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神話の英雄譚  作者: わらびもち
第二章 帝都・バラン
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第14話 届かぬ拳

「はぁ……はぁ……」


「はっはっはっ! 動きも威力も洗練されてはいるが、まだまだだぞ!」


 打ち合いを始めて半日が経ち、空も赤く染まっていた。ずっと本気で殴ろうとしているが、一向に届く気配がない。


「だが圧縮は形になってきたな。その状態で身体強化ブーストを使えば攻撃の重さも跳ね上がるだろう」


「全身に纏うほど……余裕はねぇよ……。集中して一発しか打てねぇ……」


「要は慣れだ。半日でそこまでするのも凄いんだぞ。俺なんて半年はかかったんだ」


「そうか……。だったら少し自信がつくな……!」


 ダメだ。疲れすぎて頭が回らない。おれは目を瞑って呼吸を落ち着かせた。


「まぁ焦る必要はないさ。魔力が無くても魔素を操れるっつーことは無限に魔力があるのと同じだ。順当に行けばお前は誰よりも強くなれる」


「六法帝にそんなこと言われるなんて嬉しいね」


「期待してんのさ。お前もセリアの奴も、若ぇくせして一丁前な力を持ってやがる。俺の子供の頃と比べても遜色ないくらいだ」


「よく言うよ。ガルヴァンさんも若いでしょ」


「エストも終わったのね……。生きてて良かったわ……」


「死なねえよ!!」


 いや、まぁ半日吹き飛ばされ続けたので死にかけみたいなもんだが。そう思うと、確かに死んでもおかしくないくらいスパルタだった。じいちゃんでもここまでのことはしなかったぞ。


「お前ら今日はもう休め。明日もやるんだろ?」


「分かりました。と言うかありがとうございます。正直今日はもう限界なので」


「ガントラード、こいつら案内してやれ」


「分かりました! ……エスト君、どうかした?」


 おれが不思議そうに周囲を見渡していると、ガントラードさんが尋ねてきた。たぶん気にしてるのはおれだけなんだろうな。


「いや、結構暴れたのに何も壊れてないなと」


 本来なら地面が割れてもおかしくないほどの技を連発していたはずだ。それなのに傷一つついていない。


「ああ、こういうとこは初めてか?結界が張ってあるんだよ。建物が壊れない結界が」


「そんな便利なもんがあんのか!?」


「あくまでも壊そうとしなければね。条約を結んで特殊な結界を作り出してるんだよ。その分範囲が限られるけどね」

 

 なるほど。防衛用の結界ではないけれど訓練場には持ってこいな代物というわけだ。こういう所では外せない効果だ。


「それにしてもエスト君もセリア嬢も本当に強いですね!」


「私はちょっとな……。後半は体力切れが酷かったので」


「それでも短期戦なら俺らじゃ敵いませんよ。エスト君は明日俺たちとだね。楽しみにしてるよ。今日の団長とのは本当に凄かったよ!」


「そうか。おれも楽しみだ。いろんな人と戦えるんだからな」


 おれ達は今日のことや明日のことを話しながら部屋へ向かった。


「ガントラードさん、案内ありがとう。じゃあセリアもまた明日」


「うん。朝ちゃんと起こしに行くからね」


「ああ……ありがとう」


 部屋に入るとかなり大きな部屋だった。さすが王城といったところだろう。何か欲しければ伝えてくれと言われたが、食べ物もしっかりあって困ることはなさそうだ。

 

「ふぅー。疲れたな」


 おれはベッドに横たわって全身を伸ばした。半日ずっと動いていたので身体が悲鳴をあげている。


 そして今日やったことを忘れないように指先で魔素の圧縮を試してみた。普段の身体強化ブーストは魔素を一箇所に集めるような感覚だが、圧縮するときはそれに加えて魔素そのもの、粒子のようなもの自体を小さく押し潰しているような感覚だった。限りなく圧縮していけばガルヴァンさんのように見えない壁のようなものが作れるだろう。


 そんなことを考えていると眠くなってきたので、軽く食事を済ませてから眠りについた。早い時間だったが、疲労が限界まで達したのだ。


***


「エストー! 起きてるー?」


 扉の向こうからおれを呼ぶ声が聞こえた。


「起きてるよ」


「え!? 珍しいわね!?」


 珍しいと言われるとは。まぁ事実ではあるが……。昨日は寝るのが早かったので早く起きられたのだ。


 着替えも済ませていたので呼ばれるとすぐ部屋から出た。


 その後は訓練場に向かい特訓を始めた。今日はセリアがガルヴァンさん、おれが騎士団の人達との無限打ち合いだ。


 瞬く間に1日が過ぎ、3日目もこれまで同様に特訓を続けた。2日間の圧縮の練習によって集中すれば数秒間は魔素の壁も作れるようになった。が、未だにガルヴァンさんに拳を届かせることはなかった。


「随分腕を上げたじゃねぇか! お前ら! 3日でここまで強くなるとは!」


「まだあんたに一撃も入れられてねぇよ」


「それでもだ。2人とも俺の攻撃にある程度耐えられるようになったろ!」


「手加減されてますからね……。本気でやられたらひとたまりもありませんよ」


 実際おれ達は魔力で殴られそうになってもある程度受けることができるようになった。魔力感知能力が研ぎ澄まされたのだろう。加えてセリアは体力がついたし、おれは動作の無駄が削ぎ落とされた。それでも魔力の壁(バリア)を越えられない。


「ガルヴァンさん、一撃だけ受けてくれないか?3日間考えた技があんだ。ちょっと溜めが要るからまだ実戦向けじゃないんだけど」


「おう、もちろんだ。一撃と言わず打ってもいいがな」


「ありがとう。じゃあちょっと待ってくれ」


「……? ………!! おいおい、すげぇな」


「行くぜ!」

「『白天ハクテン』!!」


「……ッおおおおお!」


「……へへ! 届いたな!」


 見るとガルヴァンさんが両手を前にして構えていた。掌からは煙が立っている。間違いない。おれの技がガルヴァンさんに届いたんだ!


「す、凄いじゃん! エスト!」


「びっくりしたな! 本当に貫いてくるとは!」


「でもまだ実用的じゃないな。やっぱり」


「ああ、溜めが長すぎるな。だがものにしたら充分脅威になるぞ」


 その後は王城で夜を越したらまた旅を続けることになった。ガルヴァンさんは明日から任務があるからだ。


 次の日、おれ達は王様に挨拶を済ませて王城を後にした。


「次はどこに行くんだ?」


中央センダル大陸と西大陸こことの間に炭鉱夫ドワーフの集落があるからそこに行くわ。私の剣を強くしてもらうの」


炭鉱夫ドワーフかぁ。初めて見ることになるなぁ」


「まぁその途中もどこかに寄るでしょうけどね」


 そうしておれ達は出発した。この街に着いた頃より一回りも二回りも強くなって。

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