第16話 グラダルオという竜
「あぁー。思えば鉱山登るのも2回目だな。この前みたいに終わればいいけど」
「飛竜と竜じゃ言葉の通り“格”が違うからね。一筋縄じゃいかないわよ。今回は倒せばいいって訳でもないしね」
「それでもセリアがいれば大丈夫さ! 百、いや、千人力になるからな!」
1人だけふざけたやつがいるが、気にしないでおく。ここまで来る道中にもなんか色々言っていたが、気にしていると気が滅入るからだ。
「そういえばバルタ、お前は何ができるんだ? 能力とか教えてくれると助かるんだが」
「そうだな。俺もセリアの能力しか知らねぇし、向かいがてらお互いの能力把握でもしておくか」
バルタの能力は『慧眼』というものらしい。見たものの動きをある程度予測できたり、弱点などを見抜いたりする能力のようだ。
彼自身の戦闘能力はさほど高くないと言っていたが、この能力を駆使することで戦いを有利に進められるようだ。もちろん自身の身体能力には限りがあるので、先読みをしても避けられない攻撃はあるらしいが。
それにしたって中々に強力な力だ。おれも相手の魔力の流れに注視したら動きの先読みもできるだろうか?いや、できたとしても戦闘中には無理か。
「エストの能力はシンプルな強化系かぁ。しかも固有能力者なんて羨ましいなあ!」
「そんなこと言われたって……。どんな能力も一長一短なところはあるだろ」
「じゃあみんなの能力を踏まえて作戦を立てましょうか」
セリアがそう言って話を進めた。仕切るのは頭のいいセリアがした方がスムーズだろう。
「俺は後衛に回るよ。魔法しかまともなダメージにならなそうだ」
「そうね。竜の力ってすごいらしいから基本的にはエストが相手してくれる? あなたの怪力ならなんとか出来るでしょ?」
「おう。やってみるよ」
「まぁでも私も基本は前衛にいるわ。致命傷を与えなくてもチクチクしてればどっか行ってくれるでしょ」
竜とは魔物と違って立派な生物だ。しかも知能は高いので、うまくやればすぐにどこかに行ってくれるだろう。問題は何としても鉱山に残ろうとしたときだ。本格的な戦闘になればどちらも無事では済まない。
「ん? なんだ急に……。……!?」
今いるところが陰に覆われた。今日は雲の一切ない晴れのはずなので、おかしいなと思い空を見上げると……。
そこには巨大な赤い竜の姿があった。飛竜とは比べ物にならない大きさであった。威圧感も全く違う。飛竜が何匹何十匹と集まっても相手にならないだろう。本当に“格”が違うのだ。
なぜ気づかなかった!? 飛竜でさえも近づけば重い空気を感じた。それなのに竜の気配には一切気づけないとは……。もしかしたらこの竜は……!
「貴様ら、人間の子か? 何の用じゃ?」
「喋った!? こいつ、普通の竜じゃないわ! 恐らく上位竜よ!」
「俺達ゃお前をここから追い出すために来たんだ。話が出来んなら戦わずに済むかとも思ってんだが……」
「そうじゃな。貴様らが儂に力を示したら帰ってやらんでもないぞ! グワァアアアアアア!!!」
竜はもの凄いデカさの声を発した。口からは火の粉が溢れ出し、山の岩は崩れ出した。
「2人とも! 一旦山を下りるわよ! 山じゃ危ない!」
「お、おう!」
「逃げる気か!?」
「『炎息』!」
「なッ!!」
竜は口から炎を吹き出した。岩肌を焼き、山の麓まで届くほど巨大で強力な炎であった。あんなものを喰らってはただでは済まないぞ。
ただ……なんだろうな。初めて見たときこそビビったが、巨体の割には大きく感じない。
「セリア! どう思う!?」
おれは走りながら尋ねた。あまりにも曖昧な質問であったが、この状況下ではそれで充分だった。
「火属性の私の能力じゃ効きが悪いと思うわ! エストの攻撃が通るか通らないか次第ね!」
「おい!? あんなのと戦うのか!? 上位竜っつったら」
「ついこの間まで六法帝と特訓してたんでね。あのくらいなら何とかなるだろ!」
「『身体強化』!」
「……! 速ッ!!」
「……!?」
おれは空を飛んでいる竜を殴れる距離まで跳び上がった。無防備ではあるが、相手もまさか人間が跳んでくるとは思ってないだろう。
「一発いかせてもらうぞ!」
「『天爆!」
おれは竜の頬に殴りかかった。相手は防御など出来なかった。だが、ピクリとも体勢を崩さない。
「あれ……?」
「いい度胸じゃ! 小僧!」
「『炎息』!」
おれは魔素を圧縮して周囲に流れを発生させた。まだ壁を作れるほどではないが、これくらいでも炎の軌道を作れば直撃はしない。
「エスト!!」
「大丈夫だ! 問題ない! ちょっと火傷しただけだ!」
「威力凄そうだったのにな。どうにか出来そうか?」
「もう一回試してみる。」
「『部分身体強化!」
魔素を圧縮、集中させた右脚をバチバチと鳴らしながら今度は竜の頭上まで跳ぼうとした。
「ちょこまかと!!」
「くッ!」
噛みつかれそうになったが何とか致命傷は避けられた。もっとも、高温の牙に脇腹を切られたので、痛みは激しかったが出血は大してしなかった。
「これでどうだ!!」
「『堕天』!」
身体を一回転させた踵落としを脳天に打ち付けた。今度の一撃は竜を蹴り落とすことに成功した。落ちる勢いと竜の質量で大地が少し揺れ、鉱山の岩が少し崩れた。
「エスト!! 大丈夫!?」
「ああ、ちょっと痛ぇけど。いや、大分痛ぇや。でも倒れるほどじゃねぇ」
「凄いな。全然Bランクの実力じゃねぇよ」
竜は……ちっとも動かない。死んではいないだろうが、少し当たりどころが悪かったのだろうか。そう思っていると翼を広げ始めた。
「ただ落とせただけかよ……。結構本気の一撃だってのに」
「少々驚いたな! これほどの力を持っていようとは……! じゃがこの程度では竜帝・ジルダ=グラダルオには勝てんぞ!!」
「竜帝!? まさかとは思ったけど、とんでもない大物じゃない!!」
竜帝とは竜の王様のような存在だ。こんなところに現れていいようなやつではない。なぜこんなところに……いや、今はそんなことはどうでもいい。
「セリア、バルタ、少し時間を稼いでくれ。」
「いいわよ……! どうにか出来るんでしょうね!?」
「時間を稼ぐって……。防御しかできないぞ!?」
「充分だ。おれを守ってくれ!」
「行くぞ! 人間ども!」
「『炎息」!」
「『氷の障壁』!」
縦横10数メートル、厚さ1メートル程度の氷の壁が生成された。これなら炎ではそうそう破られない。
「あなたの相手は私よ!」
「『裂火剣』!」
「悪くないな。小僧よりも鋭さはあるか……。じゃが貴様と儂では相性が悪い!」
「そうかしら? あなたの動きじゃ私を捉えられないんじゃない?」
「フンッ! だからどうした!」
「『爆火』!」
「セリア!」
竜が自身の周囲10メートルほどを爆炎が包み込んだ。近くにいたセリアは巻き込まれてしまったのだが……。爆炎の中から姿を現しこちらに戻ってきた。
「平気よ。あいつの炎も私には効きづらいもの。それよりどう?」
「ああ、もういける!」




