表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神話の英雄譚  作者: わらびもち
第一章 英雄の街・プリセリド
6/99

第06話 初仕事へ

「じゃあパーティ名も決まったし、今日は解散しましょうか。エストも疲れてるでしょ? お金は貸してあげるから、宿にでも泊まるといいわ。少し東の方に行けば“熊の家”ってとこがあるから」


「助かるけどいいのか?」


「だってお金持ってないでしょ。依頼受けたときにその分ちゃんと返してもらうから気にしないで」


「そっか、ありがとう! セリアはこのあとどうすんだ?」


「私は家に帰るわ。また明日の朝ギルド(ここ)で待ち合わせましょう。初仕事するわよ!」


「分かった、じゃあまた明日な!」


 そうしておれとセリアは別れた。おれはセリアに勧められたようにギルドの前の通りを東に進んだ。


 200メートルほど進んだところだろうか、熊の手のような絵が描かれた看板があった。ここが“熊の家”だろう。

 

「いらっしゃい! 1名様かい?」

 

 そこにはがっしりした体格のおっさんがいた。間違いない、このおっさんが熊だ。今日は野獣のような男によく会うな、と思った。


「ああ、1人だ。7日ほど宿を取りたいんだが」


 周りを見てみると旅人やら冒険者やらが飯を食っている。2階が宿泊する部屋で1階は料理屋という感じなようだ。


「1週間だな。ちょっとおまけして4000G(ゴールド)だ」


「へぇ、安いんだな」


 おれはセリアから貸してもらった金貨を渡した。貨幣の価値は鉄貨が1枚1G、銅貨が5G、銀貨が100G、金貨が1万Gだ。あとは白金貨が100万G、国家金貨が1億Gとなる。


「基本は部屋を貸し出すだけだからな。飯を食うなら別に払ってもらうことになるぞ」

 

 そう言って渡された釣りの入った小さな皮袋を受け取った。


「そうか、じゃあ夕飯もくれ。おすすめのを」


1階(ここ)で食うか? それとも部屋に持ってくか?」


「部屋に持ってきてくれ。一旦ゆっくりしてぇんだ」


「じゃあ3番室に行ってくれ。鍵はこれだ」


 おれは渡された鍵を持って部屋に向かった。思えばこっちに飛んできてから半日も経っていない。いろんな人と出会っていろんなことを知って、これまでにないほど濃い1日であった。


 初めは憂鬱な気分だった。じいちゃんが死んで知らない土地にも飛ばされたのだから。でも今は気分がいい。これまで知り合いなんていなかったが、ここに来てからいろんな人と関わりができた。世界中を冒険するというのも気分が高揚する。


 ベッドに横たわりながらそんなことを考えていると、扉を叩く音がした。夕食を運んできてくれたのだろう。


「シチュー持ってきたわよ。お代は200Gね」


「ありがとう。飯も安いんだな」


「お父さんが猟師で常連さんもよく差し入れしてくれるから安く済むの」


「お父さんって、あのおっさんの娘か!?」


「そうよ。見えないでしょ。あんないかつい人とは似てないものね」


 なんとなく雰囲気、オーラとでもいうのか、そんなものは確かに似てる気がしないでもない。まあ親が筋肉だるまであっても娘が筋肉だるまである必要はないのだが。むしろ華奢な女の子の方がバランスが取れてるか。


「ところであなた、見たことないわね。似たような人には会ったことあるけど。若いけど冒険者なの?」


「おれはエストって言うんだ。今日この街に来てから冒険者になったんだ」


「街に来てから冒険者になったの? 旅人だったの?」


「まあそんなもんだ」


 おれは曖昧に答えた。別に適当に答えたわけでもないのだが、本当のことを言ってもややこしくなるだけだと今日の人たちの反応で分かっていたので詳しい話はしないでおいた。まぁ大陸を飛んできたのだから旅人ってのも間違いではないかもしれない。


