第55話 追っ手再び
おれはドーランに手錠をかけられ、街の外れにある小さな要塞に連れてこられた。どうやらドーランの運営するクラン“鉄壁”のこの街の支部だそうだ。
おれは取り調べ室のようなところに入れられ、ドーランとイリアの2人と向き合って座った。イリアは追い返されそうだったが、あーだこーだと理由をつけて付いてきていた。
「さぁ、まずお前が何者なのか聞かせろ」
「おれ? ……おれはエストだ。ネフィル=エスト。聞いたことあるか?」
「…………なんだって? もう一回言え」
不思議そうな顔をしてそう聞き返された。聞き取れなかったのか? この距離で?
「ネフィル=エストだって」
「おいおい、テメェそんな名前名乗ってたら“炎の姫様”に焼かれちまうぞ」
「炎の姫様? なんだそれ」
「それも知らねーのか? “煌焔”のクランマスターのことだ。アイツは3年前に死んだ男をまだ探してるからな」
……あ、セリアのことか! 法帝にもしっかり認知されるくらいに強くなったんだな。久しぶりにセリアの話を聞けて、話というほど大したことではないのだが、おれはなんだか嬉しかった。
「…………お前、まさかとは思ったんだが……もしかして邪教の本拠地を殲滅したのはお前か?」
おれは少しの間考えた。……が、別に彼らには隠す必要もないか。
「ああ、そうだ」
「つまり……いや、まさか……そんなことがあるのか……?」
「どーした?」
ドーランは何やらブツブツと喋っていた。何かを考えているようだ。
「イリア、貴様少しこっちに来い」
「?」
イリアはドーランに呼ばれ部屋の外へ出ていった。おれは一人部屋に取り残されたのだが……正直待っているのもなんだし……脱走するか。
おれが今かけられている手錠は魔力や魔素を分解するもののようだが……魔素を封じられてもこれを壊すくらいはどうということはなかった。
おれは手錠を壊して外し、部屋の扉とは反対側に手をかざして魔素を集めた。そして無理やりに空間を歪ませてこの地点と別の地点を繋げた。と言っても、一般的な空間魔法とは違って極めて近距離しか繋げられない。
まぁここを出るには充分だが。おれは空間を跨いで要塞を出た。
「何だ!? ……!? 部屋が揺れたと思ったら……。グランデュースに伝言をしようかと思ったってのに。……あ、おい! イリア! お前の連れが迎えにきたぞ!」
「イリアさん! 何勝手に暴れてるんですか!」
「……いや……あの……」
「言い訳は結構ですから。まったく……勝手にどっか行っちゃうんだから。……ドーランさん、ご迷惑おかけしました。行きますよ! …………あれ? イリアさん、腰につけてた金袋どこやったんです?」
「あ? ……はッ? なんでだ? さっきまであっただろ!? …………くそッ! アイツだ! 絶対アイツだ!」
「あっ! ちょっと!!」
金袋が無くなっていたのに気づいたイリアは要塞の外へ駆け出した。
***
おれは街を出るために馬車に乗った。セリア達は中央大陸のヘルダルムに拠点を構えているはずだ。
昔、と言っても現世では3年前であるが、セリアがヘルダルムにクランの拠点を創ると言っていた。……確か。
「それにしてもお客さん、白金貨なんて貰っていいのかい? あんたの目的地のヘルダルムまでは行けねえのに」
「ああ、良いんだ。臨時収入だからな。ちょっとしたお礼だよ」
おれはイリアから拝借しておいたお金を渡していた。拝借と言っても、もちろん無断でだが。
「そうかい。まぁそれならありがたく貰っておくよ」
御者さんから聞いたところによると、ここは北大陸らしい。とは言っても、その南端なのですぐに中央大陸には入るようだが。
そしてやはりヘルダルムには“煌焔”の本拠地があるらしい。セリアとグラは新たに法帝となり、法帝が6人から8人へと変わったようだ。
「————!!」
「?」
遠くから声が聞こえた気がした。人を呼ぶような叫び声が。
「———て! テメェ! 待ちやがれ!!」
「またお前か!!」
後ろから聞こえていた声はいつの間にか隣へ、そして頭上へと動いていった。声の主はイリアであった。走って追いかけてきたのか。
……おれは魔力がないから追えないと思ったけど……運がいいやつだな。イリアは上から馬車に乗ってこようとしたので、彼女が着地する前に足を掴んで外へ放り投げた。
「御者のおっさん! ありがとう! もういいから帰っててくれ!」
おれはおっさんにそう言って外に出てイリアを追った。おっさんは、いいのかい? と聞いてきたが、巻き込むと悪いのでさっさと帰ってもらった。まったく……コイツはおれの邪魔ばかりするな。
「なんなんだお前は!! そんなにおれが怪しいか!?」
「んなこたァどうでもいいけどな! テメェ俺の金取っただろ!!」
「金? いいだろそれぐらいよ。大体お前が料理屋の壁壊したのはおれが弁償したんだし。……それにお前……おれの久しぶりの飯もメチャクチャにしやがったしよぉ……!」
数十年ぶりに食った野菜だったのに……! あの感動を返してほしいものだ。
「え……いや……それは悪かったよ……そんな落ち込むなって」
「くそぉ……お前がそんなに戦りてぇなら相手してやるよ。ちょっとくらい怪我しても文句言うなよ」




