表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

デバッグ特権持ち悪役公爵令嬢、冤罪いじめで婚約破棄&断罪予定だけどログ晒しで王太子と偽ヒロインにざまぁして宰相息子から溺愛プロポーズされます

作者: 夢見叶
掲載日:2025/12/05

 王立学院の卒業パーティー、そのど真ん中で。


「公爵令嬢ネリス・ヴァルシア! 今この場をもって、君との婚約を破棄する!」


 きらびやかなシャンデリアの下、王太子シオン殿下が、教科書に載っていそうな宣言を高らかに放った。


 ……うん、知ってた。


 なぜなら、わたしの視界の右上には、他の誰にも見えないウィンドウが浮かんでいるからだ。


【イベント:卒業パーティー・婚約破棄】

シナリオ分岐:悪役令嬢追放ルート

フラグ状態:進行中

デバッグ権限:有効


 これが、わたしのチート。


 社畜時代、乙女ゲームのデバッグ要員としてこき使われ、最終的に過労死したわたしは、デバッグ中だった新作ゲームの悪役令嬢ネリスとして転生した。


 よりによって、婚約破棄からの公開処刑ポジション。


 でも、神様かバグかは知らないけれど、わたしだけはこの「デバッグウィンドウ」を持ち込めたらしい。


 つまり、この婚約破棄イベントだって、修正可能というわけだ。


 


「殿下、理由をおうかがいしてもよろしいでしょうか?」


 できるだけ上品に首をかしげる。


 ざわ、と周囲がどよめき、殿下の後ろに立つ栗色の髪の少女が、わざとらしく肩を震わせた。


 男爵令嬢にして、このゲームの表のヒロイン、カレン・フェリシア。


 見た目は今にも泣き出しそう。中身は計算でびっしり。デバッガーの目をなめないでほしい。


「理由だと? 決まっている! 君がカレンに行った数々のひどい仕打ちを、私はすべて聞いている!」


「ひどい仕打ち、ですか」


 視界の端で、わたしは心の中でクリックするみたいにコマンドを選ぶ。


【ログ参照】→【いじめイベント】→【加害者ID】


 ポン、と小さな効果音とともにウィンドウが切り替わる。


 加害者ID:KAREN_FELICIA

 被害者ID:その他モブ女子


 ……はい、知ってた。


 このゲーム、表向きは「悪役令嬢ネリスがヒロインをいじめる」というストーリーだけれど、実際に動いているのは「カレンが裏でやりたい放題」の方だ。


 でも通常プレイでは絶対に気付けない仕様。前世のわたしは何度も「これバランスおかしくないですか?」って報告したのに、「仕様です」で押し切られたやつである。


 仕様って言えば何でも済むと思うな、当時のプランナー。


 


