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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第七章 地獄の主
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第51話 過去を捨てず未来を見つめて

 事件から約1週間、セリア達はルドンの宿にいた。身体の傷は癒えたものの、まだ完全には立ち直れずにいた。


「セリア、入るぞ」


 グラとフリナがセリアのいる部屋にノックをして入ってきた。ユリハも連れている。


 セリアはベッドの上にうずくまっていた。怪我のせいではない。失ったものが彼女にとってはあまりに大きく、心に深い傷を負っていた。


「……セリア。お前の気持ちは分かる。儂らだって信じたくはない。じゃが前に進まねば何も始まらんぞ」


「新聞……見た……? エストが死んだって……死んじゃいないわよ……! あのエストよ? あんなことでは死ぬわけがないじゃない……」


「……現実も見なければならない。アイツは地獄に連れて行かれたんだ。地獄っつーのは死んだ悪人の行く場所じゃ。そこに行ったということは……逆説的に考えて死んだと考えることだって出来る……」


「エストは悪人じゃないじゃない! 死んだなんて……! そんなわけ……!」


「じゃから! 儂らはエストに託されたんじゃろうが! いつまでもウジウジしていてはアイツに顔向けできんじゃろ! アイツが生きていようが死んでいようが! 儂らが止まるわけにはいかんのじゃ!」


「おい! グラ! そこまで言わなくても……」


 グラにそう言われ、少ししてからセリアは顔を上げた。涙を浮かべつつも、それを拭って凛々しい顔を見せた。


「……そうよね……。うん……。しっかりしないと……!」


「……セリア……無理はしなくていいからな。お前はまだ子供なんだ」


「ううん。ちゃんと気持ちを強く持たないと……。私は魔族や魔王と戦わないといけないんだから」


「……そうだな」

 

「セリアお姉ちゃん元気出た……?」


「……ええ、ユリハ。心配させちゃったかな?」


 セリアはユリハの頭を撫でながらそう言った。彼女は落ち着いた様子だったが、実際には気持ちを整理しきれてはいなかった。


 だが前を向かなくてはならないとグラに背中を押されたことで、形からではあるが、姿勢を整えることが出来た。


「でもエストのことも諦めないわ。邪教は魔神の復活を目指してる。でも奴らは魔神は死んだものだと思ってる。それなら邪教を調べれば地獄の情報も得られるはずよ」


「それは賛成じゃ。クランを大きくしつつ当面はそれが活動の中心になるな」


 セリアとグラ、フリナでこれからのことについて話した。魔族の侵攻までは時間がある。それまでに力を付け、エストも助け出したい。具体的な作戦があるわけではないが、とにかくそうするしかなかった。


「おい、“豪炎”の人達、いるかい?」


 扉をコンコンとノックをし、自分達を呼ぶ声にセリア達は反応した。セリアとグラは知っている声だった。特にセリアは。


「お兄様……ですか? まさかいらっしゃるなんて……」


 セリアは扉を開けながらそう尋ねた。そこに立っていたのはギルバート、セリアの兄で六法帝の一人だ。


「事件を聞いて駆けつけたんだよ。……エスト君のことは……気の毒だったね」


「……。わざわざ来るなんて、何かあったのですか?」


「いや、君達に提案をしに来たんだ。……仲間が増えているね」


「……提案?」


「魔族が侵攻を3年後に始めるっていうのは知ってるね。それまでに戦える人達を育てる必要があるんだよ。で、セリア達にその気があれば僕が鍛えてあげるよ」


「いいのですか!?」


「忙しくもないしね。それにセリアとグラ君なら僕達と同じように法帝ほうおうになれると思ってるよ。能力スキルを昇華させた者のうち、既存の法帝ほうおうに認められれば新たな法帝ほうおうになれる。九月を倒した君達ならもうすぐさ」


 それを聞いたセリアとグラは“お願いします”とお願いした。そしてフリナも。彼女達にとってそれはこの上なく嬉しい提案であった。皆が強くならねばと思っていたから。


***


「おーい! クロワール君! 僕の可愛い弟が死んでしまったよ!」


 魔界に三界の叫び声が響いた。魔神の一番の子、最強の魔王にして最強の三界の声だ。


「大して悲しいなんて思ってもないだろ。聞いたぞ? 相打ちだってな」


「デュール君も……勝手に戦っちゃうし。まぁエスト君には期待してたけど……所詮その程度だったってわけか」


「…………怒ってないんだな? せっかく生かしてた奴を殺されたってのに」


「死人を怒っても無駄だろう? ……兄弟喧嘩は嫌なもんだしね」


「本心か?」


「ふふっ。まさか。喧嘩は最高だろ」


 やれやれ、とクロワールはため息を吐いた。自分達の頭がこんなふざけた奴であることに頭を悩ませていたのだ。もちろん、今に始まったことではないが。

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