第27話 昔の言葉と新たな名前
おれとセリアは街の宿へと帰った。道中談笑しながら帰った。技の話をしたり、魔族との戦闘の話をしたり……。セリアは言いたいことを言ったからだろうか、なんだか声が軽くなっていた。
「グラ! 居るか!?」
おれは宿の、グラの部屋をノックした。返事がないな。まだ帰っていないのか?そんなことを思っていると……
「おぉ。居るぞ! 帰ったか!」
……ん? この部屋からではない……。隣の、おれの部屋から声がした。なんで自分の部屋にいないんだ?
「ただいま。なんでおれの部屋にいるんだ?」
「うん? いいじゃろ?」
「いや、いいんだけどよ。普通の人なら自分の部屋にいるべきだと思うんだよな」
「儂の部屋よりこっちの方がいい部屋なんじゃよ。細かいことは気にするな! それにしても思ったより早く帰ってきたな。もっとゆっくりするかと思ってたのに」
「別に無駄に長くいる必要もないからね。でもグラがいるなら早速話を始めましょうか」
話? おれと居るときには話してなかったからグラにも関係ある話ということか。
「話とはなんじゃ?」
「私達九月を倒したじゃない? そのおかげで結構有名になったのよ」
「うん……まぁそうだな」
「で、今はまだ私達の力が足りないけどそのうち三界とも戦うことになるわけでしょ? そうなると相手は大戦力だから私達にも大量の戦力が必要なのよ」
「そうじゃな」
「そこでよ。私達の仲間になりたいって人達もいるはずなの。だからそろそろパーティなんて単位じゃなくてクランを設立させてもいいと思うの」
クランというのは複数のパーティだったり個人の冒険者が所属する、言ってしまえば巨大なパーティのようなもので、ギルドに次ぐ冒険者の組織だ。
高名な冒険者が組織したクランに入れば高位の冒険者との繋がりが出来やすく、昇級しやすくなったり高報酬の依頼を受けやすかったりするなどの利点がある。また、強い人間との関わりは成長にも繋がるため、ギルドでも推奨されている。
「まぁクランを作るのはいいけどさ。実際どうすれば作れるんだ?」
「パーティと同じようにギルドに申請すればできるわよ。募集もお願いすればしてくれるし。そこから私達が選べばいいのよ」
「ほーん。どういう基準で選ぶんだ?」
「まぁ……私達は三界を倒すのを目標にしてるっていうのを伝えておかないとね。その上で着いてくる人なら割と誰でもいいと思うわ」
「そんな見つかるかな?」
「まぁ少ないでしょうね。でも世間的には私達って九月を倒したって情報があるんだからこれまでよりは集まりやすいはずよ」
確かに、実際九月を倒せる人間なんてそうそういないだろう。そう考えると三界もそこまで遠いと思わないかも知れない。
「で、ここからが本題なんだけど……」
「なんじゃ? 本題じゃなかったのか?」
「クランを作るなら名前を決めないと……! とびっきりにカッコいい名前を!」
「おお! そりゃそうだ! 名前は大事だ!」
「こだわるところはそこじゃないじゃろ……。まぁ名前を考えるのはいいがよ」
うーん。名前か……。どんな名前がいいのだろうか。
「豪炎でいいんじゃないか?」
「それはダメだろ。パーティ名とは別にしないと」
「そうね。それにそれは私とエストから取った名前だから。せっかくならグラっぽさも欲しいところよ」
「それか全く新しい感じにするか……か」
「なんでそんなにノリノリなんじゃ、お前達は。柄にもなく年相応にはしゃぎおって、まったく」
そう言いつつもグラは少し楽しそうに微笑んでいた。楽しいだろ、名前を考えるのは。グラは人間よりも歳を重ねているはずだから多分達観してしまっているのだ。
「んー。でも思い浮かばないな……」
「そうね……。グラは案ない?」
「じゃから儂は豪炎でもいいと言っとるじゃろ。思い浮かばんわ」
「それはダメだって」
とは言っても“豪炎”って名前がそこそこグラっぽさもあるんだよな……。というか“豪炎”のクランだと分かりやすい名前ってのも条件に必要か……。
「あんまりパーティ名から遠ざけるのは良くないか……」
「……難しいわね…。……! じゃあこんなのどう?」
何かを閃いたのか、セリアが紙に文字を書き始めた。そこに書かれた文字は……
「『煌焔』……? 豪炎に近くておれ達だ、って分かりやすいか……。いいんじゃないか?」
「いいのか……? なんかダサいと思うぞ?」
「カッコいいじゃない。ねぇ、エスト」
「うん。カッコいいよ」
「……まぁお前達がいいならいいじゃろ」
煌焔か、カッコいい名前だ。カッコいいし、っぽさもある。そういう訳でおれ達の名前会議は終了した。
「じゃあ、おやすみなさいエスト、グラ」
「ああ、おやすみ」
「エスト! 明日は朝にちゃんと起きるんじゃぞ!」
「いやぁ……昔から言うだろ?“魔を破るのは夜明け前”って。つまり朝から活動するのはおれから言わせてみればナンセンスだ」
「初めて聞く言葉ね。誰の言葉?」
「そりゃおれだよ」
「そうか。少し興味を持った儂がバカじゃった」
いや、本当に早起きはしんどいんだ。頑張ればできるけど、頑張り切れない。絶妙に怠惰な性格なのが困るときが来るとは。
「怪我が完治した訳じゃないんでしょ? 無理はしなくてもいいけど、寝るのは早くしなさい」
そう言ってセリアとグラは自分の部屋へと帰っていった。そう簡単に治る怪我でもないから早く寝たってそこまで変わらないのだが。そう思いつつもおれは言われた通りに眠りについた。




