第49話 地獄の番犬
「フリナお姉ちゃん……当たった……?」
「ん? ああ、ちゃんと役に立てたようだ。」
巨大な森が現れた地点から1キロ程度離れたところに2つの影があった。片方はフリナ、もう片方の小さな影はユリハのものであった。
目が覚めたばかりでセリア達の戦っているところに駆けつけることは出来なかったが、弓を使って加勢したようだ。それが決定打になることはなかったが、繋ぐことは出来た。
「ちゃんと借りは返してもらったし、エストの方も随分暴れてるからな。お前のことは私がしっかり守るよ」
「……ありがとう」
***
「クソッ……邪魔だな!」
「『百花繚乱』!」
「う、うおぉおおおおお!!」
デュールの召喚した魔族を一掃した。だがヤツらは既に死んでいる。倒そうとも倒そうとも何度でも起き上がるので、一向にデュールに近寄れない。いや、近寄れてもすぐに離されてしまう。このままでは埒があかない。
「おい! お前、Sランクのエストだな!? 何の騒ぎだ!?」
「!?」
戦っていると後ろから声がした。騒ぎを聞いてやってきた冒険者達だ。
「魔王がいた! ここにいる魔族はそいつが召喚したヤツだ! 悪いが相手してくれるか!?」
「構わないが、お前はどうするんだ!?」
「親玉を倒してくる! そいつらは死人だから倒そうとせずに時間を稼ぐことを考えろ! 分かったな!」
「承知した! こっちは任せろ!!」
ふぅ……。これでおれはアイツの相手を出来る。おれはとりあえず魔族を殴る蹴るで蹴散らし、デュールの前まで向かった。
「お前……そろそろおれの相手をしてもらうぞ」
「……面倒臭ぇ……。直接テメェみてぇな奴と戦うなんてよ。それにお前ぇ、自分のやることは正しい“正義”だと思ってんだろ。魔族は悪だってよぉ」
「……」
「それが気に入らねぇんだよ。“正義”の反対は“別の正義”だぜ。俺達は大義のために行動してるんだ。父様……ルシフェル様を復活させるという大義のためにな」
「邪教の目標だろ。お前は2つ間違ってるな。まずおれはお前が魔族や魔王だから殺そうってんじゃねぇよ。お前が人間の命を侮辱して、フリナに手を出したから殺そうってんだ」
「それとおれは正義なんて考えちゃいねぇよ。人を殺すのが正義でたまるかってんだ。おれもお前も正義なんか持っちゃいねぇ」
そうだ。おれは正しいと思うことをやるんじゃない。納得のいくことをやるだけだ。
「……つまらねぇな。じゃあ正義の外で始めようぜ。殺し合いを。恨みっこなしだ」
「『召喚“地獄の業火”』」
「『圧縮身体強化』!」
おれは身体をバチバチと鳴らしながら魔素で身体を強化した。全身が痛むがさっさと終わらせれば後遺症にはならない。これまでの特訓である程度は慣れたのだ。
それと今アイツが召喚して腕に纏ったのはさっきと同じ紫色の炎だ。……やはり触らない方がいい気がする。だから速度を意識しなくては。
「!? 消え……!?」
「『回天』!」
「ぐッ……! 速ぇ!」
おれは瞬時にデュールの背後に回り込み、回し蹴りを喰らわせた。デュールは反応できていない。召喚士としてはあるあるだが、格闘は得意ではなさそうだ。そうとなれば畳みかけるしかない。おれは連続してデュールを攻撃した。
「ぐ……ッ……『炎纏い』!」
「ッ!?」
ヤツの腹を殴った瞬間、手に纏っていた炎を全身に広げた。反応し切れず、おれの手に炎が移ってしまった。魔素を放出しても振り払うことが出来ない。
「熱ッ………つくないな……?」
「ふふッ……。まだそうだろうな」
まだ? どういうことだ? 少なくとも今はほとんど熱くは感じない。少し熱いお湯程度だ。いや、もう少し熱いか? ……違う。熱湯並みに熱い……。
いや、これは……! おれは急いで『圧縮身体強化』を解除した。
「熱ッ……! 熱くなってるのか……!?」
「その通りだ。地獄の炎は苦痛を食らって威力を増す。そしてより大きい熱を帯び、さらに苦痛が増幅する。そして魂を燃やすのさ」
「ぐ……ッ! クソッ!」
最初に『圧縮身体強化』を使っていたせいで、炎の火力が上がってしまっていた。落ち着け。苦しみを抑えなければならない。
「『部分身体強化』……!」
「『堕天』!」
出来るだけ攻撃は受けてはいけない。脚に魔力を集中させ、デュールに接近、上から蹴り落とした。
「くッ……! まだこれだけの力がッ……!」
脳天を蹴りつけるつもりだったが、腕で防御されてしまった。それでも、まだ膂力と速度はおれの方が上回っている。
だがモタモタしている時間はない。早くアイツを倒し切れなければおれの魂が燃やし尽くされてしまう。
「『大氷海』!」
「!!?」
デュールが手から氷を出し、おれの足を地面に固定した。これもただの氷ではない。熱く、異様に硬い。
おれは鉄程度なら砕くことが出来るが、これはビクともしない。『圧縮身体強化』なら壊せそうだが……リスクがあるからまだ発動すべきではない。
「テメェは俺じゃあ倒せねえ……もっと強い奴を召喚しねぇとな……!」
「来い! 地獄の番犬“ケルベロス”!」
「ん!?」
デュールは地面に手をつけ、そこから三つ頭の巨大な犬を召喚した。高さ2メートル以上の大きさだ。それと同時に周囲に召喚されていた魔族の姿が消えた。
恐らく複数の召喚を解除する代わりに本人以上の力の者を召喚する条約なのだろう。奴の纏った炎も消え、足元の氷も溶け始めていた。
だがまだ足は動かせないし、おれに付いている炎は消えない。
「ガウ! グルルルル………! グワゥ!!」
「うおッ! ……?」
ケルベロスがとんでもない勢いで噛みついてきた。おれはなんとか体を左側に捻り、ケルベロスはおれのすぐ右を通過していった。
攻撃はしないのか…? 一瞬、おれはそう思った。ほんの一瞬の出来事で、気づくのが遅れたのだ。
「……!? が……ァアアアア……! …………がッ……く、くッ……!」
ケルベロスはおれの右腕を咥えていた。何を食っているのかと思えば……! あまりの激痛におれはまともに声を発することが出来なかった。
マズい……! 落ち着け! とてつもない速度で炎がおれの魂を喰らっていくのを感じた。マズい……本当にマズい……!
「フフッ……ハッハッハ! そろそろ死にそうだな! 今度こそソイツを食い殺してしまえ! ケルベロスよ!!」
おれの右腕をペロリと平らげ、ケルベロスは再びおれの方を向いた。腕の痛みと炎に焼かれる痛みによっておれの意識は薄れかけていた。
それに加え、足が氷で固定されており、この上なく絶望的な状況であった。なんとかしなくては……! おれは働かない頭を最大に回し、なんとかして打開策を考えようとした。




