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弾かれる攻撃

 空から、何体かの魔物が現れた。

「あれは……」

 自分達の周囲を取り囲む魔物の半分を消し去った頃、現れたその魔物にアルテが気付いた。

 魔物達はこちらへ加勢するつもりはないらしく、そのままグレイヴァやロズフォーラルがいる方へと降りて行く。

「運び屋が戻って来たのよ」

「妖精を襲って来た奴らってことか……っと」

 結界に風の刃が突き刺さって霧散し、ブルークは急いで結界に新たな力を送る。

 彼はさっきから、これの繰り返しだ。あとはせいぜい、浮遊する魔物の羽に爪をたてるために飛び上がるくらい、か。

 とにかく、自分が完全に魔物を消せない以上、フィノや(ついでに)アルテが少しでも不利な状況にならないよう、守るための壁を出し続けていくしかない。

「このままだと、本当にいたちごっこになりかねませんね。数は多いですが……フィノ、さっきのように一気にやってしまいましょう。いいですか」

「いいわよ。ちまちましてたら辛気くさくって」

 多少顔つきが違えば気分も変わりそうなものだが、いくら消しても次が同じ顔で現れる。そのため、先へ進んだ気がしない。

 一気に全て、というのが無理でも、半分以上を消すことができれば少しは気も楽になりそうだ。

「また数が増えないうちに頼むぜ。あ、てめぇ」

 ブルークの結界を破り、腕を突っ込んできた魔物がいた。それが、フィノのすぐ横。

 届きはしなかったものの、とりあえず近くにいる者から手を出そうというのが見て取れる。

「俺のフィノに手を出すなっ」

 そちらへ走ると、ブルークはそのするどい爪で魔物の手を引っ掻く。

 ブルークの「大切な女性に手を出されそうになった」という怒りで、渾身の力がこもっていたのだろう。

 多少のことでは傷もまともにつかない魔物だが、それなりに深手を負わせた。魔物が手を引っ込めなければ、今度はその牙をたてていただろう。

「ちょっと……勝手にあんたの所有物にしないでよね。何よ、俺のって」

「あ、つい」

 豹の姿では表情が少しわかりにくいが、人間なら謝りながらも肩をすくめて笑っている、といったところだろう。

「本当にもう、油断も隙もないわね。あんた達がいるから、こんなこと言われるんじゃないのよっ」

 完全に八つ当たり。フィノと向き合っていた魔物達は、超大型の黒ねこが出した光に包み込まれ、抵抗する間もなく消し飛んだ。

「……事情はどうあれ、結果はともなっているみたいですね」

 トーネから送られた力を遺憾なく発揮しているフィノを見て、アルテは苦笑する。

 それから、自分も魔物達の方に向き直り、光魔法を使った。光に飲み込まれた魔物は、次々に消える。

 その場に残っているのは、あとわずかだ。

「アルテ、グレイヴァの方へ行って。残りはあたしが片付けるわ」

「わかりました。フィノ、気を付けて」

「アルテ、俺から離れたら結界の効き目はないから、そのつもりでな」

 グレイヴァがいる場所は、今いる所からそう離れてはいない。だが、どこから邪魔や攻撃の手が伸びるかわからないので、油断は禁物だ。

「ええ。後はお願いします」

 アルテは、グレイヴァのいる方へ向かって走り出す。その後を、数体の魔物が追い掛けようとしたが、あっさりとフィノに消された。

「あたしのアルテに手を出したら、承知しないわよっ」

「……自分が所有物にするのは、ありなんだな」

 ブルークのつぶやきを、フィノは聞いてないことにした。

☆☆☆

 グレイヴァが叫んでも、ロズフォーラルはまるで気付いていない様子だった。ただ、光の像を眺めているだけ。

 だが、グレイヴァが光魔法で攻撃すると、鏡のような防御の壁を出して跳ね返した。

「な……こいつ、光撃(こうげき)を弾きやがった」

「性根は腐っても、妖精王だった奴だからな。多少のことじゃ、分身みたいにはいかないぜ」

 手こずるとは予想していたものの、まさか光魔法をこうも簡単に跳ね返されるとは思わなかった。

「こンの……」

 何度かグレイヴァが光撃したが、全て跳ね返されてしまう。

「よけろっ」

 トーネに言われて、グレイヴァは横に飛び退()いた。

 その直後、グレイヴァが今まで立っていた場所に黒い光が何本も走った。ロズフォーラルが攻撃してきたのだ。

 そのまま立っていれば、身体を蜂の巣状態にされていただろう。

 グレイヴァがよけたことで、後方にいた分身にその光が当たり、分身の魔物は霧散した。

 しかし、ロズフォーラルには何の表情も浮かばない。元々が無表情だったが、今まで以上の不気味さを覚えた。

「仲間を消しても関係なし、か」

「あいつにとって、分身は仲間じゃないからな。使い走りでその他大勢の傭兵、か。自分で生み出した駒だし、消された方も何も考えてない。消されるかも、という恐怖も」

 そうこうするうち、どこからか魔物の新手が空から現れた。

「くそっ、また増えたか」

「妖精を襲って来た奴らだな。ほら、奴らの手に光の珠があるだろ」

 トーネに言われてよく見れば、魔物達はそれぞれ手に白い光の珠を持っている。拳くらいの大きさもあれば、人の頭より大きなものまで、大きさは様々だ。

「あんな大きな珠……ってことは、それだけ多くの妖精が襲われたってことかっ」

「だろうな。集団行動する妖精は多いから、そこを狙われれば一発だ」

 これまでも、たくさんの妖精達が倒れている場面に遭遇した。人間界か妖精界のどこかで、同じ光景が繰り返されてきたのだろう。

 魔物達はグレイヴァには目もくれず、さらに言えばロズフォーラルさえ見ることもなく、ただ光の像へと向かう。像へ近付くと、持っていた光の珠はふわりと浮き上がり、自然に像の中へと入って行った。

