表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
315/381

星花

 今いる場所から、そんなに離れてはいない花畑の一角。

 アルテが念入りに調べてみたが、倒れている妖精の周辺に(けが)れのようなものは感じられない。フィノも確認したが、グレイヴァの力はちゃんと及んでいて、しっかり浄化されている。

 にも関わらず、その周辺だけ緑が戻っていないのだ。

 妖精達はどうにか意識をつなぎ止めているが、他の妖精達のように起き上がることもできないし、ましてや飛ぶことなどできるはずもない。

「どうしてここだけ……何も悪影響を及ぼすものは見当たりませんが」

「うん。他と気配は同じよ。まぁ、妖精の生命力はかなり弱いけど」

 人間より気配に鋭いフィノがわからないのだから、やはりちゃんと浄化はされている。

 しかし、元気になれない妖精がいるのも確かだ。

 アルテは、近くで花が咲くのを嬉しそうに見ている妖精に尋ねた。

「この妖精は、他の妖精とは違うんでしょうか。それにここの花も」

「きっと、星花(せいか)だからだよ」

「星花?」

「他の花とは、少し違うんだ」

 この花畑に咲く花は、妖精界でしか咲かない花ばかりだ。

 しかし、星花は少し違う。

 妖精界でしか咲かない、という点では同じなのだが、星花は人間界で咲く花の成分も混じっているのだ。

 遠い昔、妖精界へ迷い込んだ人間がいた。昔も今も、時々あることだ。

 この花畑まで来たその人間のポケットには、たまたま花の種が入っていたらしい。それが何かの拍子で、地面に落ちた。

 人間は花の種が落ちたことなど気付きもせずにここを去ったが、種はこの地で芽を出したのだ。

 そして、花が咲き……そばにあった妖精界の花と受粉して、新しい種が生まれる。それがまた、芽を出して。

 そして、そこから妖精も新しく生まれた。

 星花は、妖精界と人間界それぞれにしかない花同士が混じり合った、異種。妖精界で育った、とは言うものの、種族が違う訳だ。

 人間で言えば、他民族とのハーフ、になる。

「妖精界という特殊な場所の、さらに特殊な花って訳ね。それで、この花が元気になるには、生葉石では足りないってことかしら。他のみんなが元気になっていてもここだけダメってことは、命優石の中に取り込まれてない力が必要ってことね」

 どういう力が必要なのか、他の妖精達は知らなかった。当の星花の妖精に尋ねたいが、アルテ達に聞き取れるだけの声が出せない。

 ミーゼに仲介してもらい、星連石(せいれんせき)という石の力があれば元気になるはずだ、とわかった。

 ただし、どこにあるのかは誰も知らない。

「石の泉でかなり力を吸収したと思ってたけど、まだまだなんだな」

 話を聞いたグレイヴァは、残念そうにつぶやく。

 石の泉にどんな石があるのか、知らない。だが、かなりの種類があるはずだ。

 その泉の水を、不可抗力だったとは言うものの、グレイヴァは飲んでしまった。それを命優石は吸収しているはずだが……それでもまだ、こうして足りない力があるのだ。

 ひどく苦しい思いをしたが、これですぐに妖精達が助けられるのなら、とグレイヴァは期待していたのだが……。現実はうまくいかない。

「石のある場所がわからないんじゃ、探しようがないだろ」

「ええ。それでフィノやみんなとも話していたんですが、もう一度シェイルフィーアの所へ戻ろうと思うんです。石のある場所について、彼女なら何か思い当たることがあるかも知れません」

 この近くで物知りであろう誰かを掴まえようと思うなら、きっと彼女が適任だ。居場所がわかっているから、すぐに話を聞ける。

「ミーゼがまた、案内してくれるそうです。もう少しグレイヴァが休んでから……」

「そこまで話が決まってるなら、さっさと行こう」

 妖精達が「もう平気なの?」と口々に尋ねる。

「ああ。十分休んだからな。それに、まだ元気になってない妖精を目の前にして、俺ばっかりがゆっくりしてられないだろ」

「グレイヴァ、本当に大丈夫なの? 妖精達が力をくれたからって言っても、倒れた時の顔色、すんごく悪かったんだからね。移動中に倒れるくらいなら、ここで完全に復活しておいてもらわないと、あたし達が困るんだから」

