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Episode.93 過去3

僕達が主に生活をする拠点はとある森の中にあった。週に何度か裏へ行くことはあるが、それ以外は全てこの中で過ごすこととなっている。ここでは稽古をつけてもらったり、狩りの仕方や生きていく為の術を学んでいた。


「……………」


「お師匠様、大丈夫かな?」


「ん?」


「最近はああやって、黙って目を瞑っていることが多いから」


「瞑想に決まってるだろ。子供がんなこと気にしなくていいんだって」


「は?凛だって、子供じゃんか!!」


「姉ちゃんと呼びなさい。それにアタシはすぐ感情を剥き出しにするお前程、子供じゃない」


「ぐっ……………」


「心配しなくても何かあれば、話してくれるさ。お師匠様を信じろよ」


「……………うん」


僕は凛に頭を撫でられながらも少し不服そうな表情を浮かべてみせた。こうしている間はいつまでも子供扱いされたままだというのが嫌だったからだ。僕は早く大人になりたい。早く大人になって、僕を捨てたロクでもない大人達を見返してやりたいのだ。


「大丈夫だ。お前にはアタシ達がついてる。だから、そんな顔してないでちょっとは年相応の顔になってみろ……………な?」


「……………うん。分かった」


凛に抱き締められながら肩をポンポンと軽く叩かれる。悔しいけど、僕はこれが好きだった。こうしてもらっていると凄く安心する。余計なことを考えなくて済むし、寂しくない。僕はこの世でひとりぼっちなんかじゃないんだって思える。


「ね〜んね〜ん〜〜ころりよ〜…………」


そうして、凛がいつも歌ってくれる不思議と安らぐ歌を聴きながら僕はこれまた、いつものように眠りへつく……………


「凛、ちょっといいかい?」


「……………お師匠様?」


しかし、今日だけは違った。何故かは分からないけど、僕は今ここで眠ってはいけないと本能で悟ったのだ。


「この間、お前が言ったことだけど……………」


「…………もしかして、塔矢をいつ外の世界に帰すのかって話ですか?」


「ああ」


「…………お師匠様、やはり体調の方が」


「アホ抜かしてんじゃないよ。こっちはまだまだ現役のバリバリさ」


「……………」


「ふんっ。揃いも揃って、子供らしくない面を浮かべやがる……………言っておくけど、あたしの心配をするなんざ、百億年早いよ」


「でも……………」


「でももヘチマもあるもんかい。そんなことよりもお前は自分のことを心配するんだね」


「私のことなら大丈夫です。今の生活だって気に入っていますし、塔矢のことも………」


「ずっと面倒見ていく気かい?それがどれほど現実味のないことか、理解していない訳じゃないだろう?」


「……………」


「ま、いくら姉弟子と言ったってあんた達は本当の姉弟じゃないんだ。法律上の問題はないけどね」


「?」


「何を言っているのか、よく分からないって顔をしているようだから、この際はっきりと言ってやる……………お前、塔矢が好きだろ?」


「っ!?え、ええ。それはまぁ……………仮にも姉なんですし、家族としての愛が」


「……………まぁ、今はそういうことにしておいてやるか」


「……………」


「とにもかくにも、だ。お前達みたいなガキンチョがそう易々と暮らしていけるほど、外の世界は甘くない。それでもどうしてもそうしたいというのなら……………」


そこから先のお師匠様の声は聞こえなかった。ただ、何か重要そうなことを言っている…………それだけは感じ取ることができた。


「……………分かったかい?」


「…………はい」


凛の返事が聞こえた瞬間、僕は眠気の限界を迎えた。そうして僕が次に目を覚ましたのはしっかりと朝日が昇り切った頃だった。どうやら、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたらしい。こんなに長く眠ったのは久しぶりだ。


「しかもかなり気持ち良かったな」


まるで真冬の中、暖かい毛布に包まって寝ているかのような安心感があったのだ。


「……………ん?」


しかし、それもそのはずだった。なんせ僕は誰かに優しく抱き締められながら眠っていたのだから。


「ん?塔矢、起きたの?」


「あ、うん……………おはよう」


「はいはい。おそようさん……………もう少し眠っててもいいんだよ?」


「……………いや、大丈夫」


その誰かというのはすぐに分かった。目を開ければ、目の前にはこっちを柔らかい眼差しで見つめる凛がいたのだった。








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