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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第六章 航海
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第41話 昇華

「エスト! 目が覚めたのね! よかったぁ」


 おれが起きたことに気づくとセリアは安堵した声でそう言った。セリアの声に反応するようにグラとフリナも気づき、大丈夫か、ゆっくりしとけと声を掛けてくれた。


「グラは大丈夫なのか? 怪我してただろ?」


「儂はすぐに治ったさ。ドラゴンじゃからな。……まぁ相変わらずお前の回復力には驚かされるが」


「ねぇ、エスト。起き上がりで悪いんだけど、こういうときじゃないとあやふやになりそうだから……」


 そういうと少し悲しげで、申し訳なさそうな顔をしながらおれの肩に手を置いた。何だ? おれはセリアが何を言っているのか理解できずに困惑していた。


 すると、“パチィーン”という音が静かに部屋中に響き渡った。一瞬何が起こったのかを理解できなかったが、どうやらセリアがおれの頬を叩いたようだ。それでもイマイチ状況が飲み込めずにいるとセリアが口を開いた。


「あのとき前に出ないでって言ったじゃない……。エルフの長老様にも言われたじゃない……。何でそうやって無茶をしちゃうの……。死んじゃってたらどうしたの……」


「……。ごめん。これからは気をつけるよ」


「……いや、エストは変われないでしょ……? だから私を置いていかないで……。それだけでいいから……」


「……約束だもんな。セリアの知らないところでは死ねないから。死ぬときはセリアの目の前じゃないとな」


「それはそれでいやよ」


 セリアは軽く笑いながらそう答えてくれた。だがどうにか強くならなければ。三界相手には手も足もでなかった。


「そうだ。バンリュー……だったか? 君が起きたら教えてくれと言われていてな。呼んできてもいいか?」


 おれとセリアがやり取りを終えるとフリナがそう言ってきた。バンリューがおれに用があるのか……?


「ああ、頼むよ」


 フリナがバンリューを呼んでくるまでの間、おれはグラとセリアから話を聞いていた。おれが倒れたのは昨日のことのようで、ここは昨日とっておいた宿とのことだ。


 街は半壊状態のため、この宿を始めとして色々なところで住むところを無くした人を援助しているようだ。そのような話を聞いていると、扉を叩く音がした。フリナが帰ってきたらしい。


「……お前が……ネフィル=エストだな……?」


「ああ、そうだ」


 そこには三界と戦っていた若い男が立っていた。人類最強と呼ばれている男だ。


「デスバルトに狙われていたな……。何か心当たりはあるか……?」


「心当たりは無いけど……冒険者になってすぐに九月と戦ったから目をつけられたのかもな」


「……なるほどな……。分かった……。失礼したな……」


 バンリューはそれだけを話して帰ろうとした。その話だけをしに来たのか……?


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「……?」


「おれを鍛えてくれないか?おれも三界と戦えるようにならなきゃいけないんだ。今のままじゃダメなんだ。もっと強くならなきゃいけないんだ」


 相手は人類最強だ。せっかくの機会を逃したくない。おれは少し焦り気味の口調で話した。バンリューもおれの気持ちを理解してくれたようで、深く聞くことはなく、少し考えてから口を開いた。


「……悪いが……俺は人にものを教えられるほど器用ではない……。俺には元々、師などいないからな……何も教えられない。それにお前は傷を癒すために時間が必要だろう……」


「……」


 確かにおれはすぐに動ける身体ではない。悔しいが、普通に考えれば鍛えてもらうことなんてできないか……。


「……まぁ一つ助言をすると……能力スキルを“昇華”させることだ……」


「昇華……?」


能力スキルを完全に自分のものにすることだ……。本来(セスフ)様から与えられる能力スキルを支配するというのは、より高次元な存在になることを意味する……。それだけで魔力が増えるし、何より能力スキルの効果が強化される」


「なるほど……?」


「お前は魔力がないようだが……多分その分何かが強化されるだろうしな……。コツは……頑張れ」


 そう話して今度こそ彼は部屋から出ていった。最後は曖昧なアドバイスであったが、まぁ頑張ればなんとかなるということだろうか。三界が大きくまでは3年ある。それまでに能力スキルを完成させることを目標にしよう。


「エスト、先を見据えるのも大事だけど今はしっかり寝てなさい!」


 胸に開いた、物理的に開いた傷と蹴られた首はまだ痛む。本来は喋るだけでもキツい。というかまだ1日しか経っていないので、少し動くだけでもまた血が出てきそうだ。セリアの言う通り寝ておくのがいいだろう。


「うん。おやすみ」


 フリナが用意してくれていたリンゴを少しつまんでから再び眠りについた。

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