Episode.9 雨降って地固まる
放課後、帰り支度をしていると美鈴に話しかけられた。曰く、静と光と寄りたいところがあるから今日は一緒に帰れないとのことだった。高校生になってからは美鈴と二人で光が入学してからは三人で帰ることが多かった為、一人は久々だった。いつもとは違うこの状況に俺は少しワクワクして、気が付けば図書室へと向かっていた。もしかしたら、玲華との再会がそうさせたのかもしれない。中学時代、彼女はよく図書室にいたからな。
「「あ…………」」
と、そんなことを考えながら図書室内を歩き回っていると本棚のところに玲華がいた。どうやら向こうも同じタイミングで俺の存在に気が付いたらしい。俺達はどちらともなく歩み寄った。
「塔矢先輩も図書室に来てたんですね」
「ああ。ちょうどお前のことを考えていたら、行きたくなってな」
「わ、私のことを!?」
「ん?」
「い、いえ……………あの…………学食ではすみませんでした。せっかく誘って頂いたのに空気を悪くしてしまって」
「いや、俺は全然……………まぁ、なんつーか、その日の気分とかってあると思うんだよ。だから、あれは誰が悪いとかじゃないと思うぞ」
「……………」
「それでも気になるっていうのなら、謝るべきは静達にだな。そして、その時は向こうにも謝ってもらって、仲直りすればいいと思う……………多分だけどさ、玲華と静達は気が合うと思うんだ。だから、できれば静達と仲良くして欲しいと俺は思ってる」
「……………はい」
「よし。んじゃ、気を取り直してこの後はファミレスでも行こうぜ。俺が奢ってやるから」
「え、ええっ!?い、いやっ、それは悪いです」
「いいからいいから。美味いもんでも食えば、スッキリするだろ」
「……………ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
「おぅ!!」
で、何でこうなるんだ!?
「どうしたんですか、皆さん?どうぞ三人で楽しくお喋りを続けていて下さい。私は塔矢先輩と"二人"で過ごしますので」
現在、ファミレスのテーブルでは絶賛修羅場中だった。俺達がファミレスに着くと偶然にも静達三人が何やら楽しそうにお喋りしていた。俺は嫌な予感がしたので気が付かないフリをしようと思ったのだが向こうがこちらに気付いてしまい、こうなってしまったのである……………ってか、玲華。何故、"二人"の部分を強調する?
「あら、そう。ごめんなさいね。"初めて"塔矢と来たのを邪魔しちゃって。ほら、私は"何度も"塔矢と来ているから、つい癖で呼んじゃったのよ」
「幼馴染みならば当然のことをドヤ顔で語られても困ります。それにそんな何回も来れる関係なのにそこから先は全く進展していないんですね」
「ぐっ…………」
「依代さん。付き合いが長いということはそれだけの時間を共にしているということ。それだけでどれだけのアドバンテージがあるか、お分かりですか?」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ……………最近、転校してきたばかりの先輩にね」
「ぐっ…………」
うわ〜……………玲華の口の強さは変わってないのか。ってか、中学時代もこういうところが原因でよく一人でいたんだよな。
「………………静さん、美鈴ちゃん。もうよそうよ。本当はそんなことが言いたいんじゃないでしょ?」
「「…………」」
「光、どういうことだ?」
「実はさっきまで私達が話してたのは依代さんのことなの」
「へ?」
「学食ではキツく当たりすぎちゃったって。謝って仲直りしたいから、どうすればいいのかって相談を受けてたんだよ」
「「っ!?」」
光の言葉に顔を赤くする二人。それを見て、同じく顔を赤くする玲華。俺はさっき図書室でした会話のことを思い出していた……………ふっ。なんだかんだ言っても似たもの同士なんだな。
「玲華」
「っ!?………………はい」
俺に促されて背筋を伸ばす玲華。その表情はとても真剣なものだった。
「先輩方、そして光さん……………学食の時はすみませんでした」
言葉と同時に頭を下げる玲華。それを受けた二人も慌てて同じようにした。
「私の方こそ、すみませんでした。随分と余計なことを言ってしまって」
「ごめんなさい。私もかなり突っかかっちゃって………………あとは廊下での件もね。言い訳なんだけど、他のことならいざ知らず、塔矢が絡んでるとどうしても気になっちゃって」
「分かります、その気持ち。私もあの場にいたら、きっと同じことをしていますから」
「分かる!?何よ!あんた、とっても良い子じゃない!!ね?静!!」
「ええ。依代さんが話の分かる素敵な方で嬉しいです」
「あ、私のことは名前で呼んで下さい。そ、それで…………ですね。私も皆さんのことを名前でお呼びしたいのですが」
「な、何この子!?」
「か、可愛いです!!」
「うん。分かったよ、玲華」
雨降って地固まるとはこのことか………………俺はさっきとは打って変わって楽しそうにお喋りするみんなを見て、ホッと一息ついたのだった。