「ああやって、あの光の像は大きくなっていくのか」

「小さくなるのと、どちらが早いかな」

「え?」

「魔界では、妖精の力がずっと存在し続けるのは難しい……って話も、前に聞いたよな? ああして奴らが奪って来ても、あの光がずっとそこにあり続けることは無理なんだ。新しく力を注ぎ込んでも、その端からどんどん消えて行く」

 そうだった。妖精の力は、この魔界ではずっと存在していられない。放っておけば、いつか全てが消えてしまうのだ。

「グレイヴァ、危ないっ」

 いきなり腕を掴まれ、引っ張られた。またさっきと同じ黒い光が、すぐ横を走り抜けて。その位置からして、そこにいたままだと心臓直撃だ。

「大丈夫ですか、グレイヴァ」

「アルテ……ありがと、助かった」

 グレイヴァが魔物の運んで来た光を見ている隙に、ロズフォーラルがまた攻撃をしかけてきたのだ。

 そこを間一髪で、アルテが間に合い、助かった。

「アルテ、あれ……」

「ええ、妖精達の力をまた奪って来たんですね」

 空から次々に現れる魔物を見て、アルテもまたつらそうな表情になる。

「グレイヴァ、ロズフォーラルさえ消せば、分身は消えるはずです」

「それなんだけど、あいつ、俺の光撃を弾くんだ」

「グレイヴァの力を、ですか?」

 その言葉に驚くアルテだが、驚いている場合ではない。

 ロズフォーラルが、再度攻撃してくる。それに気付いたアルテは、グレイヴァを突き飛ばした。

「うわっ」

「アルテ!」

「……かすっただけです」

 グレイヴァを突き飛ばしたはいいが、アルテ自身はわずかに逃げ遅れた。ロズフォーラルの黒い光はアルテの左肩をかすめ、そのまま後方にいた分身達にも当たる。

「かすっただけって……出血ひどいじゃないか」

 みるみるうちに、袖が赤く染まってゆく。

「グレイヴァ、かまってる時間はない。他の奴らも来るぞ」

 トーネに言われて振り返ると、像に妖精の力を注ぎ終わった魔物達が、こちらへ向かって滑空していた。

 今までの魔物達と同じように、自分達以外の存在は全て敵、とみなしているのだ。

「させるかっ」

 グレイヴァが光を放つ。白い光は確実に魔物達の身体を貫き、襲いかかる手はグレイヴァ達に届くことなく霧散した。

 何度も力を使い、さすがに息が切れる。

「アルテ! やだ、もう、あたしがいない時に限って」

 その声に振り返ると、自分達を取り囲んでいた魔物をようやく一掃させたフィノとブルークが来ていた。

 フィノは人間の姿になると、急いでアルテに治癒魔法をかける。

「おい、グレイヴァ。お前がどれだけ消したのか知らないが、まだ増えてるぞ」

 どこからともなく、空から現れる魔物達。妖精の力を像に注ぐと、すぐに襲いかかってくる。

「ああ。妖精を襲った奴らが戻って来てそれを消したって、あいつが消えない限り、分身はずっと増え続けるんだ。けど……」

 何度力を向けても、跳ね返される。やはり、これまでの魔物とは違うのだ。

 感心している場合ではないが、さすが本体と言うべきか。

「これじゃ、立っている場所が少し変わっただけで、魔物に囲まれてるって状況はさっきと同じだぞ」

「ブルーク、とりあえずさっきみたいに結界を張って。ゆっくり治療もできないわ」

 アルテ達の後ろからも、魔物は襲って来る。それをフィノが撃破するが、そんなことをしていたらアルテの傷を治していられない。

「わかった」

 とは言うものの、さっきからかなり力を酷使しているので、ブルークの表情も少しつらそうだ。

 豹の姿のままなのは、その方が力を使いやすいのか、人間の顔ではグレイヴァ達にそのつらさを悟られてしまうからか。

「……あの像、少し小さくなってないか?」

 並んで立って比べたのではないが、さっきはたぶんグレイヴァよりも少し背が高い像だったはず。

 今は全体的な形はそのままで、グレイヴァとほぼ同じくらいの高さになっていた。

「ああ。新しい力を注ぐそばから消えてる。消える速度の方が上だってことだな。場所が悪すぎるんだよ」

 言いながら、トーネはグレイヴァの肩からふわりと浮いた。そのまま、ロズフォーラルのいる方へと飛んで行く。

「お、おい、トーネ。何する気だよ」

 魔物達も何か様子が違うと察したのか、少なくとも今はトーネに攻撃する意思はなさそうだ。

 その場にいる全ての魔物が、トーネに注目している。

「あいつら、どうしてトーネには手を出さないのかしら」

「妖精の力は感じても、妖精ではないからどうしたらいいのか、というところじゃないですか? あるいは……あの像と同じ気配を感じているのかも知れませんね。どちらも、様々な妖精の力ですから」

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