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少年とねこと魔法使い ~フェアリーストーン~  作者: 碧衣 奈美
6の石 ~鈴音石~

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眠りの妖精を起こす方法

 身長は、今まで会った妖精達と恐らく変わらない。肩まである真っ直ぐな髪は、闇の色。あおむけになっているので、背中に羽があるかはわからない。

 見た目は、人間の姿になった時のフィノと近い年代、と言えるだろう。その顔は青白く、ちゃんと生きているのか不安になる。

 白く薄い衣の胸元に、金色のペンダントトップが光っているが、小さいので何の形かよく見えない。

「これが……ネーフ、か?」

「そのようです。パロ・ビエホが守っていてくれたんですね」

「眠りの妖精っ。あなたが眠ってどうするの。ねぇってばっ。……やっぱり、目を覚ましそうにないわね」

 フィノが声をかけても、妖精はぴくりともしない。力を奪われて、深い眠りに入ってしまっているようだ。

「話を聞いた時点で予想はしていましたが……困りましたね。妖精を見付けても、何をどうすればいいのか。ネーフの声を取り戻せたらいいんでしょうが」

 声を失ってから眠ってしまったなら、声そのものがネーフの力なのかも知れない。

 それなら、その声を取り戻せたら、眠りから解放されるのではないか。

「声なんて形のないもの、どうやって取り戻すんだよ。風邪をひいて声が枯れたって訳でもないのに」

 それなら、のどに効く野菜や果物をはちみつに漬けたり、ハーブを利用したりすれば効果があるだろうが……。原因が風邪でなければ、気休めにもならない。

「薬に代わるような物があるのかもよ。ねぇ、ちょっと。あんたは知らないの?」

 どちらへ向かってしゃべればいいのかわからないので、フィノはとりあえず上を向いて木に話しかけた。

「……こえ……うばわれた……」

 さっき聞いた低い声が、また頭の中で聞こえた。ゆっくりだが、多少はまともな文章になっている。

「声を奪われた……。魔物に、ですか?」

「ちから……うばわれた……うたえない……」

 こんな調子で話すパロ・ビエホは、グレイヴァ達がアージュから得た情報と同じことを言う。これといって、新しいものはなかった。

「その辺りのことは、アージュから聞いたよ。俺達が聞きたいのは、どうすればネーフが起きるかってことだ」

「……わからない……」

「木に聞く方が悪いのかな」

 パロ・ビエホの答えに、グレイヴァは渋い顔でつぶやく。

 だが、木の言葉はそこで終わりではなかった。

「……すずね……いし……」

「え?」

「すずね……鈴音石、ですか? 名前だけは聞いたことがありますが」

「……こえ……もどるかも……」

「鈴音石があれば、ネーフの声が戻るかも知れないってことね。今の状態じゃ、何をしていいのかわからないんだし、とりあえず手掛かりの一つが手に入ったって感じかしら」

 木の声は、事情を話す時よりも自信なさげな感じだったが、糸口が全くないよりはいい。

「じゃ、ダメ元で聞いてみようかな。その石、どこにあるんだ?」

 鈴音石が効果あるかも、というはなはだ心(もと)ない情報しかないのだ。一応と思い、グレイヴァは期待せずに尋ねてみる。

「…………」

「やっぱ、ダメか」

 答えがなくても仕方がないが、残念な気持ちはある。

「石の名前がわかっただけでも、いいですよ」

「……おとの……ちかく……」

 予期せず、パロ・ビエホは言葉を続けた。

「音? 音って言っても、それこそ星の数程あるぞ」

「鈴音石って呼ぶくらいだから、鈴の音じゃない?」

「……すずのおと……ちかく……」

「あら、本当にそうなの?」

 フィノは適当に言ったのだが、その通りだったようだ。

「鈴の音ですか。でも、まさか鈴が作られているそばに、そんな石があるとも思えませんね。かと言って、自然界で鈴の音と言われても……」

「鈴ってのは、人間が造るものだろ。人間の近くにある石が、妖精を助ける力を持ってるなんて思えないぞ」

「……かぜの……うわさ……」

 さらに、パロ・ビエホの言葉が続く。

「え? 風が何だって?」

「……むかし……きいた……ピルツのもりのおく……」

 ここに立っていると、たくさんの風が通り抜ける。その時、風のおしゃべりが聞こえるのだ。

 その「風」の噂で、ピルツの森の奥に鈴音石がある、と聞いたことがある。

 パロ・ビエホは、たどたどしい話し方でそう説明した。

 さらには、自分は木で動けないから、探しに行くことができない。だから、そこへ行って鈴音石を探してほしい、とグレイヴァ達に頼んできた。

「お前さぁ、俺達がどうしてここへ来たのか、忘れたのかよ」

 言いながら、グレイヴァは木の幹をこづいた。

「心配しなくても、探しに行きますよ。そのために、ぼく達はここへ来ているんですから」

 風もないのに、木の葉が揺れた。

 どうやら、パロ・ビエホが喜んで葉をゆすっているらしい。精一杯の喜びの表現なのだろう。無理して言葉を紡ぐより、ずっとわかりやすい。

「あたし達が戻って来るまで、この子はあんたが面倒みてるのよ。まかせたからね」

 フィノの言葉で、大きく開いていたうろがゆっくりと小さくなって妖精を隠した。

☆☆☆

 パロ・ビエホに「必ず戻って来るから」と約束して、グレイヴァ達は丘を降りた。

「まずは、そのピルツの森って所へ行かないとな」

「この村から森らしきものは……見えませんね」

 ざっと見渡したエスターシャンの村から、森は見当たらない。

 ちょうど近くを通り掛かった村人に、ピルツの森がどこにあるのかを尋ねる。村を出てずっと南へ行くとすぐにわかる、と教えられた。

「あんな所へ何をしに行くか知らんが、あまり奥まで入るんじゃないぞ。あの森は深いから、迷いやすい。昔からあそこには妖精の宝があるとかって噂があるんだが、それを目当てに森へ入ったものの、おかしな幻を見て気がふれかけた者がたくさんいるんだ」

