5.キツネの嫁入り
「おっと!」
隣に座っていた若いキツネがとっさにお面を取り上げ私の顔に張り付けた。すると一行は何事も無かったかのように、また行進を始めた。
「…危なかった。」
若いキツネは呟いた。
「危なかったってどういうこと?」
私は不安に駆られて声をあげた。
「シッ!」
若いキツネは真顔で私の口を閉ざした。そしてしょうがなさそうに私の耳元で囁いた。
「やつらの耳に入るとまずい。小声で話して!」
私が頷くと若いキツネは続けた。
「君は替え玉だよ。きっとあちらのお嬢様は、この結婚が嫌で逃げ出したんだろ。」
「替え玉って、私そんな役目を引き受けたことないんだけど!」
「それ…。」
キツネは私の顔を指さした。
「耳の後ろから紐が出てたからもしやと思ったよ。きっとそのお面に細工がされたんだろう。君は運悪くそれを拾ってしまったってわけ。」
「そんな…。」
私の気持ちはどん底に落ちた。
「これ、きっと夢でしょ。しばらくしたら目が覚めてチャラってことよね。うんうん…。」
「…悪いけど…これは夢じゃないよ。このままだと元の世界には戻れないだろうね。」
「えぇぇぇぇぇ!」
ショック過ぎるがこれはどうも夢ではないらしい。
話を整理しよう。私が裏庭で拾ってしまったお面にはキツネのお嬢様の魔術というか呪いというかそんな細工がされてあって、着けた者はお嬢様の身代わりに嫁入りしなければならない…と、言う事か…。
「事かって~!!!」
私は怒りを露わにした。
とりあえず怒るだけ怒ると冷静になってきた。このマインドセットは受験勉強で身につけた。受験勉強には、嫌な感情は早めに処理して、するべきことの段取りを付ける事が重要だ。とりあえず状況把握。
私はこの若いキツネの元へ身代わりで嫁入りすることになってるのよね…。ということは、本物の花嫁がいるはず。そいつを見つける事が先決と言う訳か…。
「よし!」
活路を見出した私は拳を握りしめた。
「…何だか知らないけど、よくこの状況そんな元気でいられるね…。」
キツネは呆れ顔で呟いた。
まともに顔も見ていなかったので見てみる。私にガン見されているせいか、キツネは少し動揺しているようだ。
―キツネの顔の良しあしの基準は分からないけど、人的に見るとけっこう整ったキツネだね…。もし最悪本物の花嫁が見つからなかったとしても、相手がこいつだったら、まあそんな悪い話でもなさそう…。イケメン…いやイケキツネだし。
その時、私は発見してしまった。キツネの耳には私のお面と同じ紐が掛かっていた!
「あんたもしかして…」