第03話 魔族か人間か
「っていうか、セリアも魔族を滅ぼすつもりなのか?」
「まあね。魔族は数も強さも尋常じゃないから、そんなことは夢物語だって言われてきたけど。魔族のせいで大切な人を亡くす人はいくらでもいるのよ? それに大英雄ユリオス様の無念を晴らしてやらなきゃ」
「だからあなたの言葉はすごく嬉しかった。この世界で私は1人じゃないって思えたんだもの」
彼女の言葉からは並々ならぬ覚悟が感じられた。魔族を滅ぼすなんて誰も真に受けないかもしれない。でも、それを乗り越えて来たからこそ彼女は強いのだろう。
「ほら、エスト。見えてきたわ。あれが英雄の街・プリセリドよ」
「は〜! デッケェ街だな〜!」
英雄の街。大英雄ユリオスが生まれ育った街らしい。2000年近くも昔の話であるが、今でも英雄に憧れた者がこの街を訪れた。そのため世界で最も冒険者が集まる土地で、冒険者の街とも呼ばれているらしい。
「ひとまずギルドに行きましょうか。冒険者登録しないと。私が紹介するけど、あなたなら高いランクから始められるかもね」
「そうだといいな!」
冒険者の階級というのは下がEランク、上がAランク、Sランクと続くようだ。セリアは既にAランクで、ここまで若くしてAランクになっているのは非常に珍しいことらしい。
冒険者のシステムなんかを聞きながらギルドまで向かった。道中いろんな宿屋や料理屋、武器屋などが並んでいた。冒険者がよく利用するものなのだろう。
「ギルドも大きいんだなぁ。これなら間違えることもなさそうだ」
縦に4・5メートルもある巨大な両開きの扉が構えてあった。居酒屋のようなものかと予想していたのだが、そんな規模ではないらしい。
「基本どの街にもギルドはあるんだけど、初めて来た人にも分かりやすいように大きな扉にしてあるのよ。中には訓練場なんかもあるから建物自体もそこら辺の店より大きいのよ。お屋敷みたいでしょ?」
中は随分と騒がしかった。活気があるというよりは、何か非常事態でも起こったかのようだった。
「おお、グランデュース、無事だったか!」
「……! ギルドマスター! 何かあったんですか!?」
筋骨隆々の中年の男がどうやらギルドマスターらしい。身長2メートルを超えるまさに巨漢であった。
ギルドマスターとはギルドの最高責任者のことだ。かつては高位の冒険者であることが多いようだが、前線を引いて事務作業などが主な仕事のためギルドマスターが表に出てくることは滅多にない。
そんな男が扉を開けてすぐいるのだから、ただごとではないことは分かるだろう。
「お前が山に向かった後に大きな魔力の反応があったんだが、魔物のものとも違ったんで魔族かもしれんと思ってたんだ」
「魔族? 魔族が出たんですか? そんな感じはしなかったけど」
「いや、一瞬だけ反応があったんだ。ほんの一瞬だから俺以外気付かなくてな。だから余計心配だったんだ。普通の魔族は魔力を隠せねぇから」
「一瞬魔力の反応が、ね。危ないことはなかったけど、心当たりならありますよ」
「本当か! 何かあったのか!?」
「説明するのでどこかの部屋へお願いします」
「エスト、あなたも来て」
おれとセリアは会議室に呼ばれた。当然、誰もおれのことは知らないので、周りの者は皆不思議そうに見ていた。
「とりあえず座ってくれ。それで、話を聞かせてもらおうか。その小僧が関係してるのか?」
「ええ、恐らく。彼は東大陸から転移してきたと思われます」
そこでセリアとおれはこれまでの成り行きを説明した。
「今の話だとすげえ距離飛んできたんだな。にわかには信じ難いが、それ以外理由も考えられん。昼間だからおかしいとは思っていたしな」
「魔族はいないと思いますよ。山の調査中も不審な点はなかったので」
「……? 昼間は魔族は出ないのか?」
「魔族って元々獄境に住んでたでしょ? そこって薄暗いところだから魔族は暗い時間の方が慣れてるのよ」
初めて知った。やっぱり知らないことはまだまだあるんだな。
「それよりギルマス、エストの試験をお願いします」
「お前が推薦するなんて珍しいこともあるんだな。パーティも組むんだろ?」
「気が合ったんですよ。では受付の方で依頼の報告を済ませてくるので。エスト、ギルマスと一緒に先に行ってて」
「おう、分かった」
おれはギルドマスターについて行った。中庭の訓練場で試験とやらをやるらしい。
「なぁ、試験ってなんなんだ?」
「あぁ、聞いとらんか。冒険者がランクを上げるためには依頼をこなして実力を証明する必要があるんだがな。初めて登録するときはEランクからが基本なんだが、元から強い奴はいるだろ? だから高位の冒険者が推薦すれば試験を受けさせて、認められればDかCランクから始められるんだ」
「推薦が必要なのか?」
「人柄の悪い奴を高位にはできねぇからな。保証がいるんだよ」
「あとは試験を受けて昇級することもできるがな」
なるほど。強いやつは歓迎するが信用できるかどうかが大事ってことか。
「もう一つ聞きたいんだけど」
「セリアが魔族を滅ぼしたいって、でもそんなこと言う人は誰もいないって言ってた。魔族から人類の生活圏を取り戻そうと思うやつはいないのか? そりゃ難しいだろうけど少しくらいいてもいいじゃないか」
「いない訳ではないさ。世の中広いからな。ただ人類と魔族の戦争ってのはユリオス様の死後ほとんど停滞してんだ」
「それなら頑張れば勝てるかもしれないじゃん」
「人類が負けてないのは三界が出て来ねえからだ。なぜかは分からんが奴らは魔界からほとんど出て来ねえ。それにお前も分かってるだろうが魔族の数なんて途方もねぇからな。それなのに勝てると思ってる奴はそうそういねぇよ」
「……」
「まぁ世の中不可能な事なんてねぇさ。お前らが頑張ればこんな戦いも終わるかもな」
「やってやるさ。おれは強さには自信があんだ」
「それをこれから見せてみろよ。しっかりな」
中庭へ出ると中央に30メートル四方程度の石畳のリングがあった。ここが訓練場だろう。おれとギルドマスターは距離をとって向かい合った。
「さて、始めようか。お前の力を試してやる」
「手ぇ抜かないでくれよ。本気で行くからよ」




