Episode.80 明かす
「亡くなる……………?」
「ええ。どうやら、不治の病らしく、もってあと一年とか」
「嘘だろ…………現代医療ではなんとかならないのか?昔と違って今だったら、ある程度の病は治せるはずだろ」
「確かに医療は日進月歩です……………でも、どうやら、その速度が足りなかったらしいです。少なくとも私が生まれたこの時代では今の私を完全に治すことは……………」
「……………」
「あっ、勘違いして欲しくないんですが、お医者様達には大変よくしてもらっています。そもそも私がここまで生きられたのだって、そのお医者様達のおかげなんですから」
「だが、何事も命あっての物種だ」
「……………」
「なんか俺にできることはないか?ほら、民間療法的なものでもいい…………何か縋るものがあれば、今は手段なんて選んでいられないからな」
「民間療法なら、さっき試しました」
「さっきって……………お前、まさか」
「ええ………………普通に考えていないじゃないですか。あんな猛吹雪の中を身一つで進んでいく人間なんて」
「っ!?お前は馬鹿か!!あんなことして一体何になるっていうんだ!!下手したら、あそこでどうにかなっていた可能性だってあるんだぞ!!」
「そんなの……………そんなの私だって分かっていますよ!!」
「静……………」
「でも、塔矢さんだって今言ってくれたじゃないですか……………何か縋るものがあれば、手段なんて選んでいられないって」
「それは……………だけど、お前」
「私だって、自分で何やってるんだろうって思ってます。でも……………でもですね?私には余裕がないんですよ。それこそ、試せること全て試したいぐらい……………どうやら、私にも人並みにあったみたいです」
「…………何がだ?」
「………生きたいって…………死にたくないっていう欲望が」
「それは当然だ。人間の本能だからな……………そして、この世に生まれてきた全ての人間には生きていく権利が……………幸せに生きていく権利がある」
「……………少し前にとある記事を読んだんです。病に侵され、余命いくばくもない人が最後の想い出にと訪れた場所で奇跡的な回復力を見せ、最終的には完治した、と」
「……………まさか、ここがその?」
「ええ…………なんの因果か、私の別荘の近くだなんて」
「だから、ここに来たのか…………おかしいと思ったんだ。いくら余裕があるとはいえ、三年のこの時期にこんな真似は普通ならしないはずだからな」
「……………多分、不安だったんでしょうね。急がないと。いつどうなるか分からないって……………無意識のうちに塔矢さんにまで声を掛けてしまうぐらいですから」
「それで俺を誘ったのか」
「すみません。私の事情に巻き込んでしまって……………ただ、分かって欲しいのは決して助けて欲しいとか、心の支えになって欲しいとかでお声掛けした訳じゃないんです。ただ、私が実際に行動に移るまでの間、一緒にいて欲しいって……………勇気を分けてもらいたいって、そう思ってしまって」
「……………」
「すみません。こんなつまらない話を長々と」
「…………つまらないなんて、そんなこと言うなよ」
「なんか湿っぽくなっちゃいましたね………………私なら、大丈夫です。だって、あと一年も生きられる訳ですから」
「静……………」
「もしかしたら、塔矢さんにお声掛けしたのは不安だったからだけではないのかもしれません。最後に塔矢さんと想い出作りがしたかったのかも」
「最後なんて言うなよ。受験が終われば、春休みがやってくる。その時にみんなでどこかに行けばいいだろ」
「いえ……………正直、このままの状態でダラダラと月日を進めていくのは私の性分に合っていません。だから、ここではっきりさせときたいんです」
「?」
静はそこでゆっくりと深呼吸をすると小さくだが、はっきりと聞こえる声でこう言った。
「あなたと…………そして婚約者である私の関係を」




