1.キツネの嫁入り
今回から始まるお話は、シリーズとして書いて行こうと思っています。この第一シリーズ「キツネの嫁入り」はすでに最後まで書き終えていて完結します。全体のストーリーは第二シリーズへと続いていく予定です。今後ともお付き合いよろしくお願いします!
「ドイツに駐在!?」
「申し訳ない!」
父は両手を合わせて薫子に謝った。
「パパ! 私、受験生だよ! 今まで頑張って黎明学院目指してるの分かってるでしょ!」
「そうなんだけど…薫子、パパと一緒にドイツに行ってくれない? 向こうで高校生活送るのも楽しいかもよ。」
「行く訳ないでしょ! 私が憧れの黎明学院に行く為にどれだけ勉強してきたと思ってるの!」
「そうだよな…。」
父は涙目になった。
本来なら父の同僚の玖珂さんが派遣されるはずだったのだが、どうしても行けない事情が出来てしまったらしく、代わりに父がドイツに行かなくてはならなくなったそうだ。
私は絶対に父に付いて行く気は無い。父もそれは諦めたようだ。そうなると父の不在の間の私の下宿先だ。
父の任期は二年。我家は私が物心つく前に母が亡くなった。それ以来、我家は私と父の父子家庭だ。
父の両親はすでに他界しているし、そうなると残る親類は母方の祖母だけだ。
母が無くなってからというもの、会うのは母の法要の時くらいで、祖母との思い出もほとんどない。それどころか、私は祖母がどんな人だったかすらあまり覚えていない。
しかし高校生になる私が一人暮らしするのも父にとっては不安なので、父は久しぶりに祖母に連絡を取った。普段連絡をしていないので、きっといい顔はされないと父は思っていたが、予想に反して一つ返事で祖母は私を受け入れると言ってくれた。
ということで私は母方の祖母の家に預けられる事になった。というのは、無事名門黎明学院に合格出来たらの話で、落ちたら父と一緒にドイツに行くことになっている。こうなったら意地でも受かってやる!
受験当日は朝から小雪が舞っていた。制服のポケットにカイロを仕込み、防寒対策をし、リュックの中には受験に必要な物と念のため頭痛薬や下痢止めも入れて、万全な体制で憧れの黎明学院へ向かった。
電車が最寄りの日吉野駅に着きホームへ降り立つと、受験生の群れの中で、ひときわカッコイイ男子生徒を見かけた。
一人は黒髪で頭が良さそうなタイプで、もう一人は明るい髪色で体育系っぽい男の子。
わぁ…少女漫画に出てくる主人公の相手役と当て馬役みたい…。
二人は楽しそうに話しながら歩いていた。きっと同じ中学で一緒に受験に来たのだろう。あの子達とクラスメートになれるかな…?
私は念願かなって見事黎明学院に合格した。中学の卒業式では、父は感極まって号泣していた。
春休み中に父はドイツへ旅立つため、私たちは荷物をそれぞれの新生活の場所へ送ったり、役所の手続きをしたりして、あっという間に時が過ぎた。
私の高校の入学式を見届け、父はドイツへ旅立つ。私は空港行きのリムジンバス乗り場まで父を見送った。
「薫子、本当に大丈夫か?」
「大丈夫よ。お祖母ちゃんの家はうちより学校に近いし。」
事実、私の家からだと高校まで片道1時間もかかるのに比べて、祖母の家からだとバスで10分で着く。頑張れば歩いてでも行けそうだ。
「ママがいなくなってから、あまりおばあちゃんに会う事が無かったから、おまえも遠慮してしまう事が多いかもしれないけど…ちゃんと手伝いとかして、迷惑かけないようにするんだぞ。」
「分かってる! 今までだって家事は私がほとんどしてきたんだから大丈夫だよ!」
父は窓から心配そうに私を見ながらバスは空港へと向かって行った。
「じゃあ私も新生活を始めますか…。」
最後まで読んでいただきありがとうございました。