6.キツネの嫁入り
私はキツネ男の耳にかかった紐を取った。すると案の定、キツネのお面がポロリと剥がれ落ちて人間の顔がさらけ出された。
「やっぱり!」
その時また行列の足が止まった。一行がゆっくりとこちらを振り向こうとしている。
「…ざけんなっ!」
男は急いでお面を奪い取ると顔に付けた。すると顔がまたキツネになった。
行列の一行はまたゆっくり前を向き、歩み出した。
「マジでやめて! あいつらに人間だってバレたら俺、殺されてしまう!」
「…あんたも替え玉ってこと?」
「…そういうこと。」
若いキツネは深い溜息を洩らした。
若いキツネのお面が落ちた時、私は見てしまった。私の体に衝撃が走る。
「なにガクガク震えてんの、今さら…。」
若いキツネは冷めた目で言った。
―そりゃ震えるわ! だって、隣のキツネは黎明学院の受験の時見かけた黒髪イケメンじゃん!
「あのさ、もしかしてあんた…黎明学院受けた?」
私は恐る恐る聞いた。
「何でそんな事知ってんの!?」
キツネは驚いて鳥肌を立てたのか両腕をさすった。
「やっぱり…。」
―可哀そうに…この子は落ちちゃったのね…
「ってとこはあんたも黎明に通ってんの?」
キツネが聞いた。
―ん? も、って…この人も受かったの? でも学校で見たこと無い。入学してから各教室を探して回ったから間違いない! …となるともしかしてこの人は…ずっと不登校の!
「…もしかして…岩国…君…ですか?」
恐る恐る聞いてみた。
「何で俺の事知ってんの? って、おまえ誰?」
キツネこと岩国湊君は驚いて…というか私の事を物凄く不審な目で見ている。
「私…同じクラスなの。受験の日、岩国君を見かけたからもしかして…と思って…。」
「…それにしても受験日に見ただけで俺の事覚えてるなんて怪しい…。もしかしてストーカー…?」
―これだから顔のいい男は…。みんながお前の事好きだとでも思ってんのか!? ったく…。
私の中で岩国君の好感度は一気に下がった。
「まぁ、そんなことはとりあえず後回しだ。相手も替え玉を使ってきたという事は話がややこしくなってきたぞ…。」
岩国君は額に人差し指を当てて考え込んだ。