Episode.91 過去
「ではお前が今ここにこうして生きている目的とは……………」
「俺の生き様を上の奴らに見せつける為だ。そして、分からせてやるんだ……………傀儡のままでは終わらないってことを」
俺は目の前の同級生を見据えて、そう言った。これは嘘でもましてや誇張でもない……………しかし、それが全てという訳ではないのもまた事実だった。
「…………なるほどな。そういうことだったのか」
「……………」
「悪かったな。呼び出して、色々と訊いてしまって」
「白々しいな。本当は悪いなんてこれっぽっちも思ってないだろ」
「ははっ。仮初めの関係とはいえ、三年も一緒にいれば分かるか」
「お前は分かりやすいからな」
「そう言うのはお前だけだ。全く……………"ラプラスの悪魔"として生きるのも楽じゃない」
「だったら、その仮面を取ればいいだけだろ」
「おいおい。ずっとつけてた奴に言われたくはないぞ」
「バレなきゃつけてないのと一緒だ」
「ま、俺にはバレたけどな」
「そうだな」
「随分と余裕そうだな。悔しくはないのか?」
「別に……………そもそもバレなければ、こうしてお前が俺を呼び出すこともなかった訳だろ?だから、いいんだよ。てか、その為にわざと隙を見せてたんだしな」
「かぁ〜!!これは一杯食わされたな」
「……………」
「誘い込んだと思ったら、まんまと術中だった訳か………………で?お前がそこまでしてまでこんな状況を作ったのには何か訳があるんだろ?」
「ああ。訊きたいことがあってな」
俺はそこで居住いを少し正すと改まってこう切り出した。
「お前は一体何者だ?」
「……………」
「俺に対する執着心、裏でも通用するレベルの使い手を複数抱え込む経済力、およそ常人では持ち得ない知識量……………どれもこれもがただの高校生からは逸脱している」
「おいおい。俺の正体には興味がないんじゃなかったのか?」
「ああ。だが、なるべくなら不確定要素は排除しておきたい。俺のモットーは平穏無事だからな」
「はっ。どの口が言うか」
「……………」
「それとお前の言い分には矛盾がある。お前は俺を誘い込んだと言ったが、その時点ではまだお前が俺に関して挙げた三点の事柄について毛ほども感じていない…………というか何も知らなかった。なんせお前は他人に興味がないからな。まずはこの矛盾について答えてもらわなければ、前には……………っ!?」
「……………」
「…………分かったよ。教える。だから、そんな目で俺を見るな」
「そんな目?おかしなことを言うな。俺はいつも通りだが?」
「よく言うぜ。今にも手を下しそうなおっかない目をしてる癖に」
「……………」
「あ〜俺が何者かってことだったっけ?…………そうだな。どこから話したもんか」
「回りくどいのはいい。結論から先に言え」
「…………そうだな。俺も回りくどいのはあまり好きじゃないしな」
そう言うと軽くため息を吐いた目の前の男は少し天を仰ぎ見ると次の瞬間には真顔になり、こう続けた。
「実は俺……………お前の兄なんだ」
「いいかい、塔矢?世の中の連中をおいそれと信用しちゃいけないよ?」
「え、なんで?」
「それはこの世が悪意に満ちているからさ。そして、その悪意は今この瞬間もなお弱者へ襲い掛からんと牙を研いでいる」
「なんか怖いね」
「嘘をつくんじゃないよ。とてもワクワクした顔をしてたじゃないか」
「全く……………私達の育て方が悪かったんですかね」
「はっ。お前もまだ見習いの癖して、一丁前なことを言うじゃないか」
「でも、こいつの姉弟子であることに変わりはないです」
「全く…………この姉弟ときたら。口ばっか達者な馬鹿姉と恐怖にワクワクするネジの外れた弟……………とんでもない姉弟だね」
そう言って、嘆息する師匠。しかし、その顔は言葉とは裏腹に少し綻んでいるようにも見えた。
「それはそうと師匠」
「なんだね、馬鹿弟子」
「塔矢をいつ外の世界に帰すんですか?」
姉弟子がそう質問する。それに対して僕は思わず、ドキッとした。それは恐れていたことだからだ。
「そうさね…………」
「ちょっと!!何勝手に話を進めてるんだよ!!僕は絶対に嫌だよ!!」
「塔矢、ワガママを言うんじゃない。お前だって本当は分かっているはずだ。私達は獣じゃない。こんなところでいつまでも暮らしてはいけないよ」
「で、でもっ!!」
「それに師匠もいつまでこうして一緒にいられるか……………」
「こらっ、凛!あたしはまだまだ元気さ。馬鹿にすんじゃないよ」
「でも師匠」
「でももヘチマもあるもんかい……………安心しな。このあたしがそう簡単にくたばると思うか?」
「そうだよ!!師匠がそう簡単に死ぬはずがないよ!!」
「塔矢、あんたね…………せっかく、こっちが直接的な表現を避けていたのに」
この後、和やかな空気がこの場には流れた。僕はこの暖かい空間が好きだった。ずっとこの時間が続けばいいとさえ、思ってしまうほどに……………しかし、僕のその願いも虚しく、まもなくして師匠は一足先に遠いところへと旅立ってしまうのだった。




