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Episode.70 親友

「……………」


「確かな筋からの情報です。先輩は彼の為にわざわざ空港まで行って見送りまでしていますよね?」


「……………ああ」


「………やっぱり」


「嘘をついて悪かった。ただ一つ言い訳をさせてもらえるとするのなら、玲華はほら…………元婚約者のことで色々と嫌な思いをしただろ?だから、そいつと俺が会うなんて言ったら、また嫌な思いをするのかなって…………裏切ったとか勘違いをされても困るしな」


「気を遣ってくれたんですか?」


「まぁ、こんなデリカシーのない俺でも一応な」


「先輩はデリカシーがない人なんかじゃないです。先輩は……………とても優しい人で………私はそれをよく知っています」


「急に褒めるなよ。調子狂うだろ」


「私、先輩の困ったような顔って結構好きなんですよね」


「おい」


「ふふふ……………冗談はさておき、別に裏切ったとかは思わないですよ。結局、そうするってことは先輩の中で何かしらの考えがあってのことだと思うんで……………私、今回のことで先輩が意外と頭を使うタイプなんだってことが分かりましたから」


「玲華さん?それまでは俺のことをどんな風に思ってたのかな?詳しく知りたいな」


「え?言いたくないですけど」


「正直だな、おい!」


「ふふふ」


「全く…………あ、そういえば俺からも質問があったんだ」


「何ですか?」


「光とはあれから会ったか?」


俺のこの質問に対して、一瞬俯いた玲華はしかし、次の瞬間には笑顔になりながら、こう答えた。


「いいえ。会わずにいて気付いたら、今日になってました」








「どうしたの?こんなところに呼び出して」


「………うん。明日から夏休みだから、その前に話しておきたいことがあってさ」


「話しておきたいこと?」


「…………光ってさ、改めて考えると本当に凄いよね。明るいし、優しいし、光の側にいるといつも心が温かくなる…………おまけにあんなに強いなんて知らなかったよ」


「ちょっと〜この間の続き?もうやめてよ〜」


「ごめんごめん。でも、やっぱりそう思ったから、つい…………」


「なんか褒められると調子狂うんだよな〜…………まぁ、いいけど」


「本当に光は全てひっくるめて凄いと思う……………だから、かな?どうやら、光にはまだ私の知らない顔があるみたい」


「玲華?」


「そして、私にはどうもそれが許せないみたいなの…………ねぇ、光?私に一体何を隠しているの?」


「玲華、どうしたの?様子が変だよ」


「私達、親友だよね?なのに何で隠し事なんかするの?」


「別に私は隠し事なんか……………それに誰にだって隠し事の一つや二つはあるでしょ?」


「ううん。だって、私にはないもん」


「そんな訳ないよ!玲華だって私に隠し事してるじゃん」


「例えば、どんなこと?」


「そ、その……………好きな人とか」


「あれ?言ってなかったっけ?」


「ほ、ほら!!玲華だって言ってないことあるじゃん!!」


「……………」


「で、でも別に玲華のこと嘘つきとか言いたい訳じゃないよ?…………まぁ、仮に今ここで玲華が自分の好きな人を言ったら、隠し事なんかないも同然になるけど、そんなのできっこない…………」


「…………先輩が好き」


「へ?」


「私は塔矢先輩が好き…………初めて会ったあの日から、広い世界へと連れ出してくれたあの腕が好き。いつも私のことを気にかけてくれて、揶揄ったらなるちょっと困ったあの顔が好き。そして……………私のことを守ってくれたあの背中が好き」


「玲…………華…………」


「ほら。私には隠し事なんてないでしょ?」


「そ、そんな…………そんなのってないよ!!そんなのずるいよ!!」


「何?別にずるくないよ?光が言ったんでしょ?今ここで好きな人を言ったら、隠し事してないも同然って」


「それは………だけど!!やっぱり、ずるい!!」


「……………」


「ずるい…………ずるいよ……………玲華ばっかり………お兄ちゃんにあんなに気にかけてもらって……………優しくしてもらえて……………だから、私は」


「私は?」


「私は!!あの日、玲華を誘って放課後を一緒に過ごしたの!!玲華の悩みが不安がなくなれば、もうお兄ちゃんが玲華のことを気にかけることはなくなるから!!私がお兄ちゃんに代わって玲華を見ていようって」


「そうだったんだ……………やっと違和感がなくなったよ。あの日の光はどこかおかしかったから」


「玲華ばっかり、お兄ちゃんを独り占めしてずるいもん!!…………大体、何?去年の夏もだけど、どんだけ自分の家の事情に他人を巻き込めば気が済むの?一人じゃ何も解決できないのかよ!!」


「極度のブラコン馬鹿に言われたくないよ。あんた、自分の言ったこともう一度思い出してみな?その歳でめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってるから」


「そ、そんなのあんたに関係ないじゃん!!」


「だったら、それはこっちも同じ。先輩は自ら進んで私のことを助けてくれてるの。だから、これは私と先輩の問題なの。あんたは関係ないでしょ」


「あんたと一緒だとお兄ちゃんの帰りが遅くなるの!!私からお兄ちゃんを取らないでよ!!こっちは二人暮らしなんだから!!家がとても広く感じるんだから!!」


「こっちは一人暮らしなんですけど?てか、私の家の方が広いし…………文字通りに」


「それ嫌味のつもり?てか、話戻るけど、"私を守ってくれた"?は?お兄ちゃんが守ってくれたのって私なんですけど!!」


「いい加減、兄離れしたら?こんなのが四六時中、一緒とか先輩可哀想…………トイレとか行く度に付き纏ってきそう」


「そんなことしないわ!!あんたこそ、お兄ちゃんに愛想尽かされたからといって、家の周りをウロウロしないでよ」


「まだ愛想尽かされてないですけど〜?」


「は!?なんなの、その言い方!!むかつくわ!!」


そこからも私達は一向に熱が収まることはなく、挙げ句の果てには取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまった。それでそうこうしているうちに見回りの先生に見つかった私達は先生の仲裁を経た後でこっぴどく叱られた上に夏休みの宿題を追加で出されてしまったのだった。


「光……………夏休みは明日からだぞ?」


「だな!アタシ、ワクワクすっぞ」


「まぁ、お前がそれでいいなら、いいけど……………あまり心配させるようなことするなよ?」


そして、家に帰りつき制服が汚れてしまった私はお兄ちゃんに対して、"童心に帰りすぎていたら、汚れた"と嘘の言い訳を並べた。


「……………」


その後、手を洗い、エプロンを付けた私はリビングにいる愛しい人の背中を見つめた。と同時にこの人にだけは心配をかけたくない……………でも、気にはかけて欲しいという矛盾・葛藤が心の中で生まれていることに気が付いた。はて……………昔はここまで思っただろうか……………なんだか、最近は特に焦りが凄いような気がする。たぶん、いくら自分が妹という存在で誰よりも近くにいられるとはいえ、それもせいぜい兄が結婚するまでの間という風に考えているせいだろう。それもこれも去年の春から、兄の周りに凄く魅了的な女の子達が増えたせいだと思う。


「お兄ちゃんはどんな人を選ぶんだろう…………」


そんなの決まってる。それはきっと綺麗で気立てが良くて笑顔の素敵な人だろう。そして、兄もその人のことを心の底から愛し、その人のことを四六時中想って、それで…………この家を出て行ってしまう。そうなると心の距離だけではない。おそらく、物理的な距離まで離れてしまうことだろう。


「ん?……………おいおい。どうしたんだ?今日は随分と甘えん坊さんだな」


「ごめん…………夕飯なら、すぐ作るから……………だから、あとちょっとだけ、こうさせて」


私は胸の内にできたどうしようもない不安から目を背けるように兄の逞しい背中に抱き付いた。いずれ兄が自分の側からいなくなってしまう……………そんな日が訪れるまでの時間を一分一秒たりとて無駄にしないように……………







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