「皆さまの前で白状しなさい、ネリス! あなたは、わたしが庶民出身だからと、さんざん――」


「ログ再生、っと」


 わたしは小さくつぶやき、デバッグ用の隠しコマンドを思い浮かべて指を鳴らした。


【CTRL+ALT+R:直近イベント再生(外部出力)】


 その瞬間、会場の中央に、光の幕のようなスクリーンがふわりと現れる。


「な、なんだこれは!?」


「映像魔法か……? しかし宮廷魔術師は呼んでいないはず……」


 ざわつく貴族たち。


 スクリーンには、見覚えのありすぎる光景が映っていた。


 学院の廊下。きょろきょろと辺りを見回しながら、誰かを待っているカレン。


『ねえ、分かってるわよね? “ネリス様に言われた”ってことにしてくれるなら、お小遣いをあげるわ』


『ひっ……カレン様、それは……』


『わたし、殿下にかわいそうな子だと思われたくて。ね、協力してくれるわよね?』


 顔も声も、バッチリ高画質・高音質。


「え…………?」


 カレンの顔から、すっと血の気が引いていく。


 わたしはにっこり笑って、首を傾げた。


「殿下。こちらが、いわゆる『ログ』でございます」


「ログ……?」


「簡単に申し上げると、行動の記録ですわ。わたくしが命じたという証拠も、同じようにお見せいただけますか?」


「そ、それは……」


 殿下の視線が、迷子みたいに泳ぎ始める。


 よし、畳みかけよう。


 わたしは新たなウィンドウを開く。


【パラメータ確認:SHION】


 忠誠:20

 判断力:5

 恋愛脳:95

 噂への耐性:2


 ……低っ。


 判断力5って、テストプレイで誰も突っ込まなかったの? いや、「王太子だけどポンコツ属性です」で押し切られたのを思い出した。うん、仕様だ。


 数値を弄ってやりたい衝動にかられるけれど、ここで露骨にいじると世界ごとバグりかねない。


 代わりに、別の項目を開く。


【隠しフラグ:真犯人ルート解放】


 チェックボックスがぽつんと浮かび、未入力のまま放置されている。


 あったなあ、これ。デバッグ中も「ここフラグ立たないですよ」って何度も報告した空欄だ。「最終調整でやります」と言われたまま、永遠に最終調整が来なかったやつ。


 その結果、わたしは過労死してこの世界に来ている。割と笑えない。


「……チェック」


 心の中でぽちっとチェックを入れる。


【真犯人ルート:解放】


「っ……!」


 会場の空気が変わった。


 貴族たちの視線が、一斉にカレンと殿下に向かう。


「そういえば聞いたことがあるわ。カレン様が、いろいろな殿方と親しげにしていたと」


「殿下も、よく授業を抜け出してカレン様に会いに行かれていたとか……」


「えっ、それは、その……!」


 カレンのステータスもついでに開く。


【カレン・フェリシア】

清純アピール:99

腹黒:99

計算高さ:99

演技力:100


 期待を裏切らない数値である。


 ついでに、わたし自身も見ておこう。


【ネリス・ヴァルシア】

自尊心:60

コミュ力:40

ツッコミ:120

善良度:80

顔面偏差値:たぶん高い(自覚なし)


 ……最後の項目誰だ入れたの。出てきなさい、褒めたい。


 


「殿下」


 スクリーンに映るカレンの裏の顔を横目に、わたしは殿下をまっすぐ見据えた。


「あなたは、わたくしを信じもせず、噂話だけで婚約を破棄なさるのですね?」


「そ、それは……」


「でしたら、わたくしからもお願いがございます」


 すっとドレスの裾をつまみ、淑女らしい一礼をする。


「どうか、その婚約破棄を、正式に受け入れさせてくださいませ」


「な……!」


 会場がどよめきに包まれる。


 カレンでさえ、信じられないものを見る目をしていた。


「ヴァルシア公爵令嬢。今の発言、王太子殿下への侮辱と受け取ってよいのかな?」


 低く通る声が、会場の端から響いた。


 黒髪の青年が、ゆっくり歩み出る。


 宰相の息子にして、ゲーム内の攻略対象の一人、アルト・エルヴァン。


 前世の記憶だと、バグのせいで好感度イベントがまともに発生しなかった、不遇キャラである。


 つい条件反射でウィンドウを開いてしまう。


【アルト・エルヴァン】

好感度(ヒロイン:カレン):0

好感度ネリス:??


 数値のところに「?」が点滅している。


 これも見覚えがある。イベントが飛びまくるせいで、最終的な好感度が読めなかったんだよね。


 ならば、とデバッグメニューの隅にある「隠し変数の可視化」にチェックを入れる。


好感度ネリス:200】

状態:溺愛


「…………」


 わたしはウィンドウを二度見してから、そっと閉じた。


 アルトが、わたしの前まで歩み寄り、その場で片膝をつく。


「殿下。婚約破棄の件、心より感謝いたします」


「な、何が感謝だと!?」


「あなたが彼女を手放すなら、代わりに私が」


 アルトはわたしの手をそっと取る。


「ネリス・ヴァルシア嬢。よろしければ、私との婚約をお考えいただけませんか?」


 会場が静まり返る。


 空気ごと凍りつき、わたしのデバッグウィンドウの時刻表示まで一瞬止まった気がした。


「ちょ、ちょっと待てアルト! そんな話、聞いていないぞ!」


「報告義務はありませんよ、殿下。あなたに、彼女を大切にする意思がないのなら、なおさら」


 アルトは立ち上がりながら、わずかに震える指で、なおもわたしの手を離さない。


「ネリス。あなたがいつも殿下の悪評を揉み消し、この国の評判を守っていたことも。カレン嬢の暴走を、影で止めていたことも。私は知っています」


「え、いつの間に……」


 そんなイベント、ゲームにはなかったけれど。オフレコで動いていたの、見られてた?


「あなたが誰よりも真面目で、誰よりも優しい人だということも」


 うわ、褒め値が高い。


 視界の隅に、新しいウィンドウがひらひらと開く。


【新イベント:アルト婚約申し込み】


 選択肢が二つ浮かぶ。


【A:受ける】

【B:断る】


 ……いや、これでB選ぶ人いる?


