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ヤクソク〜交わしたのは誰と〜  作者: 気衒い
第一部

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Episode.87 北風

「久しぶり」


「……………」


「まぁ、とはいっても教室で顔ぐらい合わせるし、そんなこともないか」


「…………何の用?」


「冷たい対応だな〜……………少し前まではあんなに親友だったのに」


「……………」


「別に今日は謝りに来たって訳じゃないよ?だって、あの日のあれは私が悪いとは思ってないし」


「…………そんなの私だって同じよ」


「ふふっ。相変わらずだな〜…………」


「……………」


「でも、無視はしないでいてくれてるからマシか」


「そんなの…………できっこないよ。だって、相手は玲華だから」


「光…………」


「一応、親友な訳だし」


「………"だった"じゃないの?」


「それは…………仮保留」


「ふふっ、なにそれ」


「そのまんまの意味。仮の保留」


「どんだけ保険かけるのよ」


「だって、まだ繋がりを消したくはないし」


「でも、謝らないんだ」


「謝れない、ね」


「まぁ、そこはお互いに譲れない部分があるから、致し方ないとして」


そこで一旦言葉を区切った玲華は下を向くと徐にこんなことを言い始めた。


「光さ……………ここで静先輩と何を話してたの?」







それは玲華に声を掛けられるどのくらい前か……………私は静先輩に屋上へと呼び出されていた。


「お久しぶりです」


「ご無沙汰しております…………その後、経過の具合はいかがですか?」


「はい。ギプス生活にもようやく慣れてきたところですかね。まぁ、松葉杖じゃ行動範囲なんて、たかが知れていますが、幸いなことにそこは周りの人がサポートしてくれています」


「そうですか。それは何よりです」


「……………」


「完治にはあと一週間程が必要なんでしたっけ?」


「はい」


「なるほど。それはさぞかし残念なんでしょうね…………治ってしまうのが」


「…………はい?」


「あ、よく聞こえなかったですか?ではもう一度言いますね……………治ってしまうのはさぞかし残念なことでしょうね」


一瞬、聞き間違えたかと思った。この人は一体何を言っているのだろう。


「何を言っているんですか?治るに越したことはないでしょう?」


「一般的にはそうですね。でも……………あなたにはそれが当てはまらない」


「面白くもない冗談はやめて下さい。日常生活がどれほど不便か、健康体がどれほど幸せなことか、あなたには分からないでしょう?それに周りの人にだって迷惑をかけてる……………だから、私は一日も早く治さなきゃいけないんです」


「……………何で嘘をついてるんですか?」


「は?」


「何で()()()()()()()()をついてるんですか?」


「っ!?」


「その反応……………やっぱり」


「…………カマをかけたんですか?」


「いいえ。あなたが一人でここに来れた時点で疑念は確信へと変わっています。だって、骨折なんてしていたら来れる訳がないでしょう?」


「誰かに支えてもらいながら来たかもしれないじゃないですか」


「誰か?それはおかしいですね。光さんのご学友は今日、用事があって早く帰宅なさり、親友であるはずの玲華さんとは現在、仲違い状態。それに私に呼び出された時点で何か大切な話があるということは察していますよね?だったら、あなたの場合は塔矢さんや美鈴さんへは黙ってここへ来るはずです。万が一、色々と突っ込まれたらバツが悪いですからね」


「……………」


「今、楽しいですか?」


「楽しい訳ない……………私だって!!」


「罪悪感で一杯ですか?だとしたら、覚悟が足りないですね。そんな思いをしてまでせっかく手に入れた日々なのに楽しまないのは損ですよ」


「……………」


「あなたは必死だった。塔矢さんの側に常にいられるのは自分だけだと思っていた……………そんな時だった。塔矢さんの周りに次から次へと魅力的な異性が現れ始めたのは」


「っ!?」


「私を含めた彼女達はあなたにとって、さぞかし脅威だったでしょう。なんせ、いつ塔矢さんを取られてもおかしくはない。その上、自分は妹…………勝ち目があるはずがない、と」


「っ!?そうだよ!!そう思って何がいけないの!?私は妹であなた達には一生勝てなくて…………でも、妹だから、妹だからこそ、いつも側にいられる」


「………………」


「その特権はかなり嬉しかった……………でも、常に不安だった。だから、お兄ちゃんがあなたと二人きりで別荘に取り残されたって聞いた時は血の気を失うかと思った」


「随分と弱い身体なんですね」


「何を余裕こいてんの?大体、あんたがこの街にやってこなければ、こんなこと考えなくて済んだのに!!……………嘘なんかつかずに済んだのに」


「なるほど。それが理由ですか」


「そうだよ。骨折したなんて言えば、お兄ちゃんは私だけを見てくれるし、心配してくれる……………そして、お兄ちゃんの側にいられる」


「歪んでますね」


「あんたがいけないんでしょうが!!あんたが…………あんたが婚約者として、お兄ちゃんの目の前に現れなければ、全て上手くいったのに!!」


「やはり、そこまで知っていらっしゃるんですね…………てか、何がどう上手くいったんですか?どう足掻こうとあなたと塔矢さんは兄妹。どうもなりませんよ」


「そんなの……………」


「ああ、はい。どうせ、あれでしょう?私のは妹として兄を敬愛している…………いわば、ブラコンを拗らせたとでも言いたいのでしょう?」


「あんたにそう言われるとムカつくけど、そうだよ」


「まぁ、当然ですね。だって、兄妹で愛し合うなんて普通じゃない。もし、そっちの感情が少しでもあるのだとすれば…………はっきり言って、気持ち悪いです」


「…………本当にはっきり言うのね」


「ん?だって、問題ないのでしょう?なんせ、あなたの感情は妹として兄に向けるものなのだから」


「それはっ!!……………そうだけど」


それから真意の読み取れない表情の静先輩は少し下を向いた後、ゆっくりと顔を上げるとこう言った。


「じゃあ、電話口でのあの言葉もそういう意味ではないんですね?」


その瞬間、この日一番の北風が私の身体を冷たく打ちつけたのだった。








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