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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第五章 エルフの里・ユラトラ
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第35話 海へ

「はぁーー」


 宿に着くとすぐにベッドに倒れ込んだ。思い返してみれば昨日から寝ていないんだった。どうりで疲れが激しいわけだ。


 仰向けに寝っ転がりながら右手を天井に向けた。手の届かない照明をグラグラと揺らすことが出来た。


「念力か……」


 触れずに力を伝える、確かに便利だ。でもどれくらいの力が出るのだろうか。さっき試したときは純粋なおれの力と同じくらいだったが、練度を上げることで出力も上がるのか? おれのコントロールする魔素のエネルギーと融合させることは出来るのだろうか?


 ……分からないこともまだ多いが、今すぐに試せることでもない。疲れたしとりあえず寝よう。


 おれは明かりを落として眠りに着いた。


***


 鳥のさえずりと木の葉を通る風の音に目を覚ました。よく寝た。いい気分だ。……またしても本当によく寝過ぎたかも知れない。いや、セリア達が起こしに来てないから、今日は別に早起きしなくてもいい日な可能性もある。


「エスト! 起きてる?」


 どうやらそういう日でもないらしい。


「ああ! 起きてるよ! ちょっと待っててくれ」


 おれは返事を返して部屋を出た。時計を確認するとすっかり昼だ。昼ご飯を食べに行くから起こされたらしい。今日は昨日とは違う料理屋に向かった。


「ここでやることももう無いし、出発する?」


「そうだな。やり残したことが無かったらもういいんじゃないか?」


 この里は強くなると入れないらしいからな。今ここでやるべきことはやっておく必要があるが、おれは精霊との契約も済んだし残る理由もない。空気も景色も良いからまたいつか来たいとも思うが、今は旅を続ける方が優先だ。


「儂はここで料理を教えてもらいたいぞ。いつまでも下手なままではいけないからな!」


「頼むから勘弁してくれ。お前はもう二度と食材に触らなくていいから」


「私もグラは食べるだけにしておいた方がいいと思うは。人には向き不向きがあるものね」


「あ、ああ、分かった……」


 セリアが笑顔で言った言葉でグラは諦めた。可愛らしい顔なのに、どこか恐ろしさを感じる笑顔だった。グラもその圧力に屈したのだろう。


「まぁここを出るとして、次はどこに行くんだ?」


「今ここは西パロンド大陸の北端だから、これから中央センダル大陸に行くために船に乗って行こうと思うわ。陸で行ってもいいんだけど遠いからね」


「船か……ってことは海だよな!?おれ海見るの初めてだなぁー。……グラに飛んでってもらえば良くない?」


「まぁそれもそうだけど……」


「じゃから儂は嫌じゃと言っとるじゃろうが! 王を乗り物扱いするんじゃない!」


 どうしてこう……どうでもいいところにこだわるのだろうか。まぁプライドなのだろうが、そこまで気にする必要もないだろうに。


「まぁゆっくり行きましょう。急いだところで私達もなにも出来ないから。せっかくの旅なんだしね」


「……そうだな」


 食事を終えておれ達は店を出た。軽く食材など必要なものを買って、いつでも出発できるよう準備を整えた。


「最後に長老さんのとこに挨拶行くか」


「そうね。お世話になったし、本当はフリナにも挨拶したかったけどね」


 フリナは探してみたけど今里にはいないようだ。フラドさんがもう出掛けてしまったと言っていた。


 世界樹を降りて根元の家に来た。そして扉をノックして中へ入る。


「お世話になりました。今日(ここ)を出ようと思います」


「……そうか……。この前にも言ったが……君達にはこれから様々な試練が待っているだろう……。だが挫けずに努めなさい……。良い未来を期待してるよ……」


「もちろんです。ところでフリナがどこにいるか分かりますか? 挨拶して行こうと思いまして。」

 

「フリナ……? ……ああ、彼女なら大丈夫だよ……。気にせずに発ってくれて構わない……」


「え……そうですか……」


 大丈夫とはどういう意味だ……? もしかしたらこのまま出発すれば会えるということだろうか。まぁ大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。


 ありがとうございましたとお礼を言って家を出た。その後は向かう方向を確認して里を後にした。


「いやぁー、良いところだったな」


 森の中を歩きながら話していた。住民のエルフ達も良い人ばっかだったし、壮大さも凄かった。魔族との戦いを終えたらもう一回来たいな。


「そうだろ! 良いところだっただろ?」


「ああ、本当に。……!?」


 振り返ると後ろにはフリナの姿があった。いつからだ?普通に後ろに立っているんだが。


「フリナ! いつからいたの?」


「ずっといたぞ? 私はエルフの中でも特に気配を隠すのが得意だからな」


「なんで隠れてたんだ?」


「いや、びっくりさせたいだろ。せっかくなら。……それより私も冒険に連れてってくれよ!海に行くんだろ? 見たことないんだ。兄さんにも行くって伝えたから」


「いや、良いけど……どういう風の吹き回しだよ」


 ついこの前まではまだ行かないとか言っていたのに。なぜ急に行く気になったんだ……?


「君が闇の精霊と契約しただろ? そんなこと話にも聞いたことなかったから凄く衝撃的だったんだ。ビビっときてな。世界にはいろんな不思議なことがあるのかって!」


 聞いてるだけだと大した理由には聞こえないが、本人からしたら大きなことだったんだろう。世界を見てみたいとも言っていたしな。


「まぁおれ達はフリナが来たいならいいぞ。これからよろしくな」


「ああ、よろしく!」

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