 グレイヴァ達をトレジャーハンターと間違えたとは思えないが、その村人はそんな忠告をしてくれた。

「いえ、そこを起点にするだけですから」

 アルテがそうごまかして、礼を言う。

 村を出てから、グレイヴァはアルテに尋ねた。

「妖精の宝って、何だ?」

「さぁ。人間にとっての財宝を妖精が集めているとも思えませんから、ぼくにも何とも。自分がたどりつけない場所には、何か素晴らしいものが待っている。人は時として、自分に都合のいい空想を抱くことがありますからね。その(たぐい)のものじゃないですか。それらしい現物が存在したとしても、例えば山賊などが隠した財宝が、長い時間の経過で妖精が持つ宝になった、ということも考えられますね」

 大きな森だと、迷って出られない人もいただろう。

 それを「森にすくう魔物に喰われた」と噂になってしまうことはよくある。

 おかしな幻を見て、というのも、憔悴(しょうすい)した人が何でもない木の葉が風に揺れるのを見ただけ、かも知れない。

 宝と思った物も、実は水たまりに木漏れ日が当たってきらきらしていただけ、ということもありえるのだ。

「やけに現実的な答えだな」

 グレイヴァとしては、もう少し夢のある返事を待っていたのだが。

「変に期待しすぎても、実際はそういう場合が多い、ということです。もちろん、妖精にとっての宝が、人間にとっても宝になることだって十分あると思いますよ。世界は広いですから」

「鈴音石が宝ってことは、ないのか?」

「うーん、どうでしょうか。知っているのは名前だけで、どのような石なのかはぼくも知りません。ただ、人が財産の一部として持つような石ではない、と記憶しています。この石の存在を知る人が少ないせいもあるんでしょうが。見る人が見れば、とんでもない掘り出し物、ということもありえますね」

「ふぅん。でも、妖精にとっちゃ……今回の場合だと、特にネーフにとっては宝だよな」

 もしこの石が、ネーフにとって有効な力を持つのであれば。命に等しい宝だ。

「眠りの妖精は、人間や動物を眠らせるって聞いたけど……お(とぎ)の妖精とどう違うんだ?」

 以前、お伽の妖精リーリエを助けた。あの時も眠りが関わっていたような。

「お伽の妖精は、大人にお伽話を上手にさせて子どもを安眠に導くんです。今回のネーフの場合だと、自分が眠りの唄を歌って生き物を眠るように働きかける、という感じですね」

 ちなみに、普通の人間にその「妖精の唄」は聞こえないようだ。

「どっちも夜の妖精ってくくりに入るから、わからなかったら似たような種族って思っておけばいいわよ」

 人の気配がないので、フィノが補足する。

「フィノの説明、雑だな」

「細かく詳しく話したって、グレイヴァにはわかんないでしょ」

「説明する前から、わからないって決め付けるなよ」

 そんなことを話しているうちに、森が見えてきた。

 左手には山があり、そのふもとが森へ続いている。あの山に登り、間違った方向へ降りて行くと森へ迷い込むこともありえそうだ。

 周囲を見回しても人のいそうな場所はなく、人通りもない。この森の中に、人が行き交う道はないようだ。

「ここを教えてくれたおっさんも言ってたけどさ。幻はともかく、迷うってことはありそうだな」

「大丈夫ですよ、グレイヴァ。ちゃんと目印はつけて歩きますから」

「あ……うん。アルテのことだから、その点は抜けるはずないと思ってるけどさ」

「当然でしょ。いきあたりばったりで行くグレイヴァとは違うんだから」

「考えなしみたいに言うな」

 完全に人の気配がないとなると、自然にフィノの舌も回り出す。

「村人があんなふうに脅かすくらいだから、もっとひどい雰囲気なのかと思ってたけど……。こうしている限り、まだそんなに悪い空気はなさそうね」

「森の外だから、じゃないのか?」

「本当に魔物がいるなら、多少なりともそういう空気が外へ流れ出すものなのよ。まして場所が広ければ、それだけ数も増えるだろうし。魔物のレベルが上なら、そんな間抜けなことはしないけどね。人間だって、動物程じゃなくてもいやな空気っていうのは感じるものよ。だから、魔物がいる場所には何となくいやな感じがするからって言って、近付かないようになるの」

 過去にそういう感じを経験したことがないので、グレイヴァには何となくわかったような、わからないような。

「ま、にぶい人間にはわからないみたいだけどね」

 余計なことを言わなくてよかった、とグレイヴァは思った。

 グレイヴァが(いち)言うと、フィノは五も十も返してくる。どうせ口ではフィノに勝てない。

 とにかく、今のところはこの森に魔物の気配はない、ということだ。

 この森に人が近付かないのは、魔物ではなく幻のせい。欲張りな人間の妄想のせい、ということになる。

「パロ・ビエホが聞いた風の噂、とやらが当たっているといいんですが……。とにかく、入ってみましょうか」

 アルテに(うなが)され、グレイヴァ達はピルツの森の中へと足を踏み入れた。

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