「ああ。ふらふらしないから、歩くのに支障はないって」

 支障はなくても、妖精が絡めばすぐに無理をしようとするグレイヴァ。

 それをいやと言うほど知っているから、アルテもフィノも、グレイヴァの言葉をすぐには信じられない。

 だが、見ている分には顔色も戻っているようだし、動いても問題はないように思われる。

 具合が悪そうなら、その時は強制的に休息を取らせるようにするしかないだろう。

「俺が起きるまで、時間取ってしまったんだろ。早く行こう」

 せかすグレイヴァに、アルテとフィノは互いの顔を見合わせて苦笑し、おもむろに立ち上がった。

☆☆☆

 花畑を後にし、ミーゼに案内してもらってまた霧の中を歩く。

 白い闇が広がるだけなので見慣れた景色はなく、迷ってしまわないようにひたすら歩き続けるしかない。

 突然霧が晴れ、あの精樹が姿を現わした。今度はだいたいの距離感がわかっていたせいか、さっき来た時よりは早く着いたような気になる。

「シェイルフィーア、もう一度教えてもらいたいことがあるんだ。出て来てくれないか」

 グレイヴァの声に、シェイルフィーアはすぐに現われた。

「地を流れる強い力を感じましたが、あれはあなた達がしたのですか?」

「グレイヴァがやった浄化の力、かしら。影響はなくても、ここまで感じられるのね」

 文字通り「地続き」だから、離れていても精樹には感じ取れるのだろう。

「やっぱりみんな、大変なことになってたんです。あの魔物のせいで、花畑の花が全部枯れちゃってて……。でも、この魔法使い達が、みんなを元気にしてくれたんですよ」

 ミーゼが嬉しそうに報告する。

「そうですか。噂は本当だったのですね」

「噂? 俺達のことが妖精の間で知られつつあるのはわかってるけど、何の噂?」

(たぐ)(まれ)な力を持つ魔法使い達だ、と。彼らが来てくれれば安心していいんだ、と聞いていますよ」

「何だか、過大評価をされている気がしますが……」

「枯れた花畑を、全て戻してくれたのでしょう? 生半可な力でできることではありませんよ」

「それをおっしゃるなら、それはグレイヴァの力ですから」

「あれは命優石の力で……ああ、もう。そんなこと、今はどうだっていいんだよ。俺達は、シェイルフィーアに教えてもらいたいことがあって来たんだ」

 花畑はほぼ復活させられたが星花だけが元に戻らず、妖精も力を取り戻せていない。元気にするためには星連石が必要らしいが、誰もある場所を知らない。

 アルテは、そういったことを話した。

「何度か石の泉へは行ってるんですが、命優石が力を吸収していないということは、泉にないということでしょうか。それとも、ぼく達がまだ行っていない泉にあるんでしょうか?」

「断言はできませんが、石の泉にはないでしょうね」

珠虹石(しゅこうせき)も、泉になかったもんな。ってことは、特定の場所にある石ってことか」

「あたし達で取りに行けるような場所かしら」

 妖精界にある、と言われれば。いつもなら困るところだが、今は現在地。場所さえ教えてもらえれば、手に入るはず。

「どこにあるか、ご存じですか」

「星連石は、人間界にあります」

「え……」

 シェイルフィーアの言葉に、グレイヴァ達は目を丸くする。

「花は妖精界にしか咲かないのに、石は人間界なのか?」

 てっきり、妖精界のどこかにあると思っていた。

「花の咲く場所は妖精界ですが、あの花は人間界のものでもありますからね。自然がバランスを取ろうとした結果なのかも知れません。星連石は、聖樹(せいじゅ)のそばにあるはずです」

「せいじゅ?」

 シェイルフィーア以外の誰もが、首をかしげた。

「わたくしも、石のある場所を特定することはできません。どのような形を持つ石なのかも。聖樹の立つ場所へ行けば、わかると思います」

 聖樹は人間界にあるが、普通の人間では入れない森の奥まで行かなければならない。

「そこは、人間界でありながら、妖精界のように人間が行き来するのは難しい所なのです。迷って入り込む人間もいるようですが……そううまく迷うことはできませんからね」

 シェイルフィーアは、ミーゼを近くに呼んだ。

「場所を言います。彼らをそこまで、あなたが連れて行ってあげてください」

「わかりましたっ」

 人間界は初めてらしいミーゼだが、知らない場所へ行けるのが嬉しいらしい。

 風の妖精は、自由を好む。人間を案内するばかりで迷惑に思われそうなものだが、喜んでやってくれているのがありがたかった。

「なぁ、シェイルフィーア。何か条件とかあったりする? 今までにも、そこへ行ってからああしろこうしろって言われて、来る前にちゃんと聞いときゃよかったってことがあったしさ」

「ああ、そうよね。聞くの、忘れてたっていうお間抜けなこと、繰り返しちゃったわよねー。要領が悪いったら」

 余計な時間は取りたくない。わかることは、全部聞いておかなくては。

「さぁ、わたくしには何とも……。聖樹の近くまで行けば、何が必要なのかもわかるでしょう」

 どうやら細かい情報の入手は、ここでは無理のようだ。

 しかし、星連石のある場所がわかっただけでも、十分な収穫と言える。あちこち探し回らず、真っ直ぐここへ来てよかった。

「行きましょっか、魔法使い達。こっちよ」

 ミーゼが先に行き、アルテとフィノが後に続く。グレイヴァも行こうとして、足を止めた。

「シェイルフィーア、身体……何ともないか?」

 魔物の毒に冒されたことを、グレイヴァは思い出したのだ。一応の解毒はできているはずだが、ふと気になった。

「ええ、ありがとう。もう何の心配もいらないわ」

 シェイルフィーアは穏やかな笑みを浮かべながら、うなずいた。

「グレイヴァ、あなたも気を付けてね」

 気遣ってくれる精霊の顔が、全然似ていないはずの母の面影と重なる。

「うん……ありがと。じゃ」

 ずっとシェイルフィーアの顔を見ていると、なぜか少し気恥ずかしくなる。グレイヴァは急いで、アルテ達の後を追った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