表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第七話


「陶妃様。喬翠蘭(きょう すいらん)がご挨拶を致します」

「……翠蘭。元気そうね」


 他の妃たちと違って、陶妃は私の話をきちんと聞いてくれそうだ。

 私は侍女が用意してくれた椅子に腰をかけ、陶妃様に向かって姿勢を正した。


「身体の調子が悪いのだと思っていたわ」

「ご挨拶にも伺わず申し訳ありませんでした。実は陶妃様に折り入ってお話があって参りました」

「……何かしら」

「実は私、皇帝陛下に後宮を出たいと申し上げるつもりです」


(――ガシャン)


 陶妃の侍女が私の言葉に驚いたのか、衝立の向こうで茶碗が落ちて割れる音が聞こえた。


「陶妃様! どなたかがお茶を落とされて……」

「だ、だだ、大丈夫よ。それにしても、なぜ急に? 後宮を出るだなんていけないわ」

「いいえ、私はもう決めたのです。それで今日のお願いと言うのは、皇帝陛下のことです」

「陛下の……何?」


 陶妃の目は、あちらこちらに泳ぎまくっている。

 やはり、何か後ろめたいことでもあるようだ。


「皇帝陛下にはご兄弟もいらっしゃいません。即位から二年、未だに跡継ぎもおられません」

「そうね。大変だわ。緊急事態よ」

「ですから、一刻も早く跡継ぎを」

「翠蘭の言う通りよ。すぐにでも頑張って」

「……ええっとですね。なので、他の数十名の妃たちの元に、皇帝陛下がお通いになるのをお許し頂きたく……」

「何を言ってるの? 許さないわよ!」


 陶妃は金切り声を上げて立ち上がる。


「陶妃様もお辛いお立場かと存じます。ですが二年も経って子の一人もおらぬとは、周辺諸国に対する示しもつきません。後宮妃が力を合わせて陛下をお支えする時では?」

「ちょっと待ちなさい、翠蘭。()()()後宮妃でしょう?」

「……いいえ、私は後宮を出るつもりで」

「駄目よ!」


 もう一度陶妃が金切り声を上げ、私を悲しそうな目で見つめた。陶妃と私は見つめ合ったまま沈黙する。


 静まり返った(へや)の中に、蝉の鳴き声だけがカナカナと響き渡った。


「……陶妃。もういいよ」


 沈黙を破ったのは、その場にいるはずのないあの男の声だった。私をじっと見ていた陶妃は肩の力が抜けたのか、フラフラともう一度椅子に倒れ込むようにして座る。

 衝立の後ろから人影が現れ、私に向かって顔を上げた。


令賢(れいけん)……じゃなくて、皇帝陛下」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