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ヤクソク〜交わしたのは誰と〜  作者: 気衒い
第一部

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76/94

Episode.76 息

「すまないな。突然こんなところに呼び出して」


「いえ、全然」


とある日。俺は綾乃さんから話があると言われ、自宅近くの公園にやってきていた。こうして会うのはあの一件があって以来なので俺としては何を言われるのか、気が気じゃなかった。


「まずは先日の件なんだが………………すまなかった!!」

 

「…………綾乃さん?」


会って早々、深々と頭を下げてくる綾乃さん。正直、あの時の俺の行いは手放しで褒められたものではない。最悪、一人の…………いや、場合によってはあの場にいた全員の武道家人生が終わってしまうかもしれなかったのだ。だから、当然ひどく罵倒されるものだとばかり思っていた。それが一体どういうことなんだ?


「あれは双方同意の元で行われた戦いだった。そこへ第三者である私達は口を挟み、君をひどく罵倒した。そればかりか、戦い自体に介入してしまうおそれまであった」


「………………」


「君は私達の要望通り、忙しい勉強の合間を縫って、わざわざ来てくれたというのに私はそれを考えもしなかった。その結果、私は感情のままに突っ走ってしまい……………お父様に止められていなければ、一体何をしていたか」


「綾乃さん……………」


「だから、本当にごめんなさい!!私は君も…………そしてお祖父様のことも傷つけてしまった。それが私としては許せず、今になりこうして謝罪させてもらっているのだ」


「それは……………律儀というか、なんというか」


「いや、こんなのは当たり前のことだ。君の立場からしたら、あの一件で得られたことなど何もない。メリットがあったのはこちらだけ……………現にお祖父様はあれ以降、凄い張り切っていてな」


「なんか嫌な予感……………」


「君と再戦したくて毎日欠かさず、稽古しているよ。加えて現場にも復帰してな、今は師範代の席に座っている」


「いい加減引退しろよ…………」


「近々、君を呼んでくれと言われたよ」


「迷惑な話だな」


「私としてはあのお祖父様にそこまで言わせる君の存在が羨ましい……………でも、君にとってはそんなことどうでもいいのだろう。私も父も当然、お祖父様だって、君の視界にすら入ってやしない。それほど君の実力は常軌を逸していた……………私が今まで学んできたことはなんだったのか、武道家とは何か考えさせられたよ」


「………………」


「一つ訊いてもいいかな?」


「…………内容次第では」


「君はそれほどの力を一体どこで手に入れたんだ?私と一つしか歳が違わないのにどんな武道家すらも凌ぐような力を手に入れるのは並大抵の修行では不可能だ……………それこそ、日常から戦いの場に身を置いているような環境下でなければ」


「それは……………」


「それは?」


「お答えできません」


「…………やはり、そうか。何かしら事情があるのだろうな。悪いな。変なことを訊いて」


「いえ」


「ではもう一つの質問については答えてもらえるかな?」


「もう一つ?」


「ああ。それはな……………」







「本日はようこそおいでくださいました」


使用人が温かい笑顔と共に出迎えてくれる。ここは雪原の中に位置する大きな別荘地だった。十二月に入り、本格的な寒さが身を凍らせる中、俺はというととある人物の誘いで県を跨いだ遠い地へと足を運んでいた。


「塔矢さん?」


そのとある人物とは何を隠そう、皇静…………深窓の御令嬢であった。隣で可愛らしく小首を傾げているお嬢様から、"別荘へ行かないか?"と誘いがあったのはつい先日のことだ。


「塔矢さん………私、そんな言い方してないですよ?"今度、別荘へ行こうと思うのですがよろしければ塔矢さんもいかがですか?"とは言いましたけど」


「まぁ、細かいことはどうだっていいじゃないか。お互い、日々の辛い勉強を味わう者同士、今日はゆっくりと羽を伸ばそう!」


「私、別に勉強嫌いじゃないですよ?」


「静……………お前はいつから、他人の揚げ足取りが趣味になったんだ?自己紹介の時に言うのか?"ワタシハ、ヒトノアゲアシヲトルノガシュミデス"って」


「そんなこと言ったら、間違いなく私だけ輪から外されますよね?あと私にカタコトのイメージは流石になかったです」


とこんなくだらないやり取りを行うのも随分と久しぶりに感じる。そりゃ、通っている高校もクラスも一緒なんだ。挨拶や軽い雑談くらいならば、いつも交わしている。しかし、こうやって気を抜いて冗談を言い合うなんてことはしばらくなかったのだ。現実から目を逸らしがちだが、俺達は高校三年生。人生の分岐点に立っているといっても過言ではないところまで来ているのだ。


「にしても静がこんな大事な時期にこんなことするなんてな」


「意外ですか?」


「ああ…………今は勉強をサボりがちな奴だって必死になっている時期だ。俺も含めてな」


「……………」


「まぁ、静の成績だったら、どこへでだっていけるしな……………そりゃ、余裕も多少あるか」


「いえ。今回のはただの…………」


「ただの?」


「…………息抜きです」


そう言って、冗談めかして笑う静。しかし、ここで後に起きる出来事がただの息抜き程度で済むはずがないことは明白なのだった。





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