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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第四章 九月
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第23話 痛みを越えて

「『圧縮身体強化フルブースト』!」

「ぐ……ぐぁ……あああ!」


「……?」


 圧縮した魔素を全身に張り巡らせた。一点集中でないとまだ不完全だからだろうか、まるで石ころが身体の中を流れているような激痛が全身を支配した。


「くッ……ぐ……」


「なんだなんだ? 勝手に自滅する気か?」


「へへ……テメェ相手に守ってばっかじゃ勝てねぇだろうってな」


「へー。その判断が良いか悪いか……だね! ……お!?」


「ぐッ……」


 懐に接近してきたハバの拳を腹で受け止め、その腕を掴んだ。防御は最低限に、攻撃は最高に……!


「『天爆テンドン』!」


「うおッ!!」


 拳が少し発光し、圧縮した魔素も放出した。本当は腕を掴んだまま撃ちたかったが、形を変えられてしまい放してしまった。だがこの感覚だ。少し溜めればもしかすると……。


光線ビームと似た感じだな……! いいぞ!」

「『氷の矢の雨(アイスアロー・レイン)』!」

「『氷の槍(アイススピア)』!」


「うッ……!」


 魔法も使うのか……! 大体の能力保持者スキルホルダー能力スキルを極めることを優先することが多い。だがヤツは魔法の精度もかなり高い。全ての氷がおれの体を突き刺した。


「『連白天ハク・ハクテン』!」

 

 おれは両手を前に出し、10本の指から“白天ハクテン”を繰り出した。消耗は激しいが、単純な攻撃力は相当高いはずだ。それなのにすぐにハバの身体は治っていく。


「その程度じゃ効かないよ!」


「消耗は……するはずだ……!」


「『氷の大地(アイスィフィールド)』!」


「くッ!」


 周囲数十メートルの地面が凍りついた。咄嗟のことに反応できず、足も凍らされてしまった。身動きができない。


「これで生き延びれるか!?」

「『硬質氷拳ナイギン』!」


「がッ……はッ……!」


 鋭く硬化された氷の腕がおれの肩を貫いた。なんとか上半身をずらして心臓は避けることができたが、傷口からだんだんと凍り始めた。冷たく熱い感覚がおれの身体を鈍くする。


「このままお前の心臓を凍らせてやろうか。それともただ死ぬのを見といてやろうか」


 まずい……! 肺にも穴が空き呼吸が苦しい……。コイツの魔法を止められない。……が、これだけ近づいていれば……!


「お前……能力スキルで体を治したんだもんな……。さっきお前の腕を掴んで確信したぜ……!」


「なに? いまさらそんなことに気づいたの?」


「おれの能力スキルは魔力操作が上手くなるんだ……。つまり触れれば能力スキルなんて……!」


「……!!?」


 そうだ。ヤツの魔力をおれがかき乱してしまえば能力スキルは発動できない。それなら……おれの渾身の一撃をぶつければ……!!


「や、やめろ!」


「ぐッ……!」


 ハバはおれの体をだんだん凍らせながら何度も殴ってくる。脆くなった体の表面は削れていく。だが、おれは右手に魔素を圧縮・集中させていく。意識が飛びそうになっても意地で耐え続けた。


「いくぞ……!『部分身体強化ハイブースト』『圧縮身体強化フルブースト』……!」

 

「ま、待て!」


「『満天マンテン』!!」


「ぐッ……!」


 圧縮した魔力が放出された。“天爆テンドン”以上の威力の打撃に“白天ハクテン”以上の圧縮による攻撃。それは大地も山も削るような威力であった。


「がぁアアアアアア!!」


 いくらハバでもこれほどのエネルギーを無に帰すことはできないだろう。直撃すれば生きていられないはずだ。


「ハァ……ハァ……。ッがは!」


 流石に限界キャパを超えた魔素で身体が悲鳴をあげている。全身がギシギシと軋んでいる。もう指先一つ動かすことができない。ヤツは……ハバは……!


「……くそッ……」


「……ハァ……ハァ……今のは危なかった……。手が放れた瞬間に……治し始めなければ……死んでたね……」

「人間がッ……!」


「ぐッ!」


 すんでのところで生き延びていたハバに蹴り飛ばされた。もう体を動かすことはできない。骨は砕け、肉は千切れているような感覚だ。


「死にやがれ……!」

「『大氷槍ダガランス』!」


「……くッ!」

 

 ここで死んでしまうのか……? こんなところで……こんな程度で……!


 そう思った瞬間、世界が停止した。いや、視界に映るおれ以外の全てのものが凍結していた。これはハバの魔法ではない。魔力の感じも質も範囲も全く違った。だがこの魔力の感じはどこか覚えのあるものだった。


「なんだ!? 何が起こった!!?」


「君がエスト君か。話は聞いたよ。よく頑張ったね。それで君が七番・ハバかい?」


「なんだ貴様は!? どこから来た? なにも……」


 ハバの声が聞こえなくなった。意識を失う直前だったからかもしれない。だが氷漬けにされて二つに斬られていたようにも見えた気がした。


 緊張がほぐれたのだろうか、痛みや出血によるものだろうか、おれの意識はそこで切れた。


「君程度に名乗る名前はないね」


 この日、たった一日の間に2体の九月が討ち倒されることになった。

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