「へー。若いのにすごいのね。私なんてずっと独り立ちしてないのに」


「人それぞれ都合もあるだろうからな。親を手伝うのも立派なもんだろ」


「へへっ。そう? まぁ誰になんと言われようと私は変わる気はないけどね! 私はエリカよ。よろしく。是非とも熊の家(ここ)を贔屓してね」


「ああ、もちろんだよ」


 あの子は父親に似てる気がしてきた。たぶん性格がそっくりなんだろうなと確信した。


 エリカは長話してるとお母さんに怒られると言って下へ戻って行った。おっさんには怒られねぇのかと思ったがそれに関しては追及しなかった。


「うん。美味いな。セリアが勧めてくれてよかった」


 食事を終えると食器を返しに1階へ降りた。


「ごちそうさまでした。美味しかったよ」


「そうか! そりゃあよかった!」

「ところで小僧、お前ぇエストってんだって?」


「? そうだがどうかしたか?」


「冒険者どもが噂してたぞ。なんでも試験受けていきなりCランクだって?」


「噂になってたのか?」


「そりゃあそんな奴、滅多に現れねぇからな。噂にもなるさ。“炎剣”とパーティ組んでるらしいし、想像以上の大物が来てくれたもんだ」


 おっさんは笑いながら言った。


「セリアとパーティ組むだけでそんな言われんのか。おれ自身は大したことしてねぇのにな」


「大したことだろうが。Cランクなんて普通ベテランだぞ。しかも炎剣って言やぁパーティ組まねぇことで有名じゃねぇか。それがぽっと出の奴と組んでんだから期待も高まるってもんよ」


「そうか、まぁ期待はしててくれて結構だ。いや、むしろ期待しといてくれ」


「ははっ! 言うじゃねぇか。楽しみにしてるぞ。てめぇの今後をよ!」


 そんな会話をしておれは部屋に戻った。取るに足らない会話だったが、こんなことでも楽しく思えた。


「さて、早ぇけどそろそろ寝るか」


 明日は朝集合だから早めに寝ておこうと思った。朝には弱いが、そんなことで迷惑はかけたくなかったのだ。



 強い日差しが部屋を照らした。まだ寝ていたかったのだが、今日は予定があることを思い出してなんとか体を起こした。


「あぁぁ、眠てぇぇ。」


 掠れた声でつぶやきながら支度をした。布団を畳んで顔を洗って、時間がギリギリだったので朝食は食べずにギルドへ向かった。


「ごめん、セリア。待ったか?」


「いいえ、依頼の受注をしていたから平気よ」


 遅刻、というほど遅れたわけでもないのだが、相手が時間通りにいるとなんとも申し訳ない。


「じゃあ行こう、エスト。西に15キロくらいの鉱山にいくわよ」


「鉱山? なんの依頼だ?」


飛竜ワイバーンの討伐よ。5体くらい現れて近寄れなくなったらしいの。Aランクに近いBランクの依頼だけど、大丈夫よね?」


「飛んでるのが面倒だけど、まぁ問題ないな」


 そう話しながら向かい始めた。馬車で向かうようなので、まだ少し時間には余裕があるようだ。


「武器でも見てく? エストって武器は使わないの?」


「短剣とかなら使えないでもないけどな。あんまり必要ないというか、戦闘にはわざわざ使わないしな」


「じゃあ短剣一本くらい持っときなよ。あって困るようなものでもないし」


 ちょうど武器屋の前にいたのでセリアが短剣をくれた。戦闘に使うかはわからないが、大事にしようとは思う。


 昨日の宿のことやらなんやらを話していると馬車乗り場に着いた。飛竜ワイバーンがいるのであまり接近はできないようだが、ある程度近くまでは連れて行ってくれるようだ。


 

「あれが鉱山か。飛竜ワイバーンがいるようには見えねぇけど」


「向こう側にいるっぽいわね。御者さん、ありがとうございました」

「とりあえず登ろうか。近づいたら出てくると思うわよ」


 おれ達は岩山を登っていった。確かに空気が重く感じられた。間違いなく飛竜ワイバーンがいるのだろう。とはいえおれ達にとっては大したことではなかった。


「この依頼が終わったらさ、うちに来てほしいんだけど、いいかな?」


「いいけど、なんでだ?」


「私って今までパーティ組まなかったんだけどさ。いきなり組むもんだから両親がエストに会いたがってるの」


「そっか。じゃあさっさと終わらせねぇとな」


「油断はしないでよ。私もいるし飛竜ワイバーンだから大丈夫だとは思うけど」


 笑いながら、気をつけるよ、と言った。もともと時間をかけるつもりもなかったから、そこまで気にかける必要もなかったのだが。それでもできるだけ早く終わらせてしまおうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