこまで傷が深くないのが救いか……少しズレていたら首を切られていたと考えると……危なかった……。
「侵入者は2人かと思ったが……ここに入れたのはお前のおかげだろう? 魔力のない者がいるとは……」
暗闇の奥から、血の匂いと共に声がした。何者なのか……と思ったが、それは相手からしても同じか。まだ戦闘を開始すべきではないな。だがどっちにしたって相手の姿は確認しておきたい。セリアは灯火を大きくし、光量を上げた。そして闇の中から1人の姿が見えた。




