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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第四章 九月
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第26話 たとえ死んでも

「じゃあね、エスト。明日もまた来るわね。おやすみ」


「くれぐれも安静にしとくんじゃぞ! 休めよ! ちゃんと」


「ああ、分かってるよ。ありがとうな」


 セリアとグラは部屋から出ていった。とは言っても、2人ともこの宿を取っているようなので部屋が違うだけだ。


 さて……安静にしとくように言われたが何もしないのはあまりにも退屈だ。寝ればいいかもしれないが、ついさっきまで寝ていたのでまだまだ眠りにはつけない。そうは言っても身体は痛くて動かせないしな……。


 いろいろと考えた結果、魔素の操作コントロールを鍛えることにした。基本的には疲れることもないし、やはり暇なときにやっておくのがいいだろう。


「まずは圧縮からやっていくか」


 うん。前よりも大分スムーズにできるようになった。やはり実戦を積むとそれだけ成長に繋がるな。練習なんかよりは命のやり取りの方が効果的だ。もちろん、高頻度で死にかけたくはないけど。


 次は“圧縮身体強化フルブースト”を試したみた。これは圧縮した魔素を全身に纏ったり、全身を巡らせることで攻撃力や防御力を底上げする技だ。


 その他にも、慣れればガルヴァンさんがやってた魔力の壁のようなものを簡単に作れたり、“白天ハクテン”も溜めずに打てるようになるはずだ。

 

「ゔッ……ってぇな……」


 圧縮に慣れていない現状では体内を砂粒とか石ころが流れているような痛みがある。魔素をムラなく圧縮できるようになればこの痛みもなくなるだろう。


 この前はやるしかなかったから使ったが、慣れるまではどうしようもないとき以外は使えないな。だが早くモノにしなければ九月以上の相手にはおれの力は通用しない。


 ただし、魔素を巡らせれば治癒能力が上がるようだ。身体や骨の傷が少しずつ癒えていくのが実感できた。まぁ痛いものは痛いのだが…。


 ただでさえ痛む身体を更に痛めつけていると気づいたときには夢の中にいた。


***

 

 日差しに顔が照らされ目が覚めた。あぁ……よく寝た。今は何時くらいだろうか。まだ眠いな……。もう少し寝てしまおうか……。


「エストー! いい加減起きたー!?」


 扉の向こうからセリアの声が聞こえた。しまったな、もしかしたら結果遅い時間だろうか。


「……ああ……今起きたところだ……」


「まったく遅いわね。入るわよ!」


 こちらの返事を聞かずに部屋に入ってきた。まぁ見られて困るものもないから気にしなくてもいいんだが。


「あれ? なんだか元気そうね?」


「ん? あー……確かに怪我は結構治ったな。肩は痛ぇからあんまり動かせねぇけど」


「じゃあ息抜きにちょっと出掛けましょうよ。エストも部屋に篭りっぱなしじゃあ暇だったでしょ?」


「いいけど……グラは?」


「出掛けてるわ。だからデートになるわね」

 

「そうか。準備するから待っててくれ」


 おれは着替えたり顔を洗ったりして宿の外に出た。久しぶりに外の空気を吸っていい気分だ。澄んでいて軽い空気は肺に心地いい。体を伸ばしてみたが左肩が痛いのであまり伸ばせなかった。やっぱり気をつけないといけない。


「エスト、行こう!」


 おれはセリアに引っ張られて街を回っていった。祭りでもやっているのだろうか。異様に人が多く屋台も出ている。


「今日は祝日らしいわ。お肉が美味しいから食べてみて!」


 セリアと一緒に色々と回って食べ歩きもした。セリアはやけにはしゃいでいるな。このところ考え込むことが多かったからスッキリしていいかも知れない。本当にデートをしてる感覚だ。


 その後もおれ達は街中を回っていた。特別何かがあったわけでもないが、やっぱりこういうのが一番落ち着くな。


 おれが起きたのは午後であったから、6、7時間くらいだろうか、街を見た後、少し離れた山まで来ていた。


「セリア、なんでこんなとこまで来たんだ?」


「まぁついて来てよ。見せたいものがあるんの」

 

「?」


 なんだろうか。こんなところまで来て……。この辺はただの暗い道が続いているだけだ。


 不思議に思いながらセリアに着いていくと少し開けたところに出た。


「おお……!」


 そこからは街の夜景が見えた。今日は祝いの日だから街全体が赤や黄色で暖かく光っている。人の動きも微かに見えて、それもまたいい味を出している。


「綺麗でしょ? エストと見たかったの」


「おれと?」


「エストさ、1週間も起きなかったから本当に心配したのよ……!」


「ご、ごめん」


「大怪我もしてたしさ……死んじゃうかもって思ったのよ……!」


「……!」


 そう言うと突然としてセリアに抱きつかれた。そんなに心配させてしまったか……? こういうときなんと言えばいいのだろうか……。


「危なかったらさ、逃げたっていいのよ……? お願いだからさ……私の知らないところで無茶して……私の知らないところで勝手に死んだら許さないからね……!」


「……! ……ああ、分かった。心配させてごめん。勝手には死なないって約束するよ」


 おれはセリアを優しく抱き返した。セリアは激しく泣いていた。本当に心配させた……いや、怖がらせてしまったようだ。セリアからしたらおれは初めてできた仲間なわけだ。


 もちろん、おれからしてもそうだ。そんな大事な相手をこんなに泣かせてしまっては男失格だ。もっと強くなって、死んでも仲間を守れるように、死んでも死なないように、おれは心にそう誓った。

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