14.キツネの嫁入り
茜色に染まっていた空は日が陰り、夕日は山の狭間に落ちて行った。
「多分そこの角を曲がって行った先と思うんだけど…。」
場所は同じでも町並が違うと家を特定するのはなかなか難しい。
「あった! あれだ!」
無事に祖母の家を見つけられた。さすがに古い家だけあって、ほとんど違わない。
「忍び込むぞ!」
岩国君と私は息を殺して中へ入った。
…ルコちゃん…ルコちゃん…
「え?」
また例の声が聞こえてきた。こちらの世界に来る前に、祖母の家の中で聞こえてきたあの声だ。
「佐竹! 何してんだ!」
岩国君は手招きした。
「岩国君! 今、聞こえなかった? ルコちゃんって、誰か言ってた!」
「何言ってんだ? 何も聞こえなかったよ。」
どうも私にだけ聞こえたようだ。
「…何なんだろ…ルコちゃんって…」
何故かその声は懐かしいような気がした。
「おまえの事なんじゃないの? 佐竹、下の名前、薫子だろ? カオルコ。略してルコ!」
岩国君はフフンと笑った。
「そんな風に呼ばれた事ない…。ってか仮に私の事だったとして誰が呼んでんの? もしかしてキツネのお嬢様?」
「…う~ん。あり得るな…。また聞こえたら教えてくれ。」
「うん。」
「じゃあ、おまえルコな! 佐竹より言いやすい。行くぞ、ルコ!」
「勝手に人の名前決めんな…。」
母屋はまだ灯りが付いていた。この世界の住人が起きているのだろう。どんなキツネたちが住んでいるのか覗いてみたい気もしたが、とりあえず今はお嬢様を探すことが先決だ。
「で、どこでそのお面を見つけたの?」
岩国君は庭を見回しながら聞いた。
「えっと…裏庭の松の木が森みたいになってるとこに祠があって…」
私たちは息を殺して裏庭へ回った。
「あれじゃないか?」
岩国君が指さした先には小さいながらも立派なお稲荷さんの社があった。元の世界で森のように鬱蒼と茂っていた松は綺麗に形を整えられ、社への通りは背丈よりも高いツツジが丸くかられて回廊のようになっている。その所々に灯篭があり、まるで夢の中の世界のよう
「うわ…うちとは大違いだ…。」
驚く私はしばしその光景に見とれた。岩国君は息を潜めて早く来いと手招きをした。そして私たちは社の中へ入って行った。
「お面外して。」
私は面を取ると、岩国君に渡した。
「俺も外そう。これつけてるとなんだか顔がむずがゆいんだよな…。」
お面を取った岩国君は、改めて見ると本当に美形だ。
彼は私のお面を祭壇へ備えた。すると面は光り出し、その光はある一方へ向かって伸びて行った。