 前世でプレイしていて、まともに攻略できなかった不遇キャラだよ?


 バグだらけの世界で、唯一まともそうな男だよ?


 しかも好感度200で溺愛。誰がこんな甘々パラメータを書いたのか知らないが、今だけは心から感謝しておく。


「アルト様」


 わたしは微笑んで、答えを選んだ。


「喜んで。あなたのお申し出、受けさせていただきます」


 


 その瞬間、どこからともなく、「バグ修正完了」とでもいうような澄んだ音が響く。


【メインシナリオ:ルート再構築中】

【新ルート:悪役令嬢溺愛ハッピーエンド】


 画面の端で文字が流れていく。


 殿下が何か叫んでいるけれど、もはやBGM扱いだ。


 カレンは真っ青な顔で固まり、周りの貴族たちは距離を取るようにじりじり下がっていく。


 ざまぁ、である。


 悪役令嬢の立場から言わせてもらうと、これはただのバランス調整だ。


 


◇ ◇ ◇


 


 それから少しあと。


 わたしは、アルトの執務室で、彼の膝の上に乗せられていた。


「アルト様。この体勢、さすがにどうかと思うのですが……!」


「婚約者なんだから問題ないよ」


「書類仕事の邪魔になりません?」


「ネリスが乗っている方が、やる気が出る」


「そんなバフ、聞いたことありません!」


 文句を言いつつ、内心では頬がゆるみっぱなしだ。


【アルト・エルヴァン】

溺愛度:220(上限突破)

過保護:180

理性:ギリギリ


「ギリギリって何」


「ん? 何か言ったかい?」


「いえ、こちらの窓の話です」


 前世からの癖で、ステータスウィンドウについツッコミを入れてしまう。


 そんなわたしの様子を、アルトは楽しそうに見つめていた。


「さっきの光る映像のことなんだけど」


「はい?」


「世界の記録、みたいなものかい?」


「そうですね……世界のバグを見つけて直すための、デバッグ特権とでも言いましょうか」


「でばっぐ?」


「世界の不具合を検出して、修正するための権限、みたいなものです」


「ふむ。じゃあこれからも、不具合があったら君に頼ろうかな」


「ほどほどにお願いします。あまり乱用すると、本当に世界が落ちそうなので」


「世界が落ちたら困るな。君とのこの時間も消えてしまう」


 耳元で囁かれて、わたしの顔は一気に熱くなる。


「アルト様。もしパラメータをいじれるなら、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」


「君が望むなら、何でも」


「理性の数値、もう少し上げてください」


「それは難しい相談だ」


「難しくしないでください!」


 そんな軽口を交わしながら、ふと視界の隅を見る。


【サブイベント:いちゃいちゃ執務室タイム】

進行度:30%

エンド条件:ネリスが「幸せ」と自覚すること


「…………」


 そんなの、とっくの昔に達成してるんだけど。


 胸にそっと手を当てる。


 バグだらけだったこの世界を、少しずつ自分の手で修正して。

 悪役令嬢としての役割も、決められたシナリオも、上書きして。


 気付けばもう、「悪役」なんて肩書きは、どこにも残っていなかった。


「ねえ、アルト様」


「なんだい?」


「今のわたしのパラメータをひと言で表すなら、何だと思います?」


 アルトは少し考え、優しく微笑んだ。


「世界でいちばん、愛されている人」


「……そんなの、パラメータ欄に入りきりませんよ」


「じゃあ、無限大だ」


 その言葉は、どんなバグ報告よりも、どんな仕様書よりも、まっすぐであたたかい。


 わたしは、デバッグウィンドウをそっと閉じた。


 今この瞬間くらいは、数字なんてどうでもいい。


 ただ、「わたしは幸せだ」と、自分で自分に胸を張れること。


 それこそが、どんなルートよりも、最高のエンディングだと思うから。


 


 こうして、デバッグ特権持ち悪役令嬢ネリスの婚約破棄イベントは、見事に修正されましたとさ。


 ざまぁ、そして溺愛。

 バグもフラグも、ぜんぶまとめて、ハッピーエンド行きです。


読了ありがとうございました! 「バグだらけの世界で、自分の手で幸せエンドを書き換える」がこの短編のテーマです。

少しでもニヤッとしてもらえたら、ブクマ・評価・感想を頂けると次のデバッグがはかどります!

他のゲーム系・転生系短編や、ネリスたちのその後を描く連載も準備中なので、よければフォローしてお待ちください